「男の娘☆〜」という名称でオンリーイベントを定期開催、「夕張まんがまつり」も手掛ける、「モノリス」http://otokonoko.monolis.jp/というイベント主催がある。
このモノリスの関係者が、「男の娘☆」という名称を商標として登録した、とITメディアニュースhttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/1111/21/news124.htmlにて報じられ、話題になっている。
男の娘クラスタからは、「男の娘」の名称が使えなくなるのでは?との疑念もあり、世間的な反応は、お世辞にも芳しいとは言えない。

また、数多くの同人イベントを手掛ける「ケットコム」は、「コミック計画」http://ketto.com/ck/という名前の同人誌即売会の開催を決定。サークル募集を始めている。
「コミック計画」のユニークな所は、映画撮影の一貫として同人誌即売会を実際に開催し、その絵を撮るという所。参加費は無料だが、参加者全員が映画の「エキストラ出演者」になる可能性を有している。
撮影スケジュールの都合だろうか。平日12月12日の開催と日程は厳しい。だが、新しい試みゆえ注目が集まったのか、既に40サークル以上を集め好調である。

その「コミック計画」が、コミックマーケット準備会と思われる(本当にコミケット準備会からのものかは11/24朝現在不確定)メールアドレス(comlket.co.jpのドメイン)から、警告文を送られた模様だ。

参考URL・http://ketto.com/ck/ck12comike.htm

「コミック計画の略称に「コミケイ」「コミケー」が用いられると、コミックマーケットの略称にして登録商標でもある「コミケ」に似てしまう」という事で、是正を求めているようだ。
ケットコムも、要望内容自体は筋が通っているとの立場を取り、サイトデザインの変更・注意喚起の文章掲示など、警告文の要望に沿い対応した模様だ。、事実上ひと段落付いたと見て良いと思う。

しかし、今週に入って、急に二件も同人界隈で「登録商標」の話題が舞い込んでいる。
馴染みの無い「商標」の話題が矢継ぎ早に舞い込み、戸惑う方や誤解される方も少なくないかもしれない。

私自身は商標の専門家ではないが、某資格試験の勉強過程で、商標法のおおよそは習得している。
基礎的な内容のみの習得だが、私が習った内容に基づき、この両件に対する自身の見解を申し述べたい。

まず、商標法第1条に定められた、商標の要件について申し上げたい。

「文字、図形、記号・立体的形状もしくはこれらの結合またはこれらと色彩との結合であって、商品・役務に使用するもの」

「男の娘☆」は、「役務」「記号」に該当(記号☆が入ってるので記号商標の扱いか?)、商標としての要件は満たしている。
商標権の効力は、主に〇藩儻↓禁止権使用権を設定する権利、の3つである。
使用権は、登録された商標を、登録時に申請した役務内容に沿って商標権者が使用できる権利。
つまり、「男の娘☆」であれば、その商標を【同人イベント】で使用できる権利と言える。
但し、類似の商標(例「男の子☆」)とか類似の役務(例・同人誌読書会とか)で使える事までは保証していない。

問題は「禁止権」である。
これは、同一の商標・役務は元より、類似の商標・類似の役務も含め、他者が利用する事を禁止する事ができる権利である。
商標権者が禁止権をみだりに行使すれば、表現者が萎縮する元にもなりかねない。
具体的には、「男の娘☆」の類似商標である「男の娘」も使えなくなるのでは?という部分が心配であった。

但し商標の禁止権は、決して無双ではない。
公共の利益を鑑み、禁止権に制限が加えられるケースもある。

商標法第26条の、禁止権を制限する規定について見てみたい。
その中に、こんなのがある。

「指定商品・指定役務または類似商品・類似役務について慣用されている商標」
確かに「男の娘」は類似商標だが、ある一定のクラスタには常用されており、既に【慣用】されていると見なせる。
上記禁止権の制限要件に該当するため、「男の娘」そのものには、禁止権が及ばないと見て良い。
逆に言えば、「男の娘☆」ならともかく、慣用化されている「男の娘」には、商標権者といえども異議は唱えられない。唱えたら越権の恐れ濃厚だ。

ちなみに、「男の娘」の禁止権制限については、この要件でも説明できるかもしれない。

「指定商品・指定役務または類似商品・類似役務の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格、時期などを普通に用いられる方法で表示する商標」

「男の娘」は普通に用いられる単語か?という事で議論が分かれそうだが、こちらの切り口で「男の娘」の使用が禁止できない事を立証できるかもしれない。

最後に、使用権の設定について。
これは、商標権者が他人の使用を許諾する権利。いわゆる「ライセンス」である。
「男の娘☆」という商標の使用権の設定であり、類似商標「男の娘」の使用権ではない。
商標権者が、「男の娘」という語を使用する許諾を胸先三寸で出せる権利ではない。
イベント名としての「男の娘☆」の使用ライセンスの設定のみが可能である。


さて、ここで「先使用権」という概念を紹介したい。
先使用権は、商標・特許・実用新案・意匠に認められている権利で、(商標などを)登録するより以前から使用していた人に認められる、使用権である。
今まで使っていたものが、商標登録により急に使えなくなるという使用者の不利益を保護するための措置だ。

例えば、「男の娘☆」公式サイトhttp://otokonoko.monolis.jp/otokonoko.phpには、こう書いてある。

>「男の娘」という名称は当団体が独自に考え出した名称であり、
>2006年秋より毎年2回開催しているイベントの名称です。

だが、それ以前よりこの名称を使っている人々も少なくない。
こういう人達に、先使用権が与えられる。

ユウメディアが、何故商標登録された「コミケ」の語を用いてイベントを開催できてるか。
色々理由があると思うが、コミケが商標登録する以前から「コミケ」の語を用い、先使用権が発生している、というのも要因の一つと言えよう。

「男の娘☆」についても同様で、商標登録以前より「男の娘☆」の名称を用いてた場合、先使用権が発生し、商標権者が使用を禁じることができない。

#但し、商標権者以外の使用者が「善意」(=商標登録の事を知らない)である事が条件。

そう考えると、「男の娘☆」で商標登録した所で、彼らの商標権は、意外に限られいるのではないか。
慣用語句への制限規定や先使用権を考えると、商標権者が「男の娘」の使用を独占するといった問題は起こり得ない。
大騒ぎする案件とは思えない。

それでも不安な向きには、商標登録に関する異議申立の制度もある。
登録自体への異議申し立ては、商標公報による発行から2ヶ月以内。12月上旬までは誰でも提訴可能だ。
また、これ以外に商標登録無効審判の制度もある。これはいつでも可だが、請求者は「何人も」と条文にないことから、利害関係者のみに留まる、と解される。提訴資格は、イベント関係者等に限られよう。
ただこれらを利用した所で、多分覆りはしないと思う。相当の腕利きが、余程説得力ある材料を揃えないと、難しいだろう。

「男の娘☆」は、「男の娘」の使用が彼らに独占されるのでは?との不安から騒動になっている。
十分な説明を以て不安の解消に努めれば、商標登録への反発も無くなるだろう。
具体的には、商標登録に至る経緯説明、禁止権を行使する範囲の明確化。
例えば、(商標権の制限規定に含まれるだろうが)類似商標の「男の娘」の他者使用を禁止しない旨、「男の娘☆何某」とついた同人イベントにのみ禁止権を発揮するが要協議で即禁止しない旨…は書いておく事を勧めたい。
使用権の設定方針も説明した方が良い。
最終的には主催が判断する事だが、そこまで書いておけば、世間の不安も解消され納得に至る、と私は思う。

つまり、慣用語句としての「男の娘」を我々が使用するに支障が無ければ良い。
現時点の登録内容と商標法を見る限り支障はないと思えるが、我々の殆どは商標制度を知らない。
知らないから、不安の声も上がる。
しっかり説明して、不安解消に努めていただきたい。

一方、「コミック計画」については、略称に「コミ計(コミケイ、コミケー)」が使用された場合、コミケットの商標権の侵害になるとの警告が出されている。
これは、登録商標「コミケ」の類似商標の使用と見なせる。
類似商標の使用を未然に防ぐべく、商標権者に与えられた禁止権を行使したという構図か。

ここまで商標法について解説したが、関連して不正競争行為防止法についても触れたい。
具体的には、周知表示混同惹起行為・著名表示冒用行為…両行為の禁止規定について触れる。

周知表示混同惹起行為は、他人の商品・サービス・営業等、需要者の間に広く認識(=【周知】)されているものと同一・類似の表示を使用して、他人の商品等と【混同】を生じさせる行為。
条文には明記されていないが、これは実際に混同しなくとも、恐れがあるだけで規制対象になると解される。
代表例として、俳優・高知東生氏が「高知東急」の芸名を用いていたものの、東急グループとの【混同のおそれ】を理由に使用を禁じられた判例が挙げられる。

コミック計画は、サイトデザインもコミケに似ていたものの、略称として「コミケイ」等が用いられていた事実はない。
コミケと混同した事実もない。
しかし、私は高知氏同様「混同のおそれ」なら存在したと見ている。(人によって判断の分かれるところかもしれないが)

仮定の話だが、このまま突っ走って提訴だの重たい事になった場合、ケットコムが負ける危険性もそれなりにあっただろう。
もっとも、ケットコムも、素直にデザイン変更・注意喚起等対応したので、そういう危険は現状皆無だろうが。(だから現状は【ひと段落付いた】とも言える)

不正競争防止法にはもう一つ、著名表示冒用行為というものもある。
先の周知表示混同惹起行為との違いは、「混同」がなくとも、著名なものを不当に利用した営業行為が咎められるという事。

ここで言う「著名」は「全国的に知られているもの」が想定される。
これを第三者が利用し、,燭西茲蝓淵侫蝓璽薀ぅ鼻豊▲瀬ぅ螢紂璽献腑鵝粉釈化=著名表示の希少価値が薄められる)ボリューション(高級イメージの汚染)する事が咎められる。

コミケの認知度は全国的ゆえ、「著名表示」に該当しよう。
前記 銑の各事象の中なら、.侫蝓璽薀ぅ匹もっとも有り得るだろう。

但し、コミック計画が「コミケ」という著名表示を冒用したかどうかとなると疑問だ。
そもそもケットコムは、有力主催の一人であり、独力で多数の参加者を集める力量を持つ。わざわざコミケの看板を使う必要性がない。「冒用」とはなり得ない。
周知表示混同惹起と違い、「冒用のおそれ」レベルで咎められた判例も見あたらないので、「おそれ」があったとしても咎められないのではないか。
著名表示冒用行為でコミック計画が咎められる可能性は、限りなくゼロに近いと考える。

「男の娘☆」について言えば、著名表示はもとより、周知表示に相当するかどうかも難しい。
「周知」は「全国的な周知である必要はなく、同一・類似表示の使用者の営業地域において、その顧客層の間で周知であれば足りる」というレベル。
同人・オタ層の間でこそ周知されているものの、一般的な認知度は低く、ここで言う「周知」に相当するかとなると微妙だ。

「男の娘☆」については、不正競争防止法の抵触より、商標制度の抵触の方が有り得る話であろう。

「男の娘☆」公式サイトhttp://otokonoko.monolis.jp/otokonoko.phpには、

>「男の娘」や「オトコノコ」等に類似する、名称と内容で利用すると不正競争防止法に違反となる可能性がある

とあるが、不正競争防止法ではなく商標法の違反だと思うので、重箱の隅っぽいがそこは訂正した方が良いだろう。

以上が私の見解である。
基本的に、大騒ぎには値しない案件と見て良いだろう。