岩手県は盛岡市開催の「岩漫」は、30年の歴史を誇る同人誌即売会である。
現存する即売会としてはコミックマーケット・MGM(但し現在休止中)に次ぐ歴史を持つ、由緒深い即売会である。
かねてよりその名前、そして歴史の深さは存じており、一度は訪ねてみたい即売会であった。今回、シルバーウイークの開催という事で、JR東日本の「3連休パス」を利用して、電車の旅も兼ねて参加する事にした。
「岩漫」は、春・秋の年二回開催。
過去の歴史を紐解くと(出典:公式サイト内)、1980年代こそ同人趣味が根付いていなかった事もありサークル数は少なかったが、1990年手前より100サークルを突破。以後右肩上がりの成長を続ける。
最盛期は1995〜2000年。約280サークルまで規模を拡大した。
しかしながら、その後の都内一極集中など、地方即売会衰退の流れに「岩漫」も呑み込まれてしまった。
それでも2000年前半までは100サークル台を維持していたが、更にサークル数が減少。前回は30サークルにまで減ってしまった。

今回の参加サークルは約50(sp単位なら60台)。シルバーウイーク期間、都内の有力即売会とのバッティングも無く、参加しやすい日取りという事もあり、参加数は盛り返した。普段の岩漫より好調と言えようか。

この即売会の特徴として、参加年齢層がやや高めな事が挙げられる。歴史の深さゆえ、昔からの常連客が平均年齢を上げているのか。
流石に【平均年齢33歳】な高知「つるかめざっか」ほど高くは無いと思うが…20台後半が多い印象。三十路越えも普通に居る。但し、時間が経過するほどにジジババ率が高くなってるw

地方の同人誌即売会における参加者は、若い女性がメイン。特に中高生の参加が多いが、この即売会は明らかに一線を画している。
ゆえに、サークル分布も他の即売会とは異なる。最大勢力は何故か東方。まあ、それだけなら分からないでもないが(地方の東方勢力は拡大してるし)、その後に続くのは、ボーカロイド、創作。他大抵の即売会で一番人気なヘタリアが、これらの後塵を拝している所がポイントだろう。

また、コスプレイヤーの少なさも、他の地方即売会との大きな差違だ。コスプレイヤーは若い方が多い傾向にあるが、「岩漫」は若い世代の比率が小さく、それがコスプレ参加者数の少ない要因となっているのだろう。
但し、サークルから見ると、他の即売会と異なりコスプレイヤーに圧されサークルが居辛いという部分は無い
サークル的には安心して参加しやすい環境であり、それが「強み」になるとも思う。

即売会自体はそれなりに参加者も多く、普通に売り買いを楽しめる地方即売会であったと思う。
地元に即売会が無ければ、その地域で同人誌の文化は育たない。今後も永続的に開催を続け、また水沢・一関・北上・花巻など県内周辺都市開催の即売会とも相互に協力しつつ、岩手の同人世界の盛り上げに努めて頂きたい。

「岩漫」が特徴的なのは、「参加者が皆で協力して即売会を作り上げる」という文化が参加者全体に浸透している事。
即売会終了後は、全員で撤収作業に協力する。皆が率先して協力するので、撤収もすぐに終わる。
そして、撤収が終わった後に、皆が集って「閉会式」が執り行われる。県内他即売会によるイベントアピールや、主催挨拶を経て、散会という具合。
私はここまでで引き上げたが、その後ノンアルコールでの「交流会」(お茶会的なもの)が夕方まで行われている。

さて、岩漫パンフレットを拝見すると、サークル数が少なくもっとサークルを集めたい。若い力を取り入れたい等とおっしゃっている。
確かに、即売会たるもの、サークルや一般参加者が集まるに越したこと無い。如何にサークルを集められるかは、主催の力の見せ所であり、それを実行しサークルを集められる主催に対して、私は好意的に論ずる傾向がある。
従って、岩漫主催氏のそのお考えや姿勢に対しては、積極的に賛同したい。

但し、どのような路線を歩むかが、一つのポイントとなる。
主催氏は、年長者の多い現状を鑑み、若い力を入れたい、ともおっしゃっている。即売会の永続的な発展、継続には、若い方々への世代交代が欠かせない。そこは大切な要素だと思う。

ただ、一方で、今の「岩漫」の強みは、年長者やサークルが安心して参加できる雰囲気であり、この雰囲気を大切にして欲しいとも思う。
安易に、若年層に媚びてはならない。

確かに、地元同人の主力の担い手たる若い子を取り込めれば、規模は大きくなる。だが、コスプレイヤーも増え、それに圧され、サークルが参加しにくくなる、という側面もある。
ぶっちゃけ言えば、岩漫が仮にその若年層迎合路線を取った所で、コミックライブの劣化コピーで終わるどころか、岩漫の長所(=落ち着いた雰囲気、年長者が安心して参加できる)が打ち消される危険がある。即売会としての独自性も薄くなり、差別化も困難となる。
今のように、若年層→コミックライブ、年長者→岩漫の方が、住み分けが出来、よりベターではないかと考える。

どうしてもサークルを増やしたいのなら、取る方法は二つ。
一つは、東京での告知機会を増やす事。男性向けのサンクリ・COMIC1、女性向けのシティがその対象となろうか。
東京での告知は、地元に縁あるが活動の主戦地は東京、というサークルさんへの訴求効果がある。東京を主戦場とするサークルは、年長者が多く、岩漫との親和性も高い。
また、「岩漫」は、地方即売会には珍しく(というか先進的だと思う)オンライン申込を備えている。オンライン申込は、在京サークルに浸透しており、言い換えれば、「岩漫」は、在京サークルに対してより参加し易い環境を提供出来ている、とも言えよう。オンライン申込の存在は、在京サークルを呼び込む上で強みになろう。

もう一つは、コミックライブ等地元即売会での告知。出来れば、その告知範囲を、北東北全域(青森・秋田)にも広げたい
地元の即売会は‐特にコミックライブにその色は顕著だが‐若年層が多い。若い力の芽吹く即売会だ。
しかしながら、「若年層が多い」という事は、年長者にとっては参加し辛い事の裏返しでもある。
年長者にしてみれば、若い子たちには付いていけないよ、とアウェイ感を抱いてしまうだろう。これは世代間格差の問題だから、その即売会が悪いという訳では決して無いのだが…
(但し、コミックライブ等地方即売会が、低落傾向に歯止めをかけたいのならば、年長者の呼び戻し策・引き止め策を考えた方が良いとも思う。オンリーコミュ(所謂「プチオンリー」だが)の導入等の施策に期待を寄せたい)

そう言った年長サークル…(東京から距離のあり、東京遠征も決して容易ではない)北東北三県全体を守備範囲とした、地元即売会に参加し辛くなった年長者の「受け皿」を目指すのが、「岩漫」の取るべき道、と考える。
(尚、南東北は含まない。既に仙台「杜の奇跡」等大人向けの有力即売会もあるし、距離的にも東京に近いので東京に遠征しやすい環境ゆえ、「東京」も強力に有力な選択肢となるからだ)

北東北三県にチラシ配布をした所で、そこに集う参加者は若者。自由に使えるお金も少ないので、そう簡単には岩手に行けない。岩漫のサークル数には直結しない。
だが、何年か経ち、彼女らが地元の即売会に居づらくなった時。そこに「岩漫」という選択肢が提示されれば、「大人の即売会」として「岩漫」行きを検討するだろう。
数年後を見据え「大人の即売会」としての色を付けたアピールを北東北三県に行い、活路を見い出すべき、と主張したい。

ただ、この即売会にとっての困難は、人的リソースが決定的に不足している事。当日スタッフは10人程度だし、県内在住のスタッフは1人しか居ない事。人手不足が足枷になる。
本来ならば、札幌「Elysian」や仙台「杜の奇跡」のように、参加者を楽しませる事に主眼を置いた企画があっても良いのでは…?とも思ったが、人的リソースが足りず明らかに難しそうなので、その提言は封印する。
東方オンリーを開くという案も考えた。眠れる岩手の東方厨の皆さんを掘り起こし、地元のスタッフ志願者も開拓、という戦略だ。大(9)州東方祭が九州でスタッフを開拓するようなイメージでお考えいただきたい。(参照:2009年05月20日「5/3「博多東方祭」終了に寄せて」)
だが、隣県・宮城には「杜の奇跡/東方杜郷想」という有力即売会が鎮座している。「杜の奇跡/東方杜郷想」との調整は必須だし(両者食い合いになっては意味が無い)、それよりも寧ろ、仮にサークルが集まって、でもスタッフが集まらず…となると、人海戦術で押し寄せる東方厨の皆さんを捌き切れない、考えただけでも恐ろしい展開が想定される。リスクは大きい。
スタッフ人材の掘り起こしは、非常に難しい。永遠の課題で妙案は無いが、これをクリアしないと先へは進まない、と感じた次第である。

最後に、当日会場でその存在を知った即売会で、興味を惹く即売会があったのでご紹介。秋田県大館市開催「新装快店」の主催さんが、各サークルへの挨拶回りなのだろう。当サークルにもお見えになった。
会場が結婚式場しか取れず、しかも結婚シーズンの6月・10月を除いた【仏滅】の日曜日しか不可、と制約も大きく、「会場手配が最大の難関」との事。

大館市は、人口僅かに9万人弱の地方都市で市場規模も小さい。しかしながら、今年7月の開催時は、募集サークル60spが満了。人口規模を考えると、恐ろしいまでの大健闘である。
人口6万の福井県敦賀市で「BUTTERFLY」が募集60sp満了の事例もそうだが、人口が少ない(市場規模が小さい)地域でも、主催の創意工夫と努力でサークルをきっちり集められる事が言えよう。(だから人口30万の盛岡市で「岩漫」はもっと頑張れると思う。歴史ある即売会だし「古豪の復活」を願いたい)

主催氏にお話を伺うと、大館に同人系のお店なんぞ無いので、地元の書店や画材屋等にチラシを置き、地元での告知を図っているとの事。
更には、北東北3県(青森・秋田・岩手)のほぼ全ての店舗や即売会で告知を図り、3県ほぼ全てをカバーしているとの事。
積極的かつこまめな告知活動が実を結んでいると言え、「岩漫」が見習うべき積極性であろう。
秋田まで電車で二時間、青森へも一時間の立地…どっちに行くのも遠く、地元に即売会があらば若い方には嬉しい話。今後も頑張って開催し続け、大館における同人の灯火を絶やさぬ事を願いたい。