都条例改定問題の続きです。
規制反対派は、きっちり勉強して知識を蓄え、賛成派の誤解を解き、支持を増やす方向で取り組む事も必要な事の一つ、と私は考える。

ただ、当の反対派の皆様の、ネット上に流れる主張を拝見すると…残念ながら、その反対派にも不勉強な方は少なくない。
いや、私も決して勉強しているとは自信を持って申せないが、条例改定案の原文等必要最低限のテキストは当たっているつもりだ。
ネット上の反対派の主張を拝見すると、条例改定案の条文に当たる事無く(恐らく何処かのサイトを鵜呑みにしている?)、誤解したまま理解し、世に拡散させている様子が見える。

これでは、規制賛成派の誤解を解くなんぞ夢のまた夢である。
それ以前の問題で、誤った情報が世に拡散する事を、憂わざるを得なくなる。


ニコニコ動画に掲載された啓蒙動画「東京都青少年健全育成条例改正案」http://nicovideo.jp/watch/sm9995498/。
3/12に公開されて以来、僅か二週間で30万アクセス・10万コメント・1万マイリストと浸透。今回の改定案の危険を、多くの人々に知らせる事に貢献した。

しかし、私はこの動画を、手放しで評価する事は、決してできない。
何故なら、その内容に誤解が多く含まれているからだ。
その誤解が動画を通じて世間に浸透、間違った認識が蔓延する。
それは、長い目で見れば反対活動そのものにも悪影響を与える(詳細は後述する)。


今回新たに規制の対象候補となる「非実在青少年」。
「非実在青少年」の定義は、都条例改定案には、以下の通り定められている。(改定案第7条2項参照)

>年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させるものからなど18歳未満として表現されているもの

そして、非実在青少年の全てが、規制対象となるわけではない。

>非実在青少年を)相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係わる非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写

されるものについてを、青少年に頒布させないような努力義務として求めている。
尚、改定案第18条6の2以降では、この定義に基づく描写物(厳密にはそれ以外三次元ものも含む)を、【青少年性的視覚描写物】と呼んでいる。


当該動画に話を戻す。
この動画の主張を読むと、今回都条例の改定案の条文、「東京都青少年問題協議会」の議事録…といった最低限必要なテキストに当たったかすら、疑問に思えてくる。
動画の主張を拝見するに、誤解が多く混じっている。
その「誤解」は、必要な資料を精読せず、誰か他の人のバイアスが入ったネット上の記事だけ見て、それで物を主張しようとする事で引き起こされる。


当該動画は、以下の内容を主張している。

>音声も規制対象なので恐らく声優の演技等も規制されます

>ちょっとした悪ふざけがやらしい声だの下ネタ単語を出したら規制対象です

この条例の規制対象の定義の中に、「非実在青少年の姿態を視覚により認識」できるものとある。音声だけならば、明らかに規制対象外だ。


>たとえ設定上は成人のキャラであっても(非実在青少年に)含まれます

非実在青少年の定義を再掲。
「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させるものから18歳未満として表現されているもの」です。
見かけ炉でも、設定が18歳以上なら、「背景」などから「18歳以上として表現されているもの」扱いになるから、「非実在青少年」の対象外になる気がするのだが…。

先日、東京都の担当者が産経新聞の取材に対して語った釈明http://sankei.jp.msn.com/entertainments/game/100318/gam1003180500000-n1.htmによると、

>――架空の「非実在青少年」の年齢をどのように判断するのか
> 「ランドセルや制服、教室などが明らかに描写されている場合は、18歳未満と判断される。少女のように見えても、そうした点が表現されていなければ、18歳未満とはされない」

見かけ18歳未満でも、周辺背景で判断するとの話だ。
まあ、ぶっちゃけ騒ぎが大きくなったから火消しでこういう弁解したんだろうが…ただ、条文を素直に読めばこういう解釈になるような気がする。
私もここは100%の自信は無いので、逆にこうお願いしたい。(仮に設定が成年でも)見かけ18歳未満が「非実在青少年」扱いとなるならば、その根拠を該当条文付きでご指摘頂きたい、と。



>規制されるのはマンガ、アニメ、ゲーム、小説

前3つの媒体に登場する非実在青少年は、確かに「姿態を視覚により認識」「性的対象として肯定的に描写性的対象として肯定的に描写」との諸条件が付く事で規制対象となる。そこまでは良い。
だが、最後の「小説」は規制対象なのか?
「小説」は規制対象となるもう一つの定義「視覚による認識」で描写されたものには当たらない。仮に上記諸条件に適合しても、音声同様対象外だ。(あ、でも挿し絵にエロいのが入ってたら話は別ですが)

#そもそも都当局者が小説を規制対象に加えたら、それはトップへの謀反ですよw(注・都知事は小説家でもある)
彼らも最上級の上司に弓は引けない。規制対象から小説を外すのも、極めて自然な話だ。


>不健全表現(パンチラやヌード等)も規制

非実在青少年だからって、単なるエロ表現ってだけじゃ規制の対象にはならない。
規制対象には「性交類似行為」という条件があり、単なるヌード・パンチラだけなら規制要件に該当しないだろう。

非実在青少年が規制対象になるには、「視覚により認識」「性的対象として肯定的に描写」等の条件が付いている。
この動画では、二次元エロの全てが規制対象となるような語り方である。これでは、見る人に「二次元全てが規制される」という印象を持たれかねない。ミスリードになるのではないか。


というか、この動画の作者は、果たして条文読んでいるのか?
条文読み込んでいれば、この主張にはならんだろ?と個人的には思うのだが。
マトモに条文に当たらず、どこか他のサイトの内容を鵜呑みにし、丸写ししただけに映る。

だから条文内容を大きく外れ、誤解も含まれた「独自の解釈」になってしまう。そして、その状態での主張が、ニコ動というメディアを通じ拡散されるから、その中に含まれる誤解も広まる。


ただ、この動画も悪い所ばかりでは決してない。
後半部分、何故反対運動が盛り上がらないかの考察は非常に興味深かった。
特に、某署名サイトとの混同で「反対運動をした気になった」との指摘には、頷ける物があった。

当該動画は、最後に、政治家達への意見の送り方についての意見を述べる。
一ヶ所を除いて、概ね妥当な主張である。
ただ、その一ヶ所が微妙だ。


当該動画曰く、政治家に要望する時はこの発言を付け加えよとの事。

>憲法違反はやめてください
>表現規制はやめてください
>人間の声を有害規制は人権違反

この案件を「表現規制」と呼ぶ事の是非もあるが(「二次元規制」「マンガ規制」とかの方が個人的にはしっくり行く)、そこは長くなるので割愛。
まあとりあえず、今回の案件が「表現規制」に相当するとしよう。
ただ、仮に「表現規制」だとしても、あくまで表現の自由は「公共の福祉」の範囲内で保障されているに過ぎない。
もし憲法違反たり得る事を主張するのなら、【今回の規制内容が公共の福祉の範囲を逸脱している事を論証する必要がある】と思うのだが…

私が懸念するのは、ただ闇雲に「表現規制だ」「憲法規制だ」とぶつけた所で、受け取った側がどういう印象を持つかだ。

その一例となるのは、民主党・浅野克彦都議ブログ「青少年健全育成条例改正案問題のその後」http://asano-k.net/pc/modules/weblogD3/details.php?blog_id=32&date=201003の発言だ。
浅野都議は規制反対派の主張にも耳を傾け、理解しようと努めておられる議員さん。我々の側にも理解があり、他の議員よりも与し易い存在と言える。

ただ、その浅野議員ですらも、憲法違反ではとの声が数多く寄せられてきた事に、こう答えている。

>私が調べた限り、この改正案を裁判所の違憲立法審査にかけた場合、おそらく合憲との判断になるだろうとのことです。
>それは、罰則などの強制的な部分が極力少なくなっていることが大きいかもしれません。

そして、その上で反対派に対しこのような苦言を呈している。

>要は、「科学的な根拠を示すべきだ」と言っておられる方々が簡単に「違憲」という言葉を使うことは論理に整合性がないということです。

「科学的な根拠を示すべきだ」というのは、賛成派の「エロマンガは性犯罪を誘発する」等の主張に対し、反対派が用いる反論の常套句である。
ただ単に「違憲」というだけじゃなく、もっときっちりとした論拠を示しなさい、と浅野議員は暗に主張している。
先に申し上げた私の主張−「公共の福祉」の範囲内で権利は保障されるのだから、憲法違反を主張するなら、今回の規制内容が公共の福祉の範囲を逸脱している事を論証する必要あり−との主張にも通じる。
反対派に理解を示す議員ですら、こんな感じで苦言が出る。中立派の議員だったら、もっと悪い印象なのでは?と心配になる。

単に憲法違反だ表現規制だ言うではなく、理論武装をして相手方に臨んで欲しいと思う。
それが出来ないなら、反対派の印象が悪くなるだけだから、表立って意見言うのは控え、ロビー活動している人達に献金でもして後方支援するとか別の方法でご協力いただいた方がマシだろう。

話がそれたが、闇雲に憲法違反だ表現規制だ言わせても、逆効果の懸念がある。
それだけならまだ気持ちは分かるのだが…この言葉を言わせようとするのは非常に不味い。

>人間の声を有害規制は人権違反

何度も申し上げたが、「視覚による認識」が無いと規制の対象には入らない。「人間の声を有害規制」は確かに人権違反だろうが、そもそも今回の条例では「人間の声を有害規制」する条文が存在しない。
…で、これを政治家に意見メール等で主張しろと。
ちょっと待って下さい、規制対象に入ってない内容を規制だ言っても、それは事実に非ざる誤解を元にした主張になる。
意見の受け手たる政治家も、内心呆れよう。規制反対派は適当な事ばっかり言ってる、と足元を見られる。軽く見られるだけではないか。


そしてこの動画は、最後をこう締める。

>根拠のない思い込みによる表現規制になど賛同しないで下さい

…うーむ、どっちが「思い込み」やってるのかな、と首を傾げてしまう。
賛成派に思い込みが多いのは事実で、このセリフには本来同意なのだが…その言葉の主張者にも思い込みが…


と、ここまで延々動画批判になってしまったが、私が申し上げたい事としては以下の通り。

誤解のまま反対の声を上げるという状況は、受け手に軽く見られる元となる。折角の主張も聞き入れて貰えず、反対派の立場が不利になるだけ。
反対派は「勉強」をして知識を蓄え見識を高め、「論理」を築く…所謂「理論武装」が必要になると思う。
そして、条文精読は勉強の第一歩であり、かつ反対活動を営む上での第一歩。基本中の基本、と私は考える。


最後に、私が共鳴した意見文を引用し、この記事の結びとしたい。
PTA関係者の方ながら、PTA上がりの青少年協議会委員の問題発言を批判されているブログだが…杉江松恋は反省しる!「(3/10)非実在青少年規制の問題を考える前にやることがあるだろう」http://mckoy.cocolog-nifty.com/hansei/2010/03/310-edd0.htmlより引用。

>委員の思想的偏向を批判するのはいいけど、孫引きをしているせいで誤った引用をしているものが多い。そんなものを元にして請願書を書いても、つっかえされるだけだ。


作家・鳥山仁氏のブログ「頼むから、規制に反対したいのであれば、最低でも条例の本文ぐらいは読んでおくれ。」http://toriyamazine.blog100.fc2.com/blog-entry-286.htmlより。

>読まないで「楽して活動しよう」という人を見ると「反対活動をしてくれるのは有り難いけど、別の場所でやってくれ」という気持ちにさせられる。