三月の都議会にて、東京都の青少年育成条例に改訂案が提出され、出版界や漫画家を中心とした激しい反発が巻き起こった事は、皆さん報道等でご存知の事と思う。
同人界においても、同人誌即売会主催者連絡会が声明文を出した。また、「表現の自由」を護るという観点から反対の意を唱える方も多い。
私の立場としては、2〜3の条文に懸念点があり反対の立場を取る。詳細については、別の機会に触れたい。

ただ、私は、この条例にまつわる言論において、幾つかの懸念がある。

・改正案の条文に直に触れる等、改正案の本質を自ら知る努力をせず、断片的な情報のみで賛成/反対を決めている方が少なくないのではないか?

・味方を減らしかねない、強硬・先鋭化する反対派の行動への疑問
例・はてなの匿名ダイアリーの意見
http://anond.hatelabo.jp/20100320235739

@++「3/1 都条例改正案で即売会開催が困難に!?」のコメント欄
http://blog.m.livedoor.jp/increment/c.cgi?id=51793045

→お前ら同人者という仲間にしやすい属性の人間を攻撃して、敵を作ってどーすんだ?

・嘘、大げさ、紛らわしい…な主張(規制派、反対派問わず)
→詳細は後述するが、規制派も乱暴な論理展開が多いし、反対派も大げさに映る煽りが多い。それがエスカレートし嘘に発展するのは規制派・反対派共通。
・偏見と悪意に満ちたネガティブキャンペーン

今回の騒動に関しては、主に上記のような懸念を持つ言動が目立つ。しかも、規制派・反対派どっち側にも、そういう向きがいる。
前々回記事でも、表現の自由を求める余り、言論の自由並びに結社の自由を制限するよう求める署名活動を批判したが、このような行き過ぎた言動に対しては、規制派・反対派の別を問わず、青龍刀でぶった切る事としたい。

今回私が批判するのは、とあるネガティブキャンペーンについて。
これは、「反ヲタク国会議員リスト」メモ・2010-03-14 「非実在青少年」規制をゴリ押ししている警察官僚の正体http://d.hatena.ne.jp/killtheassholes/20100314、及び東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイトhttp://mitb.bufsiz.jp/などで取り上げられているが…

現在、都条例改定を推進する担当部署の責任者の1人・倉田潤東京都青少年・治安対策本部長を、悪名高い「志布志事件」の関係者とする言説が、これらのサイトで見受けられる。
私はこれに、強く異議を唱えたい。

志布志事件は2003年春の統一地方選挙を舞台に起こった冤罪事件。
買収の当事者たる議員・有権者は全員無罪判決(2007年)、また当時の取調官がこの時の取調べの行き過ぎを理由に在宅起訴されるに至る。
警察の捜査の行き過ぎが問題視され、警察的にも恥ずべき不祥事となった、悪名高き冤罪事件だ。

だが、倉田本部長の鹿児島に赴任した時期は(県警本部長に就任)在2004年〜2006年(*1)、志布志事件が冤罪ではないか?と疑われ始めた頃に「たまたま」本部長を務めていただけだ。
この事件が起きた時には在職しておらず直接の責任は無いし、志布志事件における警察組織内の処分対象にもなっていない。
とばっちりも良い所である。

2006年、鹿児島県議会にて、志布志事件で県警による自白強要があったのか?とする質疑があり、これに当時の倉田県警本部長が答弁。
2006年05月07日付朝日新聞朝刊によると、「県警は捜査員や浜野さんから聞き取り調査し、倉田潤・県警本部長(当時)は県議会で「強要の事実は認められなかった」と否定した。」との事。
この答弁は、結果的に翌年に裁判で確定した事実と違っている。
規制反対派はこの事を取り上げ、「志布志事件を否定した人が今東京都の青少年育成条例改訂に携わっている」などと主張する。

だが、倉田県警本部長(当時)は、「強要の事実」が「無かった」と答弁した訳ではない。「認められなかった」事を答弁したのだ。
「認められなかった」とは、「調べたけど確認できなかったよ!」と言う意味。
今後新しい事実が出てくる可能性を視野に入れ、新しい事実が出てきても「いや〜当時は調べたけど調べ切れなかったんだよね〜ゴメンゴメン」と逃げ道を作る意味も含まれている。
いかにも官僚らしい、一字一句に逃げ道を散りばめた発言であるw

この倉田発言は、志布志事件における自白強要を否定した答弁ではない。
あくまで「オラ調べたけどよくわかんね」という具合に、肯定も否定もしない、ひたすら逃げたがってるだけの、曖昧な答弁と見るべきである。
朝日新聞の報道する「否定した」は、朝日記者の主観的な解釈だ。
また、2010-03-14 「非実在青少年」規制をゴリ押ししている警察官僚の正体http://d.hatena.ne.jp/killtheassholes/20100314の執筆者曰く、

>県議会で堂々と虚偽自白の強要という事実を否定した倉田潤鹿児島県警本部長とは、今まさに「非実在青少年」規制をゴリ押ししている倉田潤青少年治安対策本部長その人です

>倉田潤大先生が、志布志事件における虚偽自白の強要という事実を全力で否定した事は間違いないと思います。

などと、倉田氏が志布志事件を否定するような文章を記されている。
だが、上記の論拠より、倉田氏の志布志事件否定発言は「誤り」ないし「ミスリード」と私は考える。

他のブログでは、志布志事件の「もみ消し」に動いたとか言ってるブログもあるが、そのような証拠は何処にあるのか。
悪い事やってると主張したいのなら、その主張する当人が証拠を持ってきて立証すべきである。
彼らの主張こそが、言いがかりや冤罪の類いじゃないか?と言われても文句は言えない。

百歩譲って、志布志事件における倉田氏発言を、(自白強要の)「否定」「もみ消し」だった。そう仮定したとしよう。
しかしながら、その失策は昔の事である。「今を論じるに昔の粗相を論じるのはナンセンス」とする私の立場からすると(参考:2009年11月17日付「ユウメディア/東7ホールの大英断」追記部分http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51579978.html)、倉田氏を論じるに鹿児島時代を持ち出すのはナンセンスだ。
倉田氏を批判するなら、「今現在」の東京都青少年治安対策本部長の立場における発言を元に批判するべきである。

不祥事の直接の関係者でもないにも関わらず、昔の事を引っ張り出してあたかも冤罪不祥事の関係者であるかのごとくミスリードする論調は、アンフェアであり、私が最も嫌いとする論の張り方だ。

そもそもこの事は、今回の都条例改定には直接関係しない。
いかに都条例改定に反対だからと言え、このような手法で相手のイメージを悪化させるネガティブキャンペーンは、極めて卑怯であり、私は決して支持出来ない。


*1 歌舞伎町るねっさんすBlog「10月29日(木)第6回歌舞伎町ルネッサンス推進協議会開催」http://kabuki-cho.blog.so-net.ne.jp/2009-10-31

>私16年から18年にかけまして、鹿児島の本部長をやってまして