福岡県南部は、大牟田市と久留米市を中心に、独自の同人誌即売会文化が栄えている土地柄である。
若い世代など地元の人たちが気軽に参加できる。そういう地域密着型の同人誌即売会が、大牟田や久留米を中心に、多数開催されて賑わっている。

県都・福岡市だと、「COMIC CITY」のような大規模イベントや、「都久志祭」のようなオンリーイベントには恵まれ、一見賑わい豊かに映る。
ただ、地元の若い人たちが気軽に参加できる即売会に乏しい現状だ。
一方、福岡県南部では、若者向けの即売会が多く、福岡市とは対称的だ。

福岡県南部で開催される即売会の中で、代表的な存在と目されるのが、今回お邪魔した、この「へぱちょな」である。
「へぱちょな」は、大牟田市を地盤に年数回開催されるオールジャンル同人誌即売会。
へぱ氏・ちょな氏の2人の主催が立ち、二人三脚で頑張っている即売会だ。今風に言えば「2人の共同代表」で切り盛りしてる、と言った所だろうか。
最近は、大牟田での開催に留まらず、久留米市でも即売会を開催、好評を博している模様だ。

サークル規模は、最近はオールジャンル即売会の衰退傾向もあり、流石に減少傾向なのは否めない。
それでも、100〜200spの間を推移している。
福岡市内の街中で即売会を開いても、100sp集めるのは中々骨が折れる。
福岡市よりも人口規模の小さい久留米や大牟田でこれだけのサークルを集められる事は、間違い無く大健闘と言えよう。
長年の定期開催を通じ、地元の同人者に愛され、定着している即売会だからこその健闘、と言えるかもしれない。

会場は、JR/西鉄大牟田駅から徒歩5分の「大牟田労働福祉会館」。
公共交通利用組としては、駅から歩いて行ける範囲なのがありがたい。

会場建物の周囲に目をやると、自転車の駐輪が目立つ。
自転車での来場者も少なくないようで、地元人参加の多い事が伺える。

今回の「へぱちょな」は、78サークル108sp。
師走の開催という時期的なものもあり、普段よりも少なめかもしれない。
サークル数が多いときは、会議室や集会室のみならず、奥のお座敷和室にサークルを配置したこともあるようだ。
しかし、今回はサークル数が少ないため、会議室集会室だけで収まり、私が密かに狙っていた【お座敷配置】の夢は水泡に帰したw
和室は今回、来場者向けの「休憩室」として供用された。

参加者の年齢層としては、サークルについては、若干高めの印象。
20代以上の女性がメインで、地元サークルが多い模様だ。
頒布物にしても、買い手のニーズもあるから、ラミカ・ポスカ・アクセ等の小物系が多い一方、コピー本やオフセット印刷の本も、結構見かける。
都会のイベントに遠征できる程度の経済力を持つ年長者のサークルが、地元のイベントにも参加している、という構図だろう。

その一方、一般参加者の年齢層は、もう少し低めである。
自転車での来場者が目立つ事にも触れたが、自転車で来るのは大抵、「車の免許を持たない世代」…すなわち地元の中高生だ。
実際、このイベントでは、中高生の一般参加者を多く見かけている。(勿論、その上の世代の方も少なくないが)

参加サークルのジャンル傾向としては、殆どのサークルが、複数ジャンル掛け持ちの「よろず」ジャンルであり、集計は事実上不可能だ。
パンフレットをめくり、多く目に付いたジャンルを列挙すると…ボカロ、アクセサリー、創作、東方、Ib、黒●●(お察し下さいな事情により伏せ字)、ポケモン、イナイレと言った所か。
伏せ字にした(お察し下さい)のジャンルが全体の3割を占め、人気の程が伺える。
次いで、イナイレが全体の2割ぐらい。ボカロと東方が、その後に続く。

参加サークルは、初動が20〜30人ぐらいと少な目。
待機列の形成も、開場直前まで行わなくとも済むレベルだ。
但し、地方開催の即売会は、初動が弱くとも、来場者は尻上がりの傾向にある。
この「へぱちょな」も同様で、時が経つにつれ、買い手もコスプレイヤーも増え、場が賑わって行く。
企画としては、コスプレコンテストとイラストオークションが実施され、会場の雰囲気にささやかなアクセントを付けた。
画材屋の出張販売もあった。ペン等の文具を適宜購入でき、サークル的にはありがたい。

総じて見て、今回お邪魔した「へぱちょな」は、特に大きな問題も見当たらず、安定した即売会だったと言えよう。
サークルにしても一般参加者にしても、地元の方が多い。地域に根差し、そして地域に定着した良即売会であった。

ただ、「へぱちょな」にも課題はある。
主催氏の一人とお話したのだが、サークルが減少傾向にあるとのことだ。
また、若い世代の新規参入が少なく、サークルの平均年齢が高齢化しつつあるとの事だ。

私が思うに、この2つの事象は、密接にリンクしている。
確かに、常連サークルの存在は、即売会の規模を安定させてくれるありがたい存在だ。
だが、常連サークルが100%毎回参加してくれる訳ではない。生活環境の変化等で参加が難しくなるサークルも、絶対出て来る。
常連サークルに「のみ」頼るのならば、回を重ねる程に先細るのは避けられない。

常連の先細りを補うのは、新規のサークル参加者だ。
若者の参加が中心の地方即売会においては、中高生レベルの若人たちが、サークルとして新規参入する。
どうしても先細りする常連サークルの分、若いサークルが新規で参入し、イベントの規模は維持される。

しかし、「へぱちょな」においては、若い世代の新規参入が弱まっている。
常連サークルが頑張って支えているから、急激にサークル数の減ることも無いにせよ、若い世代が入って来なければ、サークル数は減少する。
そして常連サークルにしても、毎年1歳ずつ歳を取るから、その分平均年齢は上がる。

つまり、サークル数の減少も、サークルの高齢化も、どちらも【若手サークル新規参入の弱まり】が原因となっての事象である。
「へぱちょな」の課題は、【若手サークル新規参入の弱まり】という現象に、如何に立ち向かうかである。

ちなみにこれは、「へぱちょな」だけの問題では無い。
今年の春、地方即売会の雄ども目される、新潟の同人誌即売会「ガタケット」が、急激にサークルを減らし、存亡の危機という事でサークルに救援参加を呼び掛けた。
この「ガタケット」も、常連参加が多い故にサークル数の減少を食い止めては来たが、サークルの高齢化や若手新規参入の弱まりといった、「へぱちょな」と同様の課題を抱えている。

私は「へぱちょな」主催氏にこの話題を振られた時、明確な改善策を申し上げる事が出来なかったが、その後思索し、少し考えが整理できたので、そこについて次回論じたい。
これは「へぱちょな」や「ガタケット」のみならず、他の即売会主催の参考になれば、との狙いも持つ。