11月29日、一つの即売会が、惜しまれる間もなく、ひっそりと幕を閉じた。
同人誌即売会の世界では珍しく、NPO法人としての法人格を持つ団体「Project Arbarest」が主催する同人誌即売会「tenjin.be」。
私も過去、幾度と無く取り上げ、評論させて頂いた「tenjin.be」。今回は「tenjin.be」のこれまでを回顧し、「tenjin.be」が九州即売会に遺した功績を振り返りたい。
【「tenjin.be」の始まり】

「tenjin.be」は2007年4月に、その産声を挙げた。

この頃の福岡同人界は、コミックネットワークとコミックシティが、年二回ずつ福岡ドームで開催。
1000sp超規模の大規模即売会が展開され隆盛する一方、これに次ぐ規模の即売会が存在せず。後は100sp未満の小規模即売会しかなく、3桁台の中堅層が存在しない、不安定な状況であった。
また、二大巨頭の一角たる筈の「コミックネットワーク」の運営は杜撰を極め、この私に「厨房即売会御三家」と見なされる有り様だw
草の根レベルで開催されるオンリーイベントも低調で、良い材料が見当たらない。せいぜい「コミックシティ」が安定開催されている事位だろうか。

そんな中、九州同人世界の活性化を志向し、NPO法人までこさえて立ち上げた「tenjin.be」には、九州同人界の「救世主」として期待を寄せた
「tenjin.be」に期待する記事を、何度ブログに書いた事か。

だが、私の期待が高過ぎたのかも知れないが、「tenjin.be」の動きは、私の期待通りには及ばなかった。

開始前年2006年の冬コミにて、35000の全参加サークルにチラシを撒く頑張りを見せたが、チラシ配布時にサークル申し込み受付が整わず、折角の告知努力も実を結べなかった。

それでも、「tenjin.be」の前身となる(佐世保開催の)即売会「あるばれすと」時代からの常連固定客を中心に40サークルを集めた事もあり、第一回目の即売会を無事に終える事が出来た。

二回目の即売会は、「コミックシティ福岡」での告知が奏功し70サークルにまで延ばすも、三回目の即売会「books.tenjin.be」ではロクな告知をしなかった事が災いし30サークルにまで減らした。

期待には遠く及ばぬ、低迷が続いた。


【2008年、ようやく本気を出した「tenjin.be」】

「tenjin.be」がマトモになってきたのは2008年に入ってからの話である。
背景に、主催達が慣れてきた事、継続開催を通じ様子見の参加者が流入した事もあるが、事務方が機能した事が一番大きな要因だ。
後手後手の事務も大きく改善され、青龍刀振りかざす対象だったサークル案内の遅さも、2-3週前に前倒し、改善された。

サークル誘致にも積極的に動けるようになり、有力サークルの招聘にも成功した。
サークル数も増加に転じ、4月開催「tenjin.be#03」は60台、11月開催「tenjin.be#04」は100サークルを突破した。

ようやく軌道に乗ったと言えるが、私に言わせれば、彼らの実力なら、この程度出来て当たり前の世界だ。
何故なら、彼らは佐世保「あるばれすと」時代には常時100サークルを集めていた実績を持ち、「西海の雄」とも呼べる存在であった。
また、ロクに告知をしなかった「books.tenjin.be」ですら30サークル集めた…裏を返せばどんなヘマしても30サークルの固定票が存在する事を意味する。
この固定票を基盤に、サークル集めに勤しめば、100は越えて当たり前である。
本来なら、「tenjin.be#01」開催で100超えを果たせた筈だ。

今までの彼らは、良く言えば効率重視・無理のない範囲での努力、悪く言えば「手を抜いていた」。
2008年に入りいよいよエンジンが点火した、といった所か。
以後の「tenjin.be」は、常時70-80サークルを集める安定感ある即売会として運営さるていく事となる。


【内輪色の進行、作品を買わない参加者】

一方で気になる事としては、「内輪」の雰囲気の強まりを感じつつあった事。
会場内で友人同士と駄弁る方が多く、それは「tenjin.be」が交流の場として機能している事を意味する。
だが、彼らが会場内でサークルの作品を買わずそこら辺を徘徊しているだけでは、即売会の本義たる「作品の売買」には繋がらない。
その辺り、内輪の懸念を、2008年06月17日付「福岡tenjin.be その方向性」でも記した。

佐世保時代からの常連が多い事は、その背景の一つとなろう。
常連の存在は、安定開催を図る上で有難い存在だが、それ故内輪色が深まれば、他所の方が参加するに障害となる

また、彼らが本を買わずただそこら辺で駄弁ってるだけでは、作品の頒布という即売会としての本来の役割が機能しない
分かりやすく言えば、彼らの存在は、サークルにとっては、コスプレイヤーと一緒である。即売会に来てる癖に、本を見ようとすらしない。コスプレイヤーに対し「居るだけ邪魔」と評するサークルも多いが、それは「tenjin.be」で本を買わずにぶらついてるだけの一般参加者に対しても通じるものがありそうだ。

同人作品の頒布の出来る場を作るべく立ち上げた「tenjin.be」は、集客力はあるコスプレを敢えて抑制し、売買環境の整備に努めた。
にも関わらず、本来彼らを支えるべき常連達が、コスプレイヤーの(悪い方向での)役目を果たしてしまっているのは、実に皮肉な話である。

これが続くと、即売会としての発展は見込めない
新しく参入したサークルも、新しく参入した一般参加者も、皆嫌気が差してリピーター化しないからだ。
結果、「いつもの面子」ばかりになり、九州同人世界の活性化という理想とは、かけ離れたものとなってしまう

主催氏は、今回で終了させる事の理由を、多くは語らない。
まあ、氏と酒の席で30分じっくり話せば見えて来そうだが、流石に氏と酒の席をセッティングするタイミングが無いw
…という訳で推測になってしまい恐縮だが、内輪色が広まり、これ以上の発展が見込めない。その未来図が見えてしまったからこそ、潔く今秋での終了を決めたのだろう。
(他にも、これまで即売会を切り盛りしていた事務方が、自身の事情により運営を離れてしまった事なども理由に挙げられそうだが、上記の推論も、その一つとして数えても良いだろう)


【理想と現実の乖離】

「tenjin.be」の主催氏は、同人世界を冷静に見つめ、問題点を分析するに長けた「理論家」である。
当ブログ「STRIKE HOLE」が唱える諸々の理論も、実は氏の影響を多分に受けている(特に地方即売会における告知やサークルの集め方について)。私にとっての同人世界理論の「師匠」は氏である。
今でこそ私の理論、己が見聞きした中で得たオリジナルな理論も多いが、ベースはやはり氏の理論である。

…ただ、氏が語る事は、ストレートな物言いじゃないので時折理解し辛い事がある。
氏と酒の席で30分語れば、言わんとしていることは理解できるのだが…皆が皆それを出来る訳じゃない。だから氏の真意が、皆に伝わらない。
もう少し、万人が理解できる分かりやすさを追求して欲しいもの。
ぶっちゃけ申し上げれば、(9)なチルノやお猿さんでも理解出来る、平易な言葉で語って頂きたい、という事だ。
その方が、世間一般に対するアピールとなり、無用の誤解を防ぐ事もできるからだ。

で、「tenjin.be」主催氏と酒席で語ると、他の人が中々気付かない問題提起が次々飛び出す。

九州は、小規模オンリー(100sp未満)と大規模即売会(福岡ドーム)との間のポジションたる中堅即売会が無い、との話も、元を辿れば氏の問題提起が発端だ。

九州は即売会同士の横の繋がりが弱く、告知も不足気味なので、九州同人を紹介できる、「九州版Dojin Walker」的なものを作りたい、との構想も披露してくれた。
(「Dojin Walker」は、北海道で興った即売会情報紹介のフリーペーパー。現在は、やや情報不足のきらいもあるが、中部・東北もカバー。)
「tenjin.be」の主催団体・NPO法人「Project Arbarest」では、ニュースペーパー形式では無いものの、webサイト「doujin.me」にてその構想を実現させた。

私が問題視していた、九州即売会スタッフの人材不足について、氏は「後進を育てる事を、自分達の法人で取り組みたい」との構想を示した。
言われてみれば、いつまでも同じ人間が即売会を開いた所で、活性化に繋がるかは疑問だ。若い力を取り入れた方が活性化に繋がる。納得できる理屈だ。

氏の考えや構想は、成る程と頷ける物が多い。確かに、これが全部実現出来れば、九州同人世界の発展に大きく貢献しよう。

だが、残念ながら「tenjin.be」には、それ実現し得る実行力は無かった。
唯一実現し得た「douji.me」も、途中で息切れし、立ち消えてしまった。

原因としては、「tenjin.be」は4〜5名程度のコアスタッフにより動いているが、人数が少なく機能的に動けない事にある。
ならば主催氏の構想宜しく若手を引っ張って育成、戦力を増強する必要があるのでは…とも思うが、「tenjin.be」に加入する若手スタッフは極めて少なく、またたまに新しい血が入っても何故か定着しない。(佐世保から培われてきた人間関係の中で、新たな人間は馴染め無いのか?)
理想は崇高であっても、それの実現が上手く進まない。それが「tenjin.be」の抱える、理想と現実のギャップである。


【「tenjin.be」の理想を継承した「大(9)州東方祭」】

「tenjin.be」がその理想を実行に移せない中、新たに登場した即売会が、「大(9)州東方祭」である。
「大(9)州東方祭」は、今が旬たる東方ジャンルの力を借りているとは言え、「tenjin.be」が何年か掛けても中々成し得なかった理想を、実現に移している。

福岡に1000sp超と100sp未満の間に入る中堅層の即売会が存在しない、との話を、「tenjin.be」主催氏から聞いた。
私は、NPOという立派な法人格を持つ「tenjin.be」がその役を買って出るものと期待したのだが、「tenjin.be」にはそこまで勢力を拡大する余力が無く、現状維持が精一杯であった。
だが、その役目は、東方オンリーと言う限定的なものとは言え、「大(9)州東方祭」が300サークルという一大即売会に育った事で、「大(9)州東方祭」自らが担った。

後進を育てたいとの「tenjin.be」主催氏の構想は、自らが実現するには至れなかったが、「大(9)州東方祭」主催氏がその話を聞き感銘を受けたと聞く。

「大(9)州東方祭」は、スタッフの人材難が深刻な九州の地にて、スタッフ未経験者だろうと積極的にスタッフに登用し、スタッフ教育にも積極的だ
確かに、一人でも多くの人手が必要で、未経験者だろうと贅沢は言ってられない事情もあるかも知れない。
だが、それでもやはり、「tenjin.be」主催氏の構想に感銘を受け、後進を育てたいとの思いから、若手の面倒を見ようとスタッフ志願者を受け入れたのではなかろうか
(ならば若手スタッフは、その気持ちに応えるべく、経験を積み向上心を持って成長して欲しい。他の即売会にも積極的にスタッフ参加して経験を積め、と主張したのはその思い故だ)

「大(9)州東方祭」の後進育成の取り組みはまだ始まったばかり。
スタッフ不足の九州で、100人にも迫るスタッフ志願者を開拓した功績は高く評価するが、彼らの「育成」はこれからだ。
今後彼らを如何に成長させるか?その手腕に期待したい。

そして、大事な事として、その施策のベースとなるのは、「tenjin.be」主催氏の提唱した理論である。
「tenjin.be」はその理論を、自らでは実践し得なかったが、「大(9)州東方祭」がその理念を継承し、実践したと言えよう。


次回、「tenjin.be」のもたらしたもう一つの功績、九州即売会の活性化について語りたい。