前回、大牟田の同人誌即売会「へぱちょな」に訪問し、同即売会が直面している課題について取り上げた。
具体的には「若手サークル新規参入の弱まり」、そしてこれに伴う「サークル数の減少」「サークル参加者の高齢化」という現象。これを解決し、即売会の更なる安定を図りたい所である。

しかしながらこの課題は、他の地域密着型の同人誌即売会にも当てはまる課題の一つではないか。
特に、新潟の同人誌即売会「ガタケット」と共通する部分が多い。
この課題は、特定の即売会だけの課題に非ず。多くの即売会に共通する課題である。
そう考え、今回記事では、【若手の新規参入を促す】というテーマを中心に、地方即売会の衰退化防止/活性化策について論じることとする。
この論が、地方即売会主催達の運営の一助となれば幸いである。


★参考リンク★是非ご一読下さい

ガタケットは今後どうあるべきか〜その方向性と論点〜
(前編)http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51876023.html
(中編)http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51876538.html
(後編)http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51876752.html


【地方即売会衰退の「中身」を見る】

地方のオールジャンル同人誌即売会の衰退原因については、幾つかの要因が挙げられる。

ガタケット論の(前編)http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51876023.htmlでも取り上げたが、「少子化に伴う人口減」「ネットの隆盛による即売会以外の発表の場の増加」等が、その要因として挙げられよう。
この流れに抗する事は、極めて難しい。
長期的に見れば、どんなイベントであっても、規模の縮小は避けられないものかもしれない。
しかしながら、やり方次第で、即売会が持ちこたえる事も、或いは発展を遂げる事も、決して不可能ではない。

私は、即売会衰退の「中身」に注目したたい。
一口に「衰退」と言っても、どんな衰退の仕方なのか。そこを見てみたい。
その中身を見つつ、それに対する処方箋を考え、即売会の維持発展に寄与したい。

地方即売会衰退の「中身」は、大まかに見れば以下2つに分類される。

(1)年長者が「卒業」し若手サークルばかりになっての衰退

(2)若手サークルの新規参入が少なく、常連サークルの先細りによる衰退


「おでかけライブ」等が代表例だが、殆どの地方即売会が、前者のパターンである。
地方即売会にはありがちだが、若手が新規参入するものの、その代わり、年長者が都会のイベントに流出するというパターンだ。
どうしても地方即売会は、都会に比べ動員数に劣る。
仮に人が来てくれたとしても、地元の若者が中心だから、一人当たりの購買力も劣るだろう。
サークル心理からすれば、作品を手にとってくれる都会の即売会に偏重しがちとなるのは致し方ない。

後者は、サークルが常連化して手堅いため、急激にサークルを減らす事は無い。
その代わり、サークルが同じ顔ぶればかりで飽きが来やすい、という欠点もある。
常連が多い為、年数を経過すればするほどにサークルの高齢化も進む。
若いサークルが新規で入って来なければ、高齢化はより一層顕著化するし、先細りする常連の穴を埋めることが出来ず、緩やかながらも衰退する。
常連サークルの多い新潟「ガタケット」や大牟田「へぱちょな」が、このパターンである。


【年長者「卒業」により衰退する即売会の対応策】

地元を捨てた年長者サークルの動き方を考える事で、対応も見えて来るだろう。
地元を卒業したサークルは、どこに行くか。結婚・就職等を契機に同人界そのものから足を洗う方もいようが、そういう方を除けば、【都会の即売会】に流れる。
一例を挙げれば、コミックマーケットは無論、コミックシティ、COMIC1、こみっくトレジャー等の大規模即売会。オンリーイベントに流れる方もいよう。
こういった都会の即売会での告知を強化する事で、都会の即売会に参加するサークルさんに、地元の即売会をアピールするという方法が有力だ。
人間、仮に都会に出ても、地元には愛着が深いもの。地元というだけで懐かしさも強くなり、訴求力も大きくなるというものだ。

この方法で成功を収めた即売会は数多い。
…というか、地方即売会でサークル集めに成功した即売会の大抵は、都会での告知に力を入れている。
代表例は、金沢の「北陸本専」。コミケ全サークルにチラシ配布という荒行をこなし、一定サークルを集める事に成功している。
「へぱちょな」絡みで九州の事例を挙げれば、少し昔だが「あるばれすと」(NPO法人Project Arbalestの前身)が九州で主催したラグナロクオンリー「らぐけっと」も挙げられるだろう。
まあNPO法人時代の「tenjin.be」を例示しても良いのだが…個人的には「らぐけっと」がサークル集めに成功した秘訣を聞き、目から鱗レベルの感銘を受けた記憶が蘇ったので、何となく取り上げたw

この方法は、都会に流れたサークルを地元に取り戻す、最も有力な方法である。
だが、高コスト体質で、対費用効果が決して良くない事が、大きなネックとなる。

都会のイベントは、全国各地からサークルが集まる。
全サークルにチラシを撒けば、その地域のサークルにも手に取って貰えるだろうが、その地域に縁の無いサークルに行き渡る率の方が圧倒的に大きい。
率直申し上げて、効率は非常に悪い。
地元に縁のあるサークルさんだけピンポイントで配布できれば効果的だろうが、そんな虫の良い話は世の中存在しないw

先述の「北陸本専」だって、コミケ35000サークルに配布して、参加は100サークルだ。
効率は良くないし、35000枚撒くからコストも高い。人的要員の確保も大変だ。

都会でのチラシ撒きが効果あるのは間違いないが、手間とコストが膨大で、それに見合った効果があるかとなると、実行に移す主催が少ないのも仕方ないかもしれない。
如何に効率を高めるかが、大きな課題になるだろう。
(効率を上げる方法としては、webサイトとの相乗効果を図る、告知イベントを絞るなどの方向性が考えられるが、この辺りも更なる検討が必要であろうか)

【新規参入サークル減少により衰退する即売会の対応策】

一方、「ガタケット」や「へぱちょな」のように、年長サークルを「卒業」させることなく、サークルを常連化させている地方即売会も、数は少ないながらも存在する。
リピーター化できる秘訣は色々あるのだろうが、主催や運営がしっかりしているが故の賜物だと思う。
こういう即売会は、サークルの離反も少ない。急激に数を減らす事もなく、減少も最小限に抑える事ができる。
即売会としての「寿命」も、長く保つことが出来る。
地方即売会/オールジャンル即売会衰退の流れの中踏みとどまっており、健闘と評価できるだろう。

しかしながら、こういう即売会は、得てして若手サークルの新規参入の動きが弱い。
年長者の常連サークルがレベルの高い作品を出す分、若い人たちは気後れしてしまうのかもしれないが…
若手の新規参入が無ければ、常連サークルだけが高齢化し、余計に若いサークルが入りづらくなる。即売会の雰囲気自体が硬直化し、停滞してしまう。
それに、常連サークルだって皆が100%同人活動を続けられるとは限らない。先細りし、数字上も衰退しよう。

即売会の衰退や硬直化を防ぐためにも、若いサークルにどんどんサークルとして挑戦し、参加して貰いたいもの。
それが、即売会の活性化に繋がる。

若手のサークル参加を促すに当たり、主催の役割は、【若手にサークルとして楽しんでもらえる環境づくり】にある。
この事を意識し、各イベントに合った施策を心掛けていただきたい、と願う。

例えば、サークル参加に当たっての負担に軽減を図る、という方策もある。
若い世代は経済力が弱いから、サークル参加費やイベントカタログ代の負担も大きい。
過去、「ガタケット」はサークル参加費が2000円代で、学生には重い負担である事を指摘。サークル参加費の「学割」を提案した。
イベントカタログも全員購入制とせず、自由購入制にする事も、サークル参加に際しての負担軽減に繋がるだろう。
(「へぱちょな」はサークル参加費1000円だしパンフも100円と安く、若者のお財布に優しい)

どこかの即売会(←どこの事例が出てこない…赤ブーさんだったっけ?)で既に取り組まれている事が、コピー本制作講座、なんてのを開いても良いだろう。
サークルに参加しようと迷ってる若者を、サークル参加に導く最後のひと押しになるかもしれない。

コピー本とまで行かなくとも、ラミカ講座/ポスカ講座でも良いと思う。
個人的には「本」にも挑戦して欲しいとは思うが、ラミカやポスカのような小物類の方が、サークル活動に入り込み易い。
先ずはお手軽にサークル活動のできる小物類でも良いから、同人活動をスタートして貰い、同人活動の楽しさを覚えていただこう、という観点だ。
特に「へぱちょな」のような、一般参加者に若者の多い即売会にお勧めしたい施策である。
考え方としては、「一般参加者をサークル活動にいざなう」という方向性だろうか。

以前私は、福井県敦賀市の同人誌即売会「Butterfly」(現在は主催が代わり後継イベント「chapter」が継続開催中)の、同人初心者を強く意識した取り組みの中に、優れた点の多い事を取り上げた。

★参考リンク★
3/20 福井県敦賀市「BUTTERFLY」参加レポ
http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51472604.html

地方開催同人誌即売会の告知方法
http://blog.livedoor.jp/analstrike/archives/51368576.html

この即売会は、駅の待合室、コミュニティーセンターやコンビニエンスストアと言った、地元人の集まる箇所に告知を図った。
同人に縁は薄いスポットかもしれないが、地元密着を徹底して極めた告知であり、注目に値する。
告知の徹底で一般参加者が増えれば、その分、「自分でもやってみよう」とサークルに流れる方も増えるだろう。

だがそれ以上の注目点は、サークルに初心者の多い事を考慮した、サークルへの親切な案内だ。
サークルに封書で届く案内は、ただの注意書きではない。
「サークル参加マニュアル」と題し、サークルへのマナーを啓蒙したり、「当日の持っていくと便利な持ち物リスト」を掲載したりと、【サークル同士が気持ち良く活動できる環境づくり】を意識した案内を心掛けていた。

似たような例としては、長崎の同人誌即売会「気分は上々」の取り組みが挙げられる。
イベントカタログ上に見られた取り組みだが、サークルへの頒布方法をアドバイスする記事等を掲載し、サークルにとってのお役立ち情報、「生活の知恵」を提供している。

今では大規模即売会と化したが、関西の「こみっく☆トレジャー」は、初心者の参加の多い時期もあった。
そこでトレジャーはカタログに、先輩サークルから集めた初心者サークルへのメッセージを掲載したこともある。
「売れなくとも、めげずに頑張れ!」「続けてれば足を止めてくれる人も増えるよ!」等先輩サークルからの熱いメッセージが寄せられれば、初心者サークルも勇気付けられる筈だ。

…とここまで、様々な取り組みを取り上げたが、それだけ(私が主張する)【若手にサークルとして楽しんでもらえる環境づくり】の方法は、多種多様であり、様々な切り口のアプローチが可能である、という事でもある。
全てを模倣せよとは申さないが、ご自身の即売会に合った取り組み方があるはずだ。
【若手にサークルとして楽しんでもらえる環境づくり】が主催の役割の一つたることを念頭に置き、自身のイベントに合った方法を模索していただくことで、若いサークルの新規参入に繋がれば、そして更なる即売会の活性化に繋がれば、私としても幸いである。