果たして、「成年向けガイドライン」は必要なのか?
元々、私はこの手のガイドラインは必要、という考え方であった。
猥褻に関するガイドラインも必要であろうし、18禁に関するガイドラインも必要、と考えていた。
(本年3月24日付拙文「同人誌と表現を考えるシンポジウム」の後ろの方にも、私案としてガイドラインの設定を主張しているので、よろしければご覧いただきたい)

ガイドラインの設置には、以下のメリットがある。

・一般、サークルへの啓蒙効果
(特に、どこまで描けばOKなのか、許容範囲を判断し切れないサークルさんにとってはありがたい

形に纏める事により、業界内部での自浄作用を、世間に分かりやすくアピールできる
→業界内部での自浄力を世間にアピールすることにより、警察や役所の余計な介入も未然に防止できる
(シンポジウムのような場での「アピール」も大切だが、実際に形にして動くことにより、身を以て「行動」することでよりダイレクトに分かりやすくアピール出来る


一方、ガイドライン設置にはデメリットもある。
今まで同人の世界は「表現の自由」が重んじられてきた。「表現の自由」あってこそ多様な表現が尊重され、同人が文化として成長・発達してきたのは事実である。シンポジウムでも指摘されたが、ガイドラインを設置する事により【表現が委縮する】危険性がある。

また、COMIC1終了後のミニトークの場に出席された、地方同人イベントの雄・ガタケットの坂田代表は、(猥褻に関してだが)刑法175条の猥褻定義は曖昧であり、社会情勢によって猥褻の基準は変化する事を根拠に、猥褻のガイドラインは困難との認識を示された。

ガイドラインの設置にはメリット・デメリット双方ある。賛否両論あるのは承知している。
だが、本日の新聞報道(読売産経)により、とある同人誌即売会が都産業貿易センターを追い出されたとの話が表面化してしまった。
今後の同人世界への世間一般の風当たりが強くなろう事が懸念される。
事ここに到り、敢えて私は「デメリット」に目を瞑り、早急に同人世界共通のガイドラインを制定すべき、との考えに傾いた。
以下、その理由を申し上げつつ、新聞報道についても触れてみたい。
まず、最大の問題点は、このような極めて「不名誉」な形で同人が取り上げられてしまった事である。
同人世界は、今となってはアングラでも無ければ、「知る人ぞ知る」の世界でもない。コミケがあればマスコミは普通に取材に行くし、サークルが派手に脱税すればやはり報道される。同人世界の世間的な認知は深まっている。何かあれば、良い方向でも悪い方向でも、話題になる。

そんな中、こんな不名誉な事で話題に上ったら、世間の同人に対する印象は悪化する。こんな話飛び出そうものなら、そりゃ会場だって警戒して当たり前だ。
(実際、未確認情報だが、各主催者にヒヤリング・確認を行った施設もあるようだ)
仮に施設が同人に好意的だったとしても、周辺住民から苦情が来れば、ご近所の声に耳を傾けねばならない…同人を締め出す事だって有り得る。
「場」を失う事は、表現の機会を失う事。場が無ければ、表現の自由は大きく損なわれる。逆に言えば、表現の自由を守るために、場を守る事を考えねばならない。
場を守るためにも、世間の同人に対する印象を好転させるような取組が必要だ。

そこで効果がありそうなのが、自主的なガイドラインの制定だ。
18禁や猥褻に関するガイドラインを制定する事で、「行動」で以て分かりやすく明快に、同人業界が自律した世界である事をアピールできる。会場の警戒感を解く一助となろう。サークルや一般参加者への啓蒙効果も見込める。

Little "T" Star!」様のブログによると、都産側もガイドラインを作成したいものの手探り状態との事。
これは逆に、同人側の意向もしっかり取り入れた形で、同人側も納得できるガイドラインに仕上げられる「チャンス」でもある。会場側も勉強中の身、同人側の意見を聞き入れてくれる余地は充分にあろう。そこで主張すべきを主張し、しっかり話し合いを深めれば双方納得の行くガイドラインが完成すると思う。

コスチュームカフェ「参加者アピール」に、このような文面が掲載されている。

>また、この問題はコスカや都産貿だけでなく、都内の主要な会場において順次展開されて行く予定です。
都内の主催者共々、今後連携して対応して行き統一基準の作成を致しますのでコスカ19号店後の動向も注視してください。

どのような形で統一基準を作成するのか不明だが、今後のコスカの動きには期待したい。
男性向け即売会主催は、(都産浜松町の独特の借り方もあるのだろうが)相互の横の繋がりが深い。コスカや高天原のような有力主催がしっかりとしたガイドラインをつくれば、それは他の主催にも瞬く間に伝播するだろう。

できれば、ガイドラインは統一基準が望ましい
理想論的な方々は、ガイドラインは主催各々の判断に委ねるべきとの向きもあるが、サークル立場で申せば、あのイベントはOK、このイベントNGでは、頒布するに困る。
ルールを統一した方が、安心して作品づくりに励めよう。

【10/24 6:30追記】
上記主張に関し、フォローイング的な追記を掲載しました。併せてご覧下さい。


もちろん、先述のように、ガイドラインにはデメリットもある。
だが、そんなデメリット等言ってられる余裕がないのが、現在の同人界だ。

「表現が委縮する」というが、場が無くなったら表現する以前の問題である。次元が違う。もはや表現の委縮云々を心配していられるレベルではない。場を守ることが最優先課題であり、そんな問題後回しの世界である。

「猥褻に定義が無くガイドラインづくりは困難」と言うが、時代は移り変わるもの。同じガイドラインを何十年も使い回すわけでもあるまい。
年1回か隔年かのペースで、その時々の情勢に応じ、ガイドラインの見直しを図れば良いだけではないかと。主催の手間・負担はかかるかもしれないが、ガイドライン作りが困難とは決して思えない。

できればこういうのは、各主催の手間とするのではなく、業界団体が業界全体を代弁し、業界全体の利益のために汗を流すのが理想なのだが、今の同人世界には、「業界団体」と呼べるに値するものが存在していないのもまた事実。
業界団体論にも一度触れてみたい所だが、そこは別の話。別の項を設けて語りたい所である。


#今回の一連の報道について、色々と論考もしたいところですが、長くなったのでこれはまた別の機会に致します。