色々話を聞くと、同人関係者が今回の都条例において、規制対象として狙われているみたいな話がある。
果たして本当にそうなのか?という疑問がある。
今回は、普段以上に皆様からのご意見に耳を傾けて参りたい。

カマヤンの虚業日記・2010-02-26「同人誌苦情受付窓口の必要性、「都条例」について」http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20100226#1267195563によると、匿名の掲示板の書き込みを紹介し、

・同人業界に行政や民間からの苦情に対応する窓口が無く、各方面から「野放し」と見なされていて、非常に問題視されている
・同人業界も自主規制などの取り組みをやっているが、行政や議員側に全く伝わっていない
・同人業界側も自分達に向けられる誤解を解こうという様子が全く無い

とのこと。


また、松浦晋也氏によると、氏のブログ2010.03.20付「非実在青少年条例改正の継続審議 今後の動向についてmixiから転載」http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2010/03/mixi-0add.htmlにおいて、mixi内にてチェーンメール的に伝わっている伝言を取り上げ、

●真のターゲットは腐女子(女性が好む男性同性愛系創作、実は巨大マスマーケットでもある)、少女マンガ(近年とみに過激になりつつある)、同人誌(マスマーケットとして無視できなくなっている)

と都が腐女子をターゲットとしているとの話が伝わっている。


基本的に、私は伝聞情報には痛い目に遭った事のある経験上、ブログで出所不明の伝聞情報は極力掲載しないように努めている。(参考:2009年04月13日付「他人の主張を鵜呑みにするなかれ」http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51480657.html)
もし仮に伝聞を掲載するとしても、信頼性のある方からの情報でない限り、掲載しないようにしている。情報源も、可能な限り公開する事で、その情報の信頼性を高めるよう、執筆に際しては心がけているつもりだ。

そういう立場からすると、この話を、そのまま鵜呑みにする事には結構抵抗がある。
確かに、同人業界側には、これといった窓口が無い。
東京都青少年問題協議会等の議事録より規制側の立場を見ると、業界団体に指導し、自主規制を促す事で管理したい旨の発言もあった。
そういう意味では、確たる団体の無い同人業界、東京都が「野放し」と見て規制される可能性は、充分現実味のある話だ。

話はそこそこ理が通っていようが、情報源が問題だ。前者はどこかの掲示板の匿名情報、嘘を付く動機も見当たらないし、話はそれなりに通っているので信じても良いかもしれないが、元をたどれば出所不明の匿名情報なので完全に信じきるには躊躇する。もうちょっと情報の出所がはっきりすれば、信じられそうなのだが…。
後者に至ってはチェーンメール、完全に出所不明の匿名情報源だ。
松浦氏は信じていらっしゃる模様だが、私には噂レベルの話にしか見えない。…信じるには躊躇う所である。


そんな事も考えながら、都条例改定の元となった部会「東京都青少年問題協議会」の議事録(第7回専門部会/2009年6月)http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/28b7giji.pdfを眺めてみると、ちょっと違った話になっている。

全般的に、18禁図書の区分陳列をより徹底させるには如何にすべきか、という話が中心。
何故東京が、他都道府県のように包括指定をせず個別指定なのか、という話は個人的には興味深かった。
包括指定すりゃ事務方は楽だが、それは大人の思考停止になる。自主規制の指導と個別指定の両輪で攻めた方が、「18禁をガキに見せない」って部分で実効性ありそうだ、とかそんな感じのお話だったように読み取れる。
東京都側・規制側の考え方の一端が見え、興味をそそる物があった。

…話がずれて申し訳なかったが、同議事録p13-14を見ると、上記のターゲット論と異なる認識のコメントが掲載されている。
これは、東京都青少年課、すなわち、規制政策を司る…規制の実働部隊・責任者の1人である青少年課長の発言である。


>○青山青少年課長 そうですね。同人誌につきましては、結局、中身がどういうものかというのは私どももチェックはしているのですけれども、先ほど申し上げたような知事が指定をして告示をして、それを売らせないようにするという、そういった仕組みになかなか乗りにくいというか、実際に条例を施行するという立場から、この仕組みで指定をすることによる効果というのがなかなか期待できませんので。

> ただ逆に、売られている場所がかなり限られていて、秋葉原などの同人誌専門店で売られておりますので、そういう意味では、私どもも、2年ほど前ですが、秋葉原のそういった専門店に対してちょっと中を見せていただいて、基本的には18歳未満の方には見せられないような内容のものについて、例えばフロアを完全に分けていただくとか、あと、コミックマーケットなどでも、主催者側もそういったことには非常に協力的でございますので、その中での指導をちゃんとしてもらいブースで18禁のものを扱っているところには、そういった子どもというか、中高生の方が買えないようにということで、実際にこの条例の趣旨を守っていただくようにということでご説明したり、ある意味、行政指導と言うのかもしれませんけれども、そういったことをやっております。

東京都青少年課長の現状認識という事で、少し長いが全文引用させていただいた。

・「そういった仕組み」すなわち「有害図書指定制度」を同人誌に適用しても効果は認めない
・その代わり売られている場所が限定されている。一部専門店を拝見したが、ゾーニング等実施してる模様だ。
・コミックマーケットなど、主催者側もこちらからの行政指導には非常に協力的だ。

…いや、この文章を読む限り「同人業界は東京都の覚えが良い」という印象になり、同人ターゲット論とは明らかに相反している。
どう考えても、同人誌はターゲットの対象外扱いの発言なのだ。
ここまで同人業界が覚えが良いのは、コミケット準備会等主催者側が、サークルアピールでの呼びかけ・スタッフによる頒布物チェック等を通じ自主規制の努力を進めてきたからだと思うのだが…ここまで好印象なのは驚きだ。

このコメントを出された青少年課課長は、ありがたいぐらいに同人業界に好意的なのだが…第8回議事録http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/28b8giji.pdfの最後を拝見すると、その青少年課長がここで異動になりましたというご挨拶が…理解者が去るのは残念なりorz

異動は2009年秋。その後の課長さんがどういう認識の方なのか、いまいち解かりかねるが、前任者から極端に政策が変わるという事は、多分無いだろうと考える。

東京都が産経新聞の取材に応じ、都条例の趣旨を説明した記事(2010年3月)http://sankei.jp.msn.com/entertainments/game/100318/gam1003180500000-n1.htmによると、

>Q.国内最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット」が東京ビッグサイトで開催されているが、販売規制は及ぶか

>A.「自主活動の範囲なので対象には当たらないが、これまで主催者には販売場所を分けるなどの自主規制をお願いしており、今後も同様にしていただく。都が立ち入るなど、規制が強化されることはない」

とあり、多分前任者と変わらぬ認識なのだろうと推測される。
今後も、即売会関係者には、東京都との会話や協議を深め、今まで同様に東京都との信頼関係を醸成する事が求められると思う。

だからと言って完全に安心は出来ないのもまた現状だ。
同協議会では、吉川委員から再三にわたり同人誌を問題視する発言が繰り返されている。

今取り上げている「第7回専門部会」から例を挙げると、p35でこの同人誌は猥褻物だ!製造者をしょっぴけ!警視庁はしっかりしろ!(以上要約)などと主張されている。
吉川氏の影響力が何処まで強いかは不明だが(あくまで一パネラーに過ぎず、実務部隊の都青少年課に影響は及ばないのでは?と見ているが)、決して油断は出来ない。注意したい存在だ。

まとめると、こんな感じになる。

・同人ターゲット論 → 同人業界には確たる窓口団体は無く「野放し」と見なされる等、言ってる事には理屈が通っているが、情報の出所が匿名書き込みだったり、チェーンメールの噂レベルだったり、その信憑性に疑問

・同人ターゲット外論 → 東京都青少年課の現状認識は、前任課長・現職課長共に同人を対象外として扱っている。公式文書に掲載された発言等、情報の信憑性は高い。ただ、今後も同様の扱いとなる保証は無いし、東京都青少年問題協議会では一人の委員が同人誌を執拗に問題視しており気がかり。


どちらの可能性も充分考えられると思う。
ただ、私としては、情報の出所の確かな「同人ターゲット外説」にやや寄り気味の立場だ。

児ポ法の時に比べ同人界の動きが大人しい、と不満の声も反対派から聞こえるのだが、「同人ターゲット外説」に同人関係者が立つのなら説明が付く。
一応「同人ターゲット外論」の方が可能性は高いように感じているが、皆様からのご意見も頂戴できれば幸いである。

ま、自分的には「同人ターゲット論」「同人ターゲット外論」どちらでも反対の立場は変わらないのだが。
出版業界等、版権元が反対の立場を崩さない限りにおいては。