元々、大阪開催のオールジャンル同人誌即売会「こみっく☆トレジャー」への参加は、私の夏・冬の「恒例行事」と化していた。
サークル参加しても手ごたえは充分あったし、また何よりイベント主催側の姿勢や心意気を高く評価し、敬意を表している。
(優良同人誌即売会を厳選して取り上げた拙著「この同人誌即売会がすごい!」にも掲載するレベルで、「こみっく☆トレジャー」への評価は高い)

しかし今回、家庭の事情により、夕方には都内にいる必要が生じて来た。
時間的に厳しいため、やむなく「こみっく☆トレジャー」への参加は断念させていただいた
当サークルの本を楽しみにされていた関西ならびに西日本各地の皆様には、この場をお借りしてお詫び申し上げたい。

とは言え、「こみっく☆トレジャー」不参加を決めたが故に、朝からお昼過ぎまでの予定がぽっかり白紙になってしまった。
最初は、米澤図書館に行って、同人誌即売会の歴史研究に関する調査作業の続きでもしようかと思ったが、この日、静岡県は伊豆半島の最南端・下田市で同人誌即売会が開催されるとの話も聞く。
サークル参加する予定だった即売会を欠席し、別の即売会に行くのも仁義的にどうかとは思ったが、下田市での同人誌即売会というのも珍しい。この機会を活かしたいという思いの方が勝り、下田に足を運ぶ事と決意した。
小夜衣


今回お邪魔したイベントは、オタクカルチャーの総合イベント「BlackShips-黒船-」

「各地で話題の痛車・コスプレイヤー・同人サークル・アニソンDJが静岡県下田の道の駅・【開国下田みなと】に大集合!!」

との触れ込みで、昨年より開催されているイベントだ。

元々この下田市は、2012年放映のアニメ「夏色キセキ」の舞台となり、それ以降聖地巡礼がファンが多数訪れている土地柄だ。
市内とある喫茶店のマスターも「夏色キセキ」のファンでとなり、この方を中心に、市内で「夏色キセキ」のファンイベントが随時開催されるようになった。その活動は、ゴミ拾い活動やオフ会・お誕生日会、アニソンライブと多岐にわたっている。(参考リンク・夏色キセキふぁんくらぶ

「夏色キセキ」を通じ、多くのファンが下田に集まった。
この流れを活かし、下田の町をより盛り上げていこうとの思いが生じたのだろう。
活動の幅も「夏色キセキ」に限定せず、より多くのオタクに下田に来て貰おう、そういう思いもあったのではないかと思う。
そうして2014年秋に立ち上がったイベントが、このサブカルチャーイベント「Black Ships―黒船―」である。

(参考リンク・昨年のイベントの様子)
静岡新聞「夏色キセキの聖地・下田 21日に「巡礼」イベント」(2014/9/18 15:00)
静岡新聞「痛車50台集結、コスプレも 下田でイベント」(2014/9/22 08:29)

2014年秋に第1回目を開催。それなりに好評だったようで、今回、2015年9月に第2回目の開催と相成った。
下田市や下田市観光協会、下田市商工会議所、伊豆急行株式会社といった地元からの後援も受け、「町おこしイベント」としての要素も備わってきたようだ。

即売会部門は、元々静岡市で不定期ながらも男性向けオールジャンル同人誌即売会の開催実績を積んでいる「小夜衣の詩」を招聘し、併催という形式を取った。
即売会は、サークル対応など、素人が参入すると意外にハマる傾向があるので、経験者「小夜衣」の力を借りるという選択は、堅実な判断だと思う。


会場は、伊豆急下田駅から徒歩10分の、道の駅「開国下田みなと」。
下田の魚市場や、伊東園ホテルにもほど近い、港のロケーションだ。

会場着いて、ステージ広場が賑わっていたので、そちらに足を運ぶ。
ライブステージは、大型トラックを転用した移動式・仮設のステージ。
多くのパフォーマーの方のライブが、入れ替わりで繰り広げられ、コスプレイヤーやら通りすがりの観光客やらが、足を止め聴き入っていた。

ステージイベントも、既に静岡市でアニソンイベント開催実績の豊富な『煌け!ワンダープロジェクト』を招聘し、「黒船」との「併催」という形にしている。
「小夜衣」と言い、経験あるイベント運営者を上手く巻き込んで、イベントを回している感がある。

ステージそばには露店が並ぶ。
下田名産品のさざえ飯や、ケバブ・萌え菓子・焼き鳥などのラインナップ。
私はさざえ飯を購入。これは帰りの電車の中で美味しくいただいた。

コスプレは、会場の道の駅内は全区域フリー。
艦これ・加賀さんや島風、東方・チルノ、夏色キセキあたりが目立ったが、多種多様だったと思う。

痛車に関しても、ジャンルは多種多様。
ご当地らしく夏色キセキは多かったが、東方や艦これ・ボカロ・ごちうさなど何でも揃っていた印象。
それもぞの筈、集った痛車も50台と相当の規模。高速道路も無く、最寄りの東名道インターからですら2〜3時間はかかる伊豆半島の最南端という立地の悪さを乗り越え、よくぞここまで集ったものである。


即売会「小夜衣の詩」は、道の駅4階の会議室を充てている。
入場はフリー、パンフレットは作らず、サークルカットを掲載した簡易リーフレットを配布する形で対応した。
規模的には20sp強。会議室もそんな広くないので、これが適正規模か。

ジャンル分布としては、「小夜衣」が元々男性向けオールジャンルであったこともあり、下田でも男性向けジャンルでの参加者が多い。
ジャンルはバラけており、1サークル1ジャンルの様相。
但し、ご当地らしく、ここでも「夏色キセキ」が3サークル4spと突出している。

昨年に引き続いて参加されたサークルさんによると、下田の海を一望できるロケーションが気に入って今回も参加したとの事。
確かに、即売会会場は港のそばの建物の4階。下田の海を一望できる環境だ。
言われてみて気付いたが、確かに素晴らしい景色である。
そしてそのサークルさんは、ビールを空ける。うむ、この景色を眺めながらのビールは旨かろうて…ってちょい待て、この会場も、飲酒OKなのね…
考えてみれば、「黒船」ステージ付近で普通にビール売っていたし、その延長線上なのだろうか。

(唯一の心残りは、同じ建物の2階で併催されている「鉄道ギャラリー」への訪問を失念していた事…こちらも面白い趣向が多かったので、非常に後悔しているorz)


こうして短い時間ながらも、下田のイベントに足を運ばせていただいたが、勉強になった点や参考になる点、光る点が多く目についたイベントだった。

特に、即売会部門で「小夜衣」の力添えを受け、ステージイベント部門で「煌け!ワンダープロジェクト」の力添えを得たように、他所の経験あるイベント主催を巻き込み、得意分野をお任せする体制を取った点が上手かった。
イベント内容は多岐にわたるから、主催側で全てを賄おうとしても上手く回し切れない恐れもある。経験者に任せた方が楽だし、堅実だ。
…とは言え、そう口で言うのは簡単だが、実際に上手くパートナーを見つけられないケースも多いと思う。
上手く協調相手を見つけられた事こそが、「すごい」事である。
そして、彼らにお任せできた事で、イベント全体の安定感も増したのではないかと思う。

下田という立地的に難しい場所ながらも、多くの方が足を運んでくれた点も、光る点の一つになると思う。
これは恐らく、「夏色キセキ」の存在が大きかったと思う。
「夏色キセキ」以降、下田に足を運ぶファンは間違いなく増えているし、その中でファン同士のネットワークも築かれている。その中心に立つ地元の方が、この「黒船」を立ち上げた訳だが、当然、参加者集めに際しても、ファン同士のネットワークが生きている筈だ。
だからこそ、夏色キセキのコスプレイヤーも痛車も、そしてサークルも多く参集した。
実際には夏色キセキ以外のジャンルからの参加も多かったので、彼(女)等から口コミで、ジャンル外の方に伝わった可能性も充分有り得るだろう。

個人的には、私自身が研究を始めている「コンテンツツーリズム」の中でも、「成功」と評せる興味深い事例として捉えている。
自分自身研究と研鑽がまだまだ必要な身、下田の皆様の取組からも、大いに学ばせていただきたいと思う。