一度落ち込んだジャンル、斜陽に入ったジャンルが復活する事は、非常に難しい。
斜陽に入ると、せっかくオンリーを開いても10とか20とか(或いはそれ以下)、極めて少ないサークルしか集まらず、寂しい即売会になってしまう。
即売会がそうなれば、主催も多額の赤字を抱える事になるし、第一やりがいが無くなる。即売会を開く気も失せるというものだ。
とは言え、即売会が無ければ、サークルが自分の作品を発表する場が無い。一般参加者がそれを買う場も無い。自然、そのジャンルに対する興味も薄れ、一般にせよサークルにせよ、ジャンルに携わる人口は減退の一途を辿るだろう。幾つかのサークルが、オールジャンル即売会ないしコミックマーケットで、細々と活動を続けるのが関の山だ。
自分がかつて活動し、愛していたジャンルが今正にそういう状態に陥っている。非常に悲しい状況である。

(斜陽ジャンルも色々だが、年1回ベースで定期的にオンリーが開かれる聖闘士星矢だとか、仙台やら名古屋やら妙に全国展開を続ける「伺か」だとか、細々ながらも定期的にオンリーを開けるジャンルは幸せである。サークル間の同窓会的な雰囲気も楽しめるし、残る人は少ないかもしれないが、本当に好きな人達の間で、細々かもしれないがそのジャンルが継続出来るから。)

何年もオンリーが開かれないジャンルが、オンリーを復活させる。
そんな事は非常に困難で、かつ現実味が無い事のように思える。
今回は、それを現実にしてしまった(というか現実にするべく挑戦した)イベントを紹介させて頂きたい。
まあ、ぶっちゃけ今回紹介するのはKanonオンリー「かのなな!〜Kanon 7th Proect〜」な訳だが。
今年の6月4日、蒲田PIOにて開催。Kanon発売日から丁度7年経った節目の日、節目の時の開催という事もあり、ご存知の方、注目されている方もいらっしゃる事だろう。懐かしい気持ちで参加を決めた方もいらっしゃると思う。
Kanonジャンルについては私も不勉強な中申し上げる事となり、ファンの方には少々申し訳ない思いもあるのだが、私は、オンリーも開かれない程の斜陽なジャンルでありながら、見事オンリーを蘇らせた、という点に注目していきたい。

ケットコムで過去のKanonオンリーの開催状況を検索すると、非常に興味深い結果が現れる。(余談だが、ケットコムの検索システムは過去の同人誌即売会のデータ殆ど全てが記録されており、検索・抽出も容易。史料としても価値の高いシステムであると感じる)
ケットコムは2000年以降に稼動しており、それ以前の開催データは残念ながら残っていない。我々が把握できるのは2000年6月以降のオンリーのみであるが、驚く程にKanon系オンリーが乱立し百花繚乱を極めている事が伺える。ピークは2001年〜2002年春頃まで、であろうか。現在の状況からは考えられない程多くのイベントが、頻繁に開催されていた。
しかし、2003年に入り急速にKanon同人はしぼんだようだ。2003年のオンリーは僅かに1イベント、以後Kanon関連の即売会は一件も開催されていない。
(Eternal Kanon,Bright Season等、Kanonを含めたKey全般を対象としたオンリーは開催されている。ただONEやCLANAD等もありますからねえ)

…一時期の全盛が嘘に思えてしまう程の斜陽ぶりである。男性向けでは典型的、ありがちな構図なのかもしれないが。
そんな中、いかに7周年という節目の年だからとは言え、Kanonオンリーとしては3年ぶりである。ジャンルを離れたサークルも相当多数の筈だから、サークルを集めるのも相当の苦労だろう。というかオンリーを開く事自体、勇気ある挑戦に思える。

しかしこのイベントの主催の意気込みは並大抵ではなかった。
もう既に昨年夏〜初秋の段階で開催を発表し、サークル募集を始めていた。殆ど全ての男性向けオールジャンル及びオンリーでチラシを撒き、サークル出店に励んだ。Kanonジャンル時代のサークル仲間が集まれるように、と最大8サークル迄の合体参加を受け入れたのも面白い試みである。
WEB上でも各キャラのお誕生日ページ、記念企画を用意。WEBを見ても楽しめる仕掛けを演じた。主催氏の意気込み…というかジャンルへの愛情が伝わってくる。
その甲斐あって、流石にPIO大展示場を埋め尽くせる程のサークル数は集まらなかったものの、現在約90サークルの申し込みを得た。90サークルじゃPIO大展示場はスカスカかもしれないが、そんな事よりも、2年も3年もオンリーの無かったジャンルで90サークルも集めた事自体が快挙である。

何故このイベントが90サークルも集める事ができたのか。
昔は大人気ジャンル、全盛時に活動したサークルも数多い。サークルが当時を懐かしみ、興味を持ってくれた事も大きな要素だ。
Kanon7周年というアニバーサリー的な話題性も大きい。
しかし、それ以上に、主催氏のジャンルに対する意気込み、気合、愛情といったものが非常に大きい要素であるように思う。そうでなければ、そんな毎回毎回サークル出店までして頑張れる訳が無い。主催の深いジャンル愛に心打たれ参加を決めたサークルも多少は居るはずだ。

「かのなな!」の奮闘振りは、オンリーイベント開催において、主催のジャンルへの愛情の深さがいかに大切か。改めて知る良い契機になったと思う。
また、斜陽ジャンルであっても頑張ればオンリーを復活させられる事を証明しており、斜陽ジャンルにとっての希望の星であり良きお手本でもあるように思える。
「かのなな!」主催のジャンル愛と意気込み・気合に敬意を表しつつ、そしてこのイベントが成功裡に開催される事を、心よりお祈り申し上げたい。