f3f752f1.jpg同人誌即売会「七味」は、2011年秋に第一回目が開催。初夏と秋との年2回開催され、今回が第三回目となる同人誌即売会だ。
主催が私の知己であるというご縁もあり、今回、長野に足を運びサークル参加させていただいた。

今回参加した上での感想としては、まだ三回目の即売会、主催も不慣れだ。そんな中、試行錯誤しながらも頑張っていらっしゃる。そういう印象を抱く。
その一方で、まだまだ改善の余地や気になる点も残る。
言わば「発展途上の即売会」でもある。

改善された点としては、チラシやパンフレットの装丁が挙げられる。
開催地の近くは「川中島の戦い」古戦場もある土地柄だが、武田信玄と上杉謙信をモチーフにしたデフォルメキャラを描いたイラストを起用。イメージを一新させた。
以前のチラシがいささか地味目であり、参加者への訴求力を疑問視していたので、新イラストの導入も、改善と見なして良いだろう。

また、ブログやTwitterを用いた新着情報の提供や、北信・中信に止まらず他県にもチラシ配布を図るなどして積極的に告知の幅を広げており、これらも「七味」が取る「改善」の姿勢の現れである。

他にも、参加したサークル全てに挨拶するマメさもある。サークルとのコミュニケーションを取り、サークルとの親密さを深めようとする努力の表れだ。
また、即売会終了後には、サークルにお礼状をしたためている(画像参照)。主催氏が、参加サークルに感謝の気持ちを抱くからこその取り組みと言えよう。


即売会自体の雰囲気は、一般参加者の初動も20名程度であり、極めて穏やかなものであった。
場の雰囲気を乱す者も、誰一人として居なかった。これも、主催氏の人徳の賜物だろうか。

規模的には40sp程度。他の長野市内の即売会が80〜100spと好調であり、差は顕著だ。
だが、去年立ち上がったばかりの新米即売会が、そう簡単に回数重ねた既存の即売会に肩を並べられるほど、世の中甘くは出来ていない。
既存の即売会が何故サークルを集められるのか?等、既存即売会を研究し良いところを盗むよう心掛けていただく事が望ましい。
それができれば、既存即売会に比肩する存在になるだろう。

ジャンル傾向としては、創作の5サークルが最大勢力だ。
これは、「COMIC FACTORY」や「メガマニアックス」等の信州を代表する即売会にも見られる傾向のようだが、信州全体で創作が盛んな土地柄たる事も影響しているものと思われる。
他は、東方・ボカロが各4サークル、ヘタリア・テニプリが各3サークルと言った具合だ。

参加層は、サークルだと男女比2:8ぐらいで、標準的な地方開催同人誌即売会と同じ位の構成比率だ。
一般参加は、女の子ばかり。これも、一般的な地方開催同人誌即売会の水準だ。
年齢的には、高校生から大学生ぐらいが多い。これも一般的な地方即売会の水準だろう。

特徴的な事としては、地方即売会では「居て当たり前」のコスプレイヤーが、この即売会においては、殆ど見られない事が挙げられる。
この「七味」においては、コスプレスペースと即売会スペースの部屋を完全に分離している点が特徴で、コスプレイヤー用に撮影ルームを何部屋か用意しているのだが…手が空いた時に撮影ルームの様子を見に行っても、撮影ルームは「空」であった。
結局、コスプレイヤーは、私が確認した限りにおいては、片手で数える程しか居なかった。これは、他の地方即売会と完全に乖離する傾向である。

もし、コスプレイヤーの参加を促したいのならば、撮影ルームの改善が必要だろう。
他の地方即売会だと、コスプレイヤーが自由に撮影に動けるよう、基本的には何も物は置かない。
また、主催側も壁掛けの背景布を用意する等、コスプレイヤーの撮影活動をサポートしている。
一方「七味」は、椅子机が置きっぱなしの部屋もあり、コスプレイヤーには「不親切」である。背景布の用意も無い。
コスプレイヤーを呼びたいのなら、もう少し他の地方即売会が普通にやっている事を見習う必要があるだろう。

但し、この件については、もう一つの別な見方も在る。
「コスプレが居ない」ということは、【落ち着いて作品の売り買いができる】という環境でもある。
他の地方即売会のような、コスプレイヤーの数に圧されサークルが居辛くなる、という心配がない。
つまり、【落ち着いて作品の売り買いができる環境】という長所として見なす事も可能である。
この「長所」を伸ばす…即ち、頒布物の売り買いを促進させる企画を用意する、という考え方もできる。
例えば、これは秋田県大館市の「新装快店」が実行しているアイデアだが…サークルの頒布物を購入した参加者には、スタッフが、即売会後半開催のビンゴ企画で穴を一つ空けた状態でスタートさせている。
ビンゴ実施時にアドバンテージを設けることで、作品購入を促している。
他のイベントでは、一般参加者の先着順でイベント内のみ利用可能な金券を用意する等取り組んでいる所もあるが、予算が掛かるのが難点だ。
この企画だと予算を掛けず一般参加者の購入を促せるので、取り組みやすい企画だと思う。

コスプレ参加のテコ入れを図るか、或いはコスプレよりも「同人誌の売買」を促すか。
どちらの方向性で進むかは、主催の考え方次第だろう。


「七味」は諸々改善を図りながら頑張っている即売会という認識。私の評価も、基本的には高い。
だが、発展途上ゆえか、気になる点も何点か存在する。

一つは、主催氏が、如何なる即売会を目指しているのか?主催氏の目指す「頂」が、イマイチ見えてこない所にある。
前々段落コスプレの話も、「どちらの方向性で進むかは、主催の考え方次第」と曖昧に申し上げたが、これも、主催氏のビジョンが見えなかったからである。
ビジョン無き即売会は、漫然と惰性で開催を続けるだけ。参加者の支持も得られずに終わる。
そうならないためにも是非、主催氏なりの即売会像、ビジョンを固めていただきたい。

二つ目は、イベント運営者としての【経験不足】の問題だ。
例えば、会場・篠ノ井市民会館は、一階が音楽ホール。即売会は、二階の集会室や会議室を借りての開催だ。
無論、一階では「七味」とは別のイベントが開かれている。
こういう場合、通常は、会場入り口にポスターやPOPを貼って、参加者に分かり易く示している。
一階の別イベントも、それはやっていた。
しかし今回の「七味」においては、ポスターや案内POPの1枚も外に貼っておらず、参加者も何人か戸惑っていた。

多少の経験があれば、そういう細かいながらも押さえるべきポイントに、気付き易くなる。
例えば、都内で即売会を開催するケットコムやぷにけっと準備会は、ポスターやPOPの使い方が、非常に上手い。
記載内容、文字の大きさ、掲示する場所や高さ…参加者に分かり易く情報を伝える工夫に富んでいる。
数多くの即売会開催を通じての豊富な経験があり、それを生かし工夫を重ね、その賜物と言える。
(個人的には、一度上京して、ケットコムかぷにけっと準備会主催の即売会に足を運んでいただきたい。非常に勉強になると思う)

ローマの道は一日にして成らず。すぐには難しいかもしれないが、今後も様々な箇所でスタッフなり主催なり、今以上に経験を積んでいただきたい。
あくまでPOPの話は一例だが、それ以外の部分においても、経験を積むことで、新たな「気付き」が生まれてくる。
それが即売会を改善させ、参加者の満足度の向上に繋がる。そして即売会も、軌道に乗るのである。

三つ目の懸念は、これは二つ目の経験を積む部分とも絡んでくるが…主催氏に頼れる「仲間」が居るか、という点である。
ここで言う「仲間」とは、同人仲間というよりは、即売会主催者としての「仲間」である。
新米主催が失敗するパターンとして有りがちなのは、主催者仲間が居ず、適切なアドバイスをくれる人にも相談できる先輩主催も居らず、経験未熟な自分一人で判断せざるを得ず、失敗してしまうというケースだ。
地雷即売会の大半は、このパターンだろう。

逆に言えば、主催としては新米であっても、周りの主催仲間に恵まれれば大成する。
大9州東方祭のチ●ンコ増田氏だって、主催としては新米でも、周りの主催経験者らに教えを請い続けたから今がある。広島の東方椰麟祭にしても、前回記事で触れた京都の水越氏・久樹氏にしても、相談相手に恵まれたからこそ大成した。
相談相手の伝手でスタッフとして潜り込み、スタッフとしての経験も積めた。

…しかし、翻って考えるに、「七味」の主催氏はどうなのだろう?
誰か、何でも相談できる、何でも頼れる主催が居るのだろうか?
どうも私が見る限り、そういう存在が見えて来ず、そこに不安を覚える。
経験の無いまま、心細く一人で判断せざるを得ない状況に陥っていないだろうか…そこが心配の種だ。

これを解決する一助として、私は、「同人誌即売会主催者連絡会」への加入を、主催氏に勧めた事がある。
連絡会は、一人で悩んで困っている主催に助けの手が出せれば…という思いから結成された組織だ。
連絡会加入の百戦錬磨なベテラン達が相談に乗ってくれるし、定例会合に顔を出し、個性的ながらも頼れる主催達との人間関係も築けるかもしれない。
彼らとの触れ合いを通じ、新しい世界が拓けるかもしれない。
そう考えての提案であった。

…ただ何か事務局(新潟・ガタケット)から返事が来たのかどうか、自分もよく分からないのだが…(汗)
もし、「七味」主催氏から話が来ているのであれば、是非連絡会の輪に加えていただきたいものである。

だいぶ話が各所に飛んでしまい恐縮だが、「七味」主催氏は一生懸命頑張っているお人だと思う。
他のイベントの良いところを盗み、自分のイベントに生かせるようになれば、氏のイベントはもっと伸びるだろう。
氏の頑張りが実を結べば良いのだが、それを適切な方向に導く存在が、いらっしゃるかどうか。
居なければ頼れる存在をつくっていただきたいのだが…そこが気がかりな点である。