都内でオンリーを開催するならともかく、地方でオンリーを開催する事は非常に大変な事である。
サークル数にしても、都内なら普通50〜80sp前後、旬イベントならば100〜300sp集まる事もある。一般参加数の算出は難しいが、概算でsp数の4倍しておけばほぼ間違いは無い。男性向けならアイマスの200spが突出しており注目の的だし、女性向けならSEEDオンリーが4桁だったり、D-Graymanやおお振りのオンリーが500sp越えたりする等、旬イベントになればなるほど、下手なオールジャンルよりも規模の大きいイベントが登場する。

これが地方(ここで言う「地方」の定義は都内以外全てとお考えを)になると、人口が少ない事もあり、都心のように上手くサークルが集まらない。
上記で挙げたような旬ジャンルでも50sp前後(東方まんがまつりの122spは異常というか例外というか神レベル)、マイナージャンルになると10sp台も珍しくない。
サークルを集めるのにも並大抵の努力が無いと、(特に「地方」で「マイナージャンル」になると)サークル数0でイベント開催不可能な状態にも成りかねない。
一般参加も、sp数×3ぐらいが目安となろう。

福岡で開催された2ちゃんねるオンリー「ジサクジエン」は、常にこの危機と戦ってきたイベントである。
このイベントは、2003年の冬、2004年の冬・秋、計3回開催された。
そもそも2ちゃんねるジャンルは、コミックマーケットでも20サークル程度。12,000sp/日というコミケの状況を考えると、超のつくマイナージャンルである。
「2ちゃんねる」という世間的に注目を集めやすいポジションにいるため一般参加率は高い(sp×10くらい)が、活動サークルの絶対数が少ない為、サークルを集めるのが非常に大変である。
同イベントは、九州島内は無論、東京や大阪等大都市圏に出ての精力的な宣伝を図り、徹底した宣伝活動を行った。イベントにも顔を出し、店舗にチラシも置いた。
2ちゃんねるらしく、ネット上や2ちゃんねる上でも宣伝を行った。
以前取り上げた、ラグナロクオンリーを福岡で成功させた実績を持つ「ProjectArbarest」のスタッフより、イベント運営ノウハウが伝えられた事もプラス材料であった。
しかし、それでやっと15〜20サークルが集まる、という具合である。
元のジャンルサークル数の少なさを考えると、この数値は大健闘と言えようが…。

しかし、いかに会場代が3万だ6万だ安価とは言え、サークルが15〜20程度しか集まらないのならどう考えても赤字間違いなしである。
(サークルsp参加費用は1sp1,500円が九州の相場だが、明らかにサークル費用で会場費用を賄い切れない)
一般だって来てせいぜい70〜100人程度であり(これでも地方のイベントでは健闘している方、普通の地方イベントは50人前後もザラ)、赤字を埋めるほどの収入にはならない。
会場代以外にもチラシ代やパンフ印刷代、備品代・空調代その他諸々の出費が要る事を考えると、どこをどう考えても赤字である。サークル・一般参加数から見積って、1回開催毎に5〜10万位の赤字が出そうな雰囲気である。
(地方イベントは多かれ少なかれ皆そうだが)慢性的な赤字構造のイベントである。


普通、イベントの赤字は主催が全額持つものである。
こんな赤字イベント、主催一人の財力では中々持ち堪えられるものではない。しかし、何故ジサクジエンはこれを3回も継続できたのか。
それは、ジサクジエン独特の財政制度「積立金制度」にある。

ジサクジエンは、スタッフ数名が、月に2000円だか4000円だかを「運営費」として何ヶ月か積み立てている。この積み立てたお金が、会場代支払、パンフ・チラシ印刷代等、イベントを運営する上で必要な出費に充てられる。
当日、一般参加費用や公式グッズ販売収入(※)などの若干の収入が入り、後で収支を計算する。全ての収支が片付いた後、残った費用を積み立てた金額に比例してスタッフに分配する

無論、通常赤字ゆえ、最後に分配される額は当初の積み立て額より目減りする。
しかし、仮に6万円の赤字だったとしても、スタッフ8人がいれば目減りする金額も八等分、一人当たりが被る赤字額は平均7,500円。スタッフ全員で赤字を分け合うという方式の為、個々の負担は非常に軽くなる

※会場内ではイベントスタッフが「公式グッズ」と称して「ジサクジエン飴」等ジサクジエンにまつわるグッズを販売。良い物が多く、売れ行きもそれなりに良い。

また、この方式はキャッシュフローの面からも有利である。
即売会というもの、会場代など先行投資すべきに費用が多いのに対し、それを取り戻すべき収入は当日の一般参加費用徴収を待たないといけない。赤字になれば投資を取り戻せもしない。
個人主催の場合、多額の費用の投資を一人で行わねばならず負担が大きい。しかし、積立金制度だと、それを複数人数で分担できる為、キャッシュフロー面でも負担が軽減される。月額2000〜4000円と個人のおこづかいで負担できる範囲内に収まっている点、参加がし易くなっている。

主催以外の各スタッフの、イベント参加に対するモチベーションを上げる効果も見逃せない。
スタッフは通常お手伝い、言わば外部からの傭兵部隊である。イベントの運営業務自体はそつなくこなすであろうが、モチベーションがあるかどうかとなると疑問符である。義理で嫌々やっているケースもあろう。
しかし、スタッフ各自がお金を出せば、自分のお金が運営に使われていくわけである。自然にそのお金の使い道に興味・関心を持つであろうし、それは運営そのものへの関心に繋がっていく。
イベントを黒字化し成功させれば、自分の積立金は全額戻ってくるし、黒字額も分配される。自然にイベントに対する興味関心は高まり、イベントの運営に積極的に関わるようになるわけだ。

言わばこの制度、主催ならびにそれを取り巻くスタッフの共同出資と言えよう。
しかし、それゆえに短所も見逃せない。長所と表裏一体である。

(1)責任の分散化
 →多額の金銭負担が、主催責任の自覚を促している。
  金銭負担の分散化は、責任自覚の薄まり、或いは責任の分担にも繋がる。

(2)会計の明朗化義務
 →NPO法人ほど厳密に公開する必要はないが、出資金の返還義務が生じる以上、出資スタッフには会計を明朗化・公開しないといけない。主催一人での活動ならば「出費は全て自分のお金」ゆえ、会計報告などしなくとも済むが、他人様のお金を預かっている以上、収支を明朗にしないといけない。ちょっと面倒臭い。

(3)船頭多くして何とやら
 →月2,000円の費用で簡単に主催になる事が出来るシステムは、非常にお手軽である。だが、それゆえに「誰でも加入できる」危険性も有する。人数が増えすぎスタッフ間の意見がまとまらなかった時だとか、派閥が生まれた時とか、主催としての動きが滞る危険性もある。(幸い外から見る限り、そのような事態は発生していないようだが)

以前述べた「あるばれすと」もそうだが、多数の人間からお金を募る場合は、「誰でも新規参加できる」危険性がある。
主催の考えに賛同しない人間が会員(スタッフ)に多数なった場合は、数の論理で、自分が主催から下ろされる事もある
この危険性を認識する事は、もしあなたが主催をし、かつ「あるばれすと」ないし「ジサクジエン」のような形式で多数から資金を集めようとするのであれば、充分注意を払わねばならないであろう。

このように、積立金制度にはメリット・デメリット双方がある。
しかし、どこをどう考えても赤字の、マイナージャンルしかも地方開催のオンリー「ジサクジエン」が、ここまで継続して開催する事ができたのは、この積立金制度により安定した財源が確保できた、という点が大きいであろう。
スタッフが常時5〜10名程度いたようであり、スタッフの頭数が揃っていた事も大きい)

なお、これは余談だが、この制度は「地方のオンリー」だから成功した側面がある。
都内のオンリーは、数十万単位で会場費などの諸費用を捻出せねばならない。積立制を行うにしても、揃える頭数が地方の数倍、何十人単位で必要であり、非現実的だ。
(一人の主催が半額持ち、他のスタッフの積み立てで残り半分を受け持つなんて方法もあるが)
また、特に男性向けオンリーはそうだが、主催・スタッフが様々なイベントを掛け持ちしている(というか横の繋がりが凄いからそんなのばっかw)
もし仮に複数の主催団体がこの制度を導入したら、たぶん複数のイベント(場合によっては10個以上のイベント)の積み立てを掛け持ちするスタッフが出てくるのではないかという気が。
東京の、特に都産の世界では馴染まないスタイルだと思う。あくまで財政的に絶対赤字確定の地方イベントだからこそ活きるシステムのように思う。

さて、2006年2月12日、福岡「ももちパレス」にて事実上の「ジサクジエン」の後継イベント「毒を喰らわば皿まで」が開催される。
毒皿の主催氏は、旧来の2chイベントにない新しい概念のイベントを開きたい。と2004年秋の「ジサクジエン」終了後、主催に名乗りを上げた。その概念がどこまで実行出来たかはともかく、新イベント開催にあたり「自分は素人主催なので」と、過去3回の開催経験を持つ「ジサクジエン」のスタッフ諸氏に助けを求めた。
ジサク以上にノウハウを有する「あるばれすと」にもアドバイスを求めたようだ。

ジサクジエン独特の財政制度が、「毒皿」でも導入されたかどうかは判らない。
しかし、毒皿は今回10ちょいのサークル参加しかない。一般はそれなりに来るだろうが、100人越える事は無いだろう。ジサク以上に赤字の筈だ。
もし仮に毒皿が、今後ジサクの後継イベントとして継続開催を目指していくのであれば、この積立金制度を維持されているかどうか、それが継続の鍵になるであろう。

・・・もし、イベントが継続できないとしてもそれは仕方ない。
九州のオンリーは、皆一回やって息切れ、2回目以降の開催が無いのが通例だ
(何処も激しく赤字だし)
それが4回も、しかもマイナージャンルで足掛け4年にわたって継続できた事、これは同人世界において奇跡にも近い健闘なのかもしれない。
今回が最後かもしれないんで(ジャンルも衰退してるしそれっぽい感じがするので、一応最後じゃないかと推測して)こう言っておこう。

お疲れ様、そしてありがとう、ジサクジエン&毒を喰らわば皿まで。

・・・次開催できたら自分の推測大外れですけど、その方が望ましいですかねw