2009年よりスタートした東方オンリー「大(9)州東方祭」は、九州の高い東方熱の後押しを受けつつ、参加サークルを急増させた同人誌即売会だ。
当初は博多で開催されたが、後に広い会場を有する、北九州市小倉での開催にて定着している。

「大(9)州」は、熱心な告知や、豊富な企画群も評判を呼んだ。
特にイベント終了後に行われる「踊ってみた」企画や、同人サークルによる音楽ライブなどの先進性高い企画は、大(9)州を起源としつつも、他の地域の東方オンリーに模倣されていった経緯もある。
より多くの参加者を呼び込もうとする努力が実り、九州全体、いや全国各地から参加者を集めた。
一時期は「博麗神社例大祭」「東方紅楼夢」に次ぎ、東方界隈三番手の規模に成長。東方界隈を代表する有力即売会としてのポジションを得、その威光を輝かせた

近年は、東方から艦これ等他ジャンルに転向するサークルも少なからずおり、その動向を受けて艦これオンリー「西海ノ暁」を立ち上げ。
これら他ジャンルオンリーとも併催する形での「大九州合同祭」として、規模の維持に努めている。

このような継続開催と発展の経緯を通じ、「大(9)州東方祭」やその発展形イベントである「大九州合同祭」は、九州・西日本における有力即売会としての「ブランド」を形成した、とも言えるだろう。
開催すれば、500sp近いサークルが九州各地から小倉に集い、福岡ヤフオクドームの「コミックシティ」に次ぐ規模。一般参加者も非常に多く、場の盛り上がりも相当だ。楽しい企画も無数にあるし、運営も大過ない。
参加者からすれば「閑散を心配することなく、安心して参加できる即売会」と捉えることができ、一定の品質が保証されているとも言える。
これが、「大九州」ブランドの「中身」である。
前記事でも触れたが、その「大九州合同祭」は、2016年に入り、九州各地の巡回開催をスタートさせた。
鹿児島・熊本・長崎・大分で開催。ブランド価値の高い「大九州」が、「おらが町」にやってきたとなれば、地元民は当然注目する。
「大九州」ブランドの効果こそ、各都市での「大九州」成功に繋がった要因と言える。

ただその一方で、500sp集まる「本丸」の小倉開催はどうだろう。
小倉開催のこのイベントは、九州全土は無論、九州島外も含め全国各地から参加者を集めるべき一大イベントであるはず。九州各地の巡回開催も、各地でサークルを掘り起こし、小倉に集めるプロモーション的効果が期待されるところ。
だが、2017年1月開催の「大九州」も、12月20日現在で445spに留まる。少し物足りないし、地方巡回の効果が現れているとは言い難い。

勿論この数字も、「大九州」以前の九州の同人事情(=福岡ヤフオクドーム開催イベント以外は軒並みサークル数2桁のイベントのみ)を知る身からすれば偉大な数字だとは思う。
ただ、同時に大九州の最盛期も知る身である以上、「大九州ならばもっと数字を伸ばしても良いのでは?」という欲目も出てくる。

九州各都市が好調な一方、メインとなる小倉が伸び悩む。それが「大九州」の現状と言えるだろう。
言い換えれば、「大九州」ブランドを九州各地に展開したがゆえの各都市の好調。その反面、本丸・小倉のブランド価値に地盤沈下が見られる、とも言えよう。
小倉のブランド価値向上が、「大九州」の課題となる。


「大九州」小倉のイベント価値を向上させるヒントは、赤ブーブー通信社の取組から見出せる。
赤ブーブー通信社は、「コミックシティ」ブランドの同人誌即売会を東京・大阪・福岡をはじめ全国的に展開。だが、全国一律に「コミックシティ」を展開していく中、特に東京・大阪の無印「コミックシティ」のサークル参加数が減少していった。
回を重ねる中で、無印「コミックシティ」で戦うことが、次第に厳しさを増していった。

そこで赤ブーの取った戦略は、【類似・新ブランド】の立ち上げという手法だ。
これは拙著「同人誌即売会の歴史」でも触れている通り、1995年の不祥事を乗り越えようとする危機感から動いている節もあるのだが、1996年に「HARU COMIC CITY」「GooD COMIC CITY」を新たに立ち上げた。大阪でも「SUPER COMIC CITY」が登場した。
また、2006年から「秋の新イベント」として新たに立ち上がった「COMIC CITY SPARK」も、従来秋開催ながらも動員力の弱かった無印コミックシティの「テコ入れ」目的と聞いている。

これらのイベントは、ブランドとして論じるならば、従前からの「コミックシティ」というブランド名を冠した「類似ブランド」である。慣れ親しんだブランド名を用いることで、参加者にとっての親近感を維持している。
その一方、「SUPER」「HARU」「SPARK」という新しいネーミングも付けており、「新ブランド」の展開という側面もある。
これら類似・新ブランドは、「特別なコミックシティ」という位置付けで訴求力を高めたブランドとも言える。

結果として、赤ブーの「類似・新ブランド」戦略が、1995年の不祥事を乗り切り今に至ることは、現状を見れば明らかだ。
数字面を見ても、「SUPER」「HARU」は万単位の規模に膨れ上がっている。21世紀に入ってからも、「SPARK」以前のコミックシティは東京ビッグサイトの1〜2ホールを埋めるのがせいぜいだったが、「SPARK」では2万サークルを超え全館貸切すら珍しくない。

(余談だが、男性向けオールジャンル同人誌即売会「こみっく☆トレジャー」の主催は、赤ブーの名をあえて使わず、「青ブーブー通信社」名義としている。主催名の名義変えも、赤ブーならではの「類似・新ブランド戦略」の一形態と考えられよう)


話を「大九州」に戻そう。
12月20日に、ダイレクトメールが送信され、その中で、今後の主催イベント予定も以下のように案内された。


【主催イベント予定】
(2017年)
01/15 北九州市・大九州合同祭9in小倉 ※現在326サークル445スペース参加確定、追加募集中
02/12 鹿児島市・大九州合同祭10in鹿児島 ※現在42サークル61スペース参加確定、追加募集中
03/12 福岡市天神・第八次、だいきゅうしゅうさくせん開始です! ※ガルパンオンリーです
04/08-09 佐世保市(艦これオンリー)西海ノ暁18 ※2日連続開催
05/03 新潟市・新潟合同祭1 ※全ジャンル参加可。新潟東方祭18、新潟艦娘祭1、ComicStream#16併催
05/28 福岡市・大州東方祭23 ※完全東方オンリー、他ジャンル参加不可
06/04 長崎市・大九州合同祭11in長崎 ※前回800人参加、スペース完全満了しました
07/16-17 金沢市・金沢合同祭1 ※16日は東方のみ参加OK、17日は全ジャンル参加可


気になるのは、「大九州合同祭9in小倉」という表記だ。
表記としては間違ってはいないのだろうが、これでは、長崎や鹿児島と並立した位置付けのイベントとして捉えられてしまうかもしれない。

小倉は、他の地域のイベントとは別格、特別な「大九州」だと思う。「大九州」の中でも旗艦(フラッグシップ)となるべきイベントである。
九州全土、いや日本中から参加者が集結するイベントとしての「ブランド力」を維持すべきところだと思うのだが…このイベント名だと、外部からは、小倉ローカルのイベントにも捉えられかねない
こういうところからも、小倉における「大九州」ブランドの地盤低下が懸念される。

小倉のブランド価値を高める為には、赤ブーブー通信社の事例に倣い、”特別な「大九州」”としてのメッセージ性を持つ、類似・新ブランドの立ち上げが必要だと私は考える。
例えばイベント名を「超・大九州」にするとか、イベント名からして「特別さ」を醸し出すものを熟慮し考案。それを本丸・小倉用のブランドとして育てていく方向性が望ましい。
(従前の「大九州」ブランドは、今のところ軒並み好調を続けている。九州各都市の巡回開催用ブランドとして生かして行けば良いだろう。)


ブランドをつくるのも、一朝一夕にはできないであろうことは、百も承知している。。
これまでの「大九州」ブランドだって、長年にわたるイベント開催の積み重ねを通じ、その価値は培われてきた。そこに新しいブランドを用意し、それが価値を持つとしても、何回かの開催を経る必要があるだろう。

ただ今のままでは、メインとする小倉のブランド価値が逓減してしまう。
「大九州合同祭in小倉」「大九州合同祭in鹿児島」などとした並列表記も、小倉ならではの「特別感」(=ブランド価値)を失う要因になる。
小倉では「類似・新ブランド」を立ち上げ、「特別な”大九州”」「旗艦イベント」としてのメッセージ性をもって参加者を全国各地から集める。そういうブランド戦略…「類似・新ブランド戦略」こそ必要ではないか、と私は感じた次第である。