同人誌即売会主催団体「SDF」は、これまでに数多くの同人誌即売会を開催してきた、同人界隈における老舗的存在の一つだ。
私がこのブログ「STRIKE HOLE」を現在の形で立ち上げたのは、今から9年前の2005年秋口。その時点で既に、SDFを、オンリーイベント開催経験の豊富な「老舗」として認識していた。
それだけ昔から、たぶん10数年のスパンで、即売会の主催を続けているという事だ。
ジャンルに多少の変遷こそあれ、10数年の永きにわたり第一線で活躍し続るだけのバイタリティやパワーには、改めて敬意を表したい。

SDF主催のオンリーは、ラグナロクオンラインオンリー「RAG-FES」が代表的存在だが、他にも数多くのジャンルに進出している。
昔はLeaf等ギャルゲー関連のオンリーやTYPE-MOONオンリー等も開催していたし、私は「ひぐらしのなく頃に」オンリーでお世話になった記憶がある。
最近では、2011年の魔法少女「まどか☆マギカ」オンリーが、60sp募集の所700サークル殺到も、柔軟かつ機敏な対応で、規模を拡大して開催させる事に成功。機動力・行動力の高さを見せた。
2012年以降は、元作品の舞台となる「聖地」でのオンリー開催にも積極的で、氷菓オンリーを岐阜県高山市で、たまゆらオンリーを広島県竹原市で開催する等の動きを見せた。

今回、SDFが艦隊これくしょんオンリー「砲雷撃戦!よーい!八戦目」を、呉(広島県)・舞鶴(京都府)に続き青森県むつ市大湊でも開催する事となり、私も足を運んだ。
大湊は、旧海軍の「大湊警備府」が設置され、呉・舞鶴同様、艦これ的にも「聖地」と言える。
本州最北端・下北半島奥地での開催ながら、実に600人も訪れ大盛況。成功を収めた。
こんな奥まった所で開催しようとは普通考え付かないだろうが、それを実行に移してしまうのは、先に触れた機動力・行動力があるからだろう。
また、慣れない会場での開催ながら、大きな問題なく無事に終える事ができたのは、普段の即売会開催経験の豊富さに加え、他ジャンルで積んだ聖地オンリー開催経験も活きていると思う。

オンリーイベントの聖地開催に当たっては、地元との連携を強化する事で、成功に導かれるケースが多々ある。
成功と評せるオンリーの大半は、地元の皆さんの協力を得ている。中には、会場取得に口を利いてくれたケースもあるが、そこまで来ると「地元の協力」が開催に当たっての「必要条件」となるだろうか。
SDFの艦これオンリーも、地元との協調を強める事を通じてオンリーを盛り上げ、成功に導く事ができたと思う。

先ず、大湊駐屯の海上自衛隊が、艦これオンリーの開催に呼応し、開催日前日に艦艇見学ツアーを開催した。
このツアーは、毎週土日に開催する定例の見学会だが、艦これファンの来訪を意識し受け入れに臨んだ。
SDFも、サイトやTwitter等で見学ツアーを宣伝。結果、57人と少なくない数のファンが訪れた。

SDFも、オンリーイベントでは珍しいが、「前夜祭」を開催した。これは、レセプション形式の立食パーティーだ。
開催場所はむつ市内のシティホテル。
地元業者の協力を仰ぎ、下北半島の田舎料理等名物が振る舞われたそうな。
会場内では大画面で艦これリプレイが実演され、大型艦建造で大量の資源を無駄にしつつも盛り上がったとの話だ。
これも、約100人が参加した。

無論、当日も地元のおもてなしは凄かった。
会場前に地元業者が屋台を出店。地元の名物や土産、飲み物等を振る舞った。
目玉は、漁協が今朝捕ったばかりという焼きホタテ。300人分を無料配布という大盤振る舞いで、早々に底をついた。
私は、来場が14時頃と遅めだったので、屋台の名物には殆どありつけず…
艦娘のイラストが彩るご当地物産品「ブルーベリー大福」や「砲雷撃戦カレー」は目の前で完売。代わりに辛うじて残っていた下北蕎麦をすすった。
私が来訪した2時過ぎには、殆どの物産品が完売し涙目だったが、それだけ売れたという事。せっかく町が頑張ってお店を出してくれた甲斐はあったという事でもあり、良かったとも思う。

こういう形での地元業者の出店は、参加者にもメリットが大きい。
会場周辺にはこれといったお店もなく、本来なら食糧調達に不便する筈だが、屋台出店により食糧事情も改善。
ご当地グルメを楽しめる、という付加価値も加わり、即売会の満足度も倍増するのである。

なお、地元の業者さんも、来訪者を受け入れるに当たり、艦これを勉強しようと試みたらしい。
…しかし艦これは、サーバー事情から、新規参入が制限されているゲーム。ゲームをスタートしたくとも、「抽選」という名の大きな壁がそびえ立つ。
…業者の皆さん、誰も艦これの世界に入れなかったらしいw
地元業者の皆さんが、一刻も早く艦これの世界に足を踏み入れ、艦これを楽しんでいただけることを願ってやまない(汗)

地元業者だけでなく、大湊の海上自衛隊も非常に協力的だった。
自衛隊は、会場前にブースを出し出店。近隣の北洋館等、海自ゆかりの見学施設をアピールしていた。
また、この日も艦艇見学ツアーを実施。一般参加者の待機列に宣伝ビラを配ったり、「護衛艦おおよど」でのコスプレ撮影もOKしたり…色々と分かっていらっしゃるご対応であったw

主催側からの働きかけに腰重く慎重だったJR東日本ですらも、この集まり具合を鑑み、大湊夕方発の列車を、急遽1両増結させたぐらいだ。

こういう形で、地元業者をプラスの方向で巻き込めるかどうかも、主催の力量だ。
SDF主催の聖地オンリーは、舞鶴しかりここ大湊しかり、地元の皆さんを上手く巻き込んでいる。
その結果、海上自衛隊は艦艇見学ツアーを売り込み、地元業者は名物料理を提供。
こういう趣向に期待感が植え付けられ、全国各地から多数の艦これファンが集う。
今回下北半島に600人も集まった訳だが、決してこれは、艦これというジャンルの勢いのみでは成し得ない。SDFが上手く地元業者を巻き込み、オンリーイベントの魅力を増幅させたからこその賜物である。

ただ、この即売会の最大の弱点は、【アクセス】である。
最寄り駅・大湊へのアクセスからして酷い。
確かに、青森や八戸から大湊行きの快速が運行され、下北半島への輸送を担っているが、本数は1日数本と極少。
しかも、所要時間は約2時間。
…大湊に足を延ばすだけでも気が遠くなりそうな展開だw

SDFの聖地オンリーは、東京のスタッフ仲間を連れてきてスタッフを賄うのが通例。
スタッフは皆関東勢だが、彼らの足は、七戸十和田駅からバスを借りて対応したぐらいだ。
それ程までに、大湊は時間がかかるし、しかも列車の本数も少ない、不便な場所なのだ。

…そんな所で即売会を開催しようなんて酔狂を始めるのが、SDFのSDFたるゆえんなのだろうがw

会場となった「みどりのさきもり館」、ここは、大湊駅から3kmは離れている。
やっと大湊に着いても、そこから更に移動が必要。バスも出ているが、1時間に1本あるかどうか…私は、バスを待ちきれずタクシーを利用した。
ちなみに、会場にはアクセス面での便宜を少しでも図ろうとしてか、【臨時タクシー乗り場】が開設される始末だw

…何この試されてる展開はw
即売会に辿り着くまでの過程からして、「エクストリーム・スポーツ」だ。
私がこれまでに来訪した数ある即売会の中でも、一、二を争うレベルのアクセスの悪さだw

だが、この「みどりのさきもり館」は、海上自衛隊施設目の前という立地。
大湊で開催するとしても、もっと市街地に近い、もっと便の良い場所もあった筈だ。
にも関わらずここを選んだ。アクセスを二の次としてでも、海上自衛隊施設そばという「聖地」としての立地にこだわった、という事なのだろう。
多くの参加者を呼び寄せたのも、この立地だからこそ、かもしれない。立地の魅力が、アクセスの悪さを上回ったという事だ。

では、アクセス不便なこの地に、参加者はどうやって訪れたのか?
実は、当日午前のJRは、それほど混んでいなかったそうな。しかも、次の列車まで3時間間が空いているにも関わらず、一般待機列はどんどん長くなる。
JRは余り利用されず、車での来訪者が多かったと見て良いのではないか。


みどりのさきもり館は、そもそも地域住民のための集会所的な施設。
普通に考えて、同人誌即売会を行うような施設ではない。…普通は。
そこに無理やり、35spを詰め込んで開催したので、会場内は終始混み合っていた。
当然、600人も入れる訳なく、開場1時間後のまで入場制限を掛けたそうな。
私が来場した14時頃には、完売のサークルさんも続出。一方で企業出店のD―STAGEに長蛇の列が絶えず…という光景だった。
頒布傾向としては、グッズサークルもあり、本サークルありと偏りが無い。キャラで見ると、ご当地だけに陸奥を描いたサークルさんが多かった。

カタログには、参加サークルの都道府県別内訳が記されていた。
最大勢力は、東京都の13サークル。青森の開催ながら都内サークルが1/3を占める展開は、聖地開催オンリーらしい。
そしてその次は、青森の8サークル。聖地開催型オンリーのもう一つの特徴である、地元率の高さも伺える。

一般参加者は、もう少し地元率が高かったようだ。
閉会後アフターイベントでの挙手アンケートによると、過半が青森県内。むつ市が全体の1/3とか。
県外の人間は、帰り道も考慮してアフターを待たずに帰ったという部分もあろうが、それを差し引いても尚、地元率の高さが際立つ。

この日の様子は、現地メディアの注目も集めた。
普段余り人の来ない街に、数百人も来るのは「事件」である。取材陣が足を運ぶのも当然か。
青森朝日放送は、朝のニュース番組で、当日の様子をレポート。
現地紙・東奥日報に至っては、【社説】としてこの日のイベントを取り上げ、論じた。(http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/sha2014/sha20140412.html)

どちらも、「萌え」を通じた新しい町おこしの在り方として、肯定的に捉えていただいている。
このイベントに足を運んだいち参加者として、好意的な論調は、素直に嬉しい。

しかしながら、両メディア共に、このイベントが「ファン有志」が「自主的に開催したイベント」である事をどこまで理解されているのだろうか?(これはむつ市の関係者の皆様方にも言えるが)
そういう疑問も沸き起こった。
知らない人がこれらの報道に触れると、艦これ「公式」のファンイベントが大湊で開催されたかのように受け止めてしまうのではないか?と心配する。

あくまでこのオンリーイベントは、版権元の公認イベントでも無ければ、公式のイベントでもない。
版権元のお目こぼしをいただく中で、ファンの有志が自主的に企画・運営しているものである。
各メディアには、公式ではない自主的な取組ながらもこれだけの事を実行している…!そういう「ファンのパワー」という観点から、このイベントを取り上げて欲しかった。
我々も、その点をご理解いただけるよう努めていきたいと思う。
このオンリーイベントが、「公式ではない」「ファンの自主的な取組」である事を、いかに肯定的に同人界隈外の皆様方にご理解いただくかが、今後の課題の一つになると思う。