2月14日に、広島で開催された「東方椰麟祭」は、最終的に100サークルを突破。来場者数も1300-1500人程度、「大」の字の付く「快挙」を達成した即売会であったと言えよう。

思えば、広島の即売会と言えば「広島コミケ」のみ。
これまではオンリーイベントが存在しなかった地域である。
一時期は男性向けの「萌道」という即売会が開かれた事もあったが、10サークル程度と奮わず。他にも幾つかのジャンルオンリーが開催されし事もあったが、やはり、同様にサークル数が奮わなかった。
そんな地域で、1000人以上を動員した「東方椰麟祭」は、ある意味広島の同人界に名を遺す、前代未聞の「事件」と言っても過言でははないだろう。
これ程の盛り上がりを見せたオンリーを開けた事は、今後の当地の同人世界の活性化に繋がると共に、中国地方の元気さをアピール出来、非常に意義の深いものであったと私は考える。

また、ここで特筆すべきは、主催氏は全くの未経験者であることだ。
同人誌即売会即売会の主催・スタッフ経験が無いのみならず、サークル経験も乏しい。
コスプレイベントへの参加形跡が目立つ一方、即売会参加の形跡は皆無に等しい。
コスプレ畑の方が即売会に進出した、という構図だ。

その構図の即売会は、コスプレイヤーの感覚がサークルの感覚と乖離し、サークルの支持を集められず「失敗」するケースが多い。
椰麟祭も、同様のケースたる事が想像された。
だが、結果はご存じの通りだ。中四国同人界の歴史の一頁を刻む「快挙」であった。
私の予想は、良い意味で裏切られた。

今回の記事では、「東方椰麟祭」が、主催初心者かつオンリーの開催に乏しい中国地方という厳しい条件ながらも、これ程の成果を挙げられたか。その原因を、詳しく分析する事としたい。
【特筆すべき、主催の勉強熱心さ】

コスプレ畑の出身、地方開催、スタッフ・サークル経験すら皆無に等しい。
…いかに東方とは言え、【イベント失敗】のフラグがビンビン立ちまくってる!

それが、「東方椰麟祭」に抱いた私の第一印象であるw
だが、主催氏は神がかり的とも言える努力で、そのハンディを埋め、私が感じ取ったフラグを自ら取り払った。

「椰麟祭」主催氏は、即売会の立ち上げ発表直後、先ず地元東方サークルの挨拶回りから始めた。
サークル無くして即売会は成立しない。サークルを回り営業をかけるのは当然の事だが、主催初心者が、誰に教えられる訳でも無くその事に気付き、行動できる辺り、主催としての「センス」の良さを感じた。

その場で、サークルから様々な意見が上がった模様だ。
私も、当地のサークルを介し、幾つかの意見を述べた。

私が提言した内容は、主に以下の各点である。

1・チラシ枚数の増強…元々チラシ枚数は1000枚を計画していたようだが(過去広島で開催された男性向けオンリーの枚数を基準にしていた模様)、東方紅楼夢等の東方オンリーや、こみっく☆トレジャー等の大規模男性向けで撒く事を考えると、余りにも少なすぎる。せめて10000枚以上は欲しい。

2・告知戦略…広島コミケ等の地元即売会、地元中心に各地同人店舗、全国各地の東方オンリー、東京・大阪の大規模即売会での配布は必須たる事を説く

3・即売会の経験が見た感じ非常に弱いので、今からでも遅くない。スタッフ経験やサークル経験を積むべき。経験無い状態で運営に臨んでも失敗する。

4・人間関係の構築に積極的たれ。アドバイスを貰える経験者の知り合いを作りたい。

#このアドバイスの背景には、当時の東方四国祭の主催が初心者で、かつ周りにアドバイスのできる人材も居らず、サークルに対し粗相を犯してしまった失敗が、この少し前に明るみになっていた事も挙げておきたい
(注・現在の「東方四国祭」の主催は松山の男性向けオールジャンル「美柑たると」主催氏。第一回目から主催が変わっている事も併記しておく)

こんな感じの事を、私は椰麟祭主催氏にアドバイスさせていただいた。
物申すべきことは物申した。後はそれを、主催氏が如何に消化するかである。
結果、椰麟祭主催氏は、私の提言を全て受け入れ、実行した。

1・2に関しては、他の方からも同様の助言を受けたという事もあろうが、とにかく熱心に取り組んだ。
大規模即売会では「こみっく☆トレジャー」「サンシャインクリエイション」で告知を図り、東方オンリーは、夏コミ以降殆んど全てのオンリーを網羅した。10月の「東方紅楼夢」にて告知を図ったその足で東京に飛び、東京の「東方弾幕祭」でチラシ配布、という強行軍をこなした事すらあった。
店舗も広島・岡山両県を中心に、当然の如くきっちり押さえ、地元即売会も、地域一番手の即売会は無論、小規模な所に至るまできっちり回った。
チラシ枚数は、少なく見積もっても10000枚は超えているだろう。

こういった地道かつ熱心な努力の成果が、今回の「椰麟祭」の異例の動員数を生んだのだろう。

3・4に関しては、周辺地域の東方オンリーに、積極的にスタッフ参加を試み、自らの経験を高めていった
そして、自らがスタッフ参加した地域にて、スタッフの知己を増やし、自らの人脈を強固なものとした
「東方四国祭」にスタッフ参加し、四国スタッフの知己を増やした。「大(9)州東方祭」にスタッフ参加し、「大(9)州」のスタッフの知己を増やした。これらのスタッフの中に経験豊富なベテランスタッフの方もいらっしゃるようで、ベテラン諸氏を質問攻めにして知識と経験を得ようと勉強熱心な様子が伺えた。
更に申せば、そこで知り合ったスタッフの内何人かは、当日「椰麟祭」のスタッフとしてお手伝いに馳せ参じている。

自らスタッフとして参加する事で経験を積みつつ、そこで知り合ったスタッフ諸氏から積極的にノウハウを吸収。主催初心者のハンディを埋め、しかも当日お手伝いいただけるスタッフ人材の確保にも成功した、という構図だ。

私が、椰麟祭の主催氏と会話する中で、主催氏は「自分は周りの皆さんに恵まれた」とおっしゃっていた。確かに、出会った人々の巡り合わせが良かった、というのはその通りである。
だが、私に言わせれば、主催氏自らが積極的に周辺と関わり、人間関係の構築に努めたからこそ、良き出会いを呼べたのではないか?と考える。運が良かったのではなく、主催氏自らの努力の結果に過ぎないだろう。

しかし、私も数多くの即売会で評論を実践し、時として自ら主催氏に助言した事も多いが…ここまで全てを素直に聞いてくれた主催氏は初めてであるw
(そして、主催氏が結果を出してくれた事で、自分の理論が間違っていなかったのな、とも少し安心したw)
何故、ここまで素直に物を聞いていただけたのだろうか?

恐らく、それは主催氏が「初心者」であったからだと思う。
逆に主催経験10年以上のベテランに対し、同じように私が意見しても、十中八九聞いてくれないだろう。主催経験が長いがゆえに、自らの経験に基づく方法論が、自分の中で確立しているからだ。だから聞き入れられるケースが少ないのは、ある意味仕方ない事だ。
椰麟祭主催氏は、初心者である。それ故に、方法論が自分の中で確立していなかった。加えて、氏は自らが初心者たる事を自覚し、そのハンディを埋めようと勉強熱心だった事も挙げられる。
だからこそ私の意見も聞いたし、また他の主催経験者等にも意見や助言を求め、それを自らの血肉として消化できたのだろう。


【情熱の源泉は何処に】

告知活動といい人脈づくりといい勉強熱心さといい、「椰麟祭」の主催氏は、常軌を逸する程の(← 一応褒め言葉です)、まさに「命がけ」とも言える程の情熱を見せた。
そして、その情熱が実を結び、ここまでの動員数を達成した。
では、何が主催氏をそこまで熱心にさせたのか。主催氏の情熱の源泉は、果たして何なのか。

「東方椰麟祭」カタログ末尾に書いてある、主催氏自身の言葉がつづられた「編集後記」より抜粋する。

>今回東方椰麟祭を立ち上げた一番の理由として、「地方の同人文化の再興」と言う理念がります。

その文章の少し前には、このような文面も書いてある。

>今回の東方椰麟祭がきっかけとなり広島をはじめ中国地方、ひいては地方での同人熱が高まって頂ければそれに勝る喜びはございません。

これこそが、主催氏の熱意の源泉であろう。
主催氏は、「東方椰麟祭」を通じ、中国地方でもこれだけ盛り上がる同人イベントが開ける。中国地方のパワーを全国にお見せしたい。そういう熱意を私に語った事もあった。
「椰麟祭」に、一人でも多くの方に来て頂きたい。そして、可能な限り「椰麟祭」を盛り上げたい。自分の持ち得る、考えられる全ての力を注ぎ、場を盛り上げたい。
その思いがあったからこそ、告知活動なり何なり、身の入った事前活動に繋がったのではないか、と考える。

以前取り上げた「東方糀饅頭」にしても、「椰麟祭」トップページでも取り上げるなど積極的に猛プッシュ。場の盛り上げに大きく寄与した。
これも、場を盛り上げたいという強い思いがあってこその積極的なプッシュであろう。


そういえば、「椰麟祭」カタログには、何故か私自身もゲスト寄稿させていただいた。
お題は「同人誌即売会の開き方」。これは、主催氏が指定したテーマである。
2ページじゃ無茶だ!と思いつつも、心構え的な物を中心に、最低限の大事な事を書かせて頂いた。
では、何故そのテーマなのか。主催氏にお聞きした所、「中国地方でもオンリーが開けるんだという事を皆さんにお伝えしたい」「椰麟祭を契機に、他ジャンルでもオンリーが開けるような機運が出てきて欲しい」との願いが込められている模様。
そしてその願いは、椰麟祭カタログ末尾の、主催氏の言葉にも通じる。

中国地方の同人をもっと元気にしたい。
その思いがあってこその、類稀なる熱心な努力であり、「東方糀饅頭」のような場の盛り上げであり、カタログ中の私の寄稿文である。
「椰麟祭」における運営活動は、全てが根っこの部分で「地方の活性化」という理念に繋がっている、と言えよう。


【今後の椰麟祭】

今回の「椰麟祭」は大盛況に終わった。せっかくここまでの熱い炎を燃やしたのだから、次回も開催しない手は無い。
せっかく起こした熱き炎を、今後も維持・継続頂ける事を望みたい。

アフターイベント席上にて、来年2月に同じ会場を確保済みとのアナウンスもされた模様だ。
しばらくは動きが無いだろうが、時期が来れば、次回発表が為される事と思われる。

次回の「椰麟祭」も、今回同様に熱く燃え上がる事を期待したい。
そして願わくば、触発されて広島や岡山で別ジャンルでも東方オンリーでも良いが…自分でもオンリーイベントを開催してみよう!なんて動きが出てくれば面白いだろう。
「椰麟祭」だけが盛り上がるのではなく、「椰麟祭」の熱気が他に波及するようになる事を願いたい。