◆◆はじめに◆◆
当サークルは、2015年以降、アニメ聖地「町おこし」、いわゆる「コンテンツツーリズム」と呼ばれる事象を研究し続けている。
著作「コンテンツツーリズム取組事例集」は、これまでに5巻を数え、研究者・聖地巡礼ファンから商工会関係者・議員先生に至るまで、幅広い階層の皆様からご愛読をいただいている。

そんな中、「聖地会議」代表の柿崎俊道氏より「アニメ聖地巡礼“本”即売会」を立ち上げる、とのお話をいただいた。
コンテンツツーリズム学会等で顔を合わせ、7月にも「日本SF大会」でご一緒させていただくなど、昨今当方は柿崎氏とのご縁も深い。
即売会を応援するブログ「STRIKE HOLE」の立場からすると、新たな即売会を純粋に応援したいという思いもある。コンテンツーリズム研究本を刊行するサークル「STRIKE HOLE」の立場からすれば、自分の本を頒布できる絶好の機会だとも感じた。

もはや迷う必要すらない。当方は、速攻サークル参加を申し込んだ。


◆◆目次◆◆
・主催「聖地会議」とは
・同人誌即売会の「常識に囚われない」−プレスリリースの積極活用ー
・「アニメ聖地巡礼“本”即売会」独特、出展者の集め方
・「アニメ聖地巡礼“本”即売会」当日の様子は…

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  • 主催「聖地会議」とは


「聖地会議」代表・柿崎俊道氏は、アニメ雑誌編集での勤務を経て、2005年には「聖地巡礼アニメ・マンガ12ヶ所めぐり」を刊行した。
刊行当時は、今ほど「聖地巡礼」が盛んではなかったし、「聖地巡礼」の語も一般化しているとは言い難かった。アニメ町おこしの代表例ともいえる「らき☆すた」すらも、まだ放映されていなかった。そんな時世での聖地巡礼本刊行は、極めて先駆的と言えるだろう。
以後は「聖地巡礼プロデューサー」を名乗り、埼玉県主催のアニメイベント「アニ玉祭」におけるプロデューサーや、埼玉県庁「アニメの聖地化プロジェクト」副座長などを歴任するなど、アニメ聖地巡礼界隈におけるパイオニア的存在として活動をされている。

2015年には、聖地巡礼に関係する学者・作品制作関係者・地域関係者など「キーマン」とされる人物を招いての対談本「聖地会議」を刊行。
当初は同名のサークルとして頒布していたが、その後法人化し現在に至る。
書籍としての「聖地会議」は、2018年9月現在で通算22巻目に達している。

「聖地会議」自体は、コミックマーケットへの企業出店、コミティア・文学フリマ等でサークル参加しての頒布、店舗への委託出店など、様々なチャネルを活用し頒布していた。
とは言え、各即売会に参加しても、どれだけ一般参加者の目に留まってくれるか。イベントごとの変動幅も大きい。参加者と自サークルとのマッチングを、どれだけ図れるかが難しい。
(…そこは同種の本を出す自分だからこそ痛切に感じる所でもある)

ならば、自分で本を出せる/売れる「場」をつくってみようじゃないか。
そういう思いから立ち上がった即売会が、今回の「アニメ聖地巡礼“本”即売会」である。






  • 同人誌即売会の「常識に囚われない」ープレスリリースの積極活用ー


「アニメ聖地巡礼“本”即売会」の動きを追ってまず目についたこととしては、既存の同人誌即売会と比べて相当異なる、独特のアプローチを仕掛けているところである。
主催氏が同人誌即売会の運営に携わったという話は聞かないが、その一方で「アニ玉祭」運営に関わるなど、「イベントプロデュース」的な部分での経験が豊富だ。その経験がバックグラウンドとなり、今回の独特さに繋がっているのだろうか。

先ず取り上げたいのは、この即売会の「告知戦略」だ。
そもそもこの即売会が立ち上がったのは、開催2か月前を切った7月末日。準備期間も極めて短く、短期決戦だ。
普通の即売会なら、チラシを刷って他の即売会で配る等の戦略も考えられるが、チラシも、労力・資金両面でコストが掛かる。そもそも、期間が短いため告知できるイベントも限られている。開催まで2か月の短期決戦において、チラシ宣伝という手法は、魅力的に映らない。

実際この即売会は、チラシをほとんど刷らなかった。
(先月のコンテンツツーリズムトラブルセミナーで、簡単な告知リーフレットをお見掛けした程度)
その一方、今回この即売会が取った告知戦略で目を引くのは、プレスリリースの積極的な活用だ。
「アニメ聖地巡礼“本”即売会」でニュース検索を掛けると、多数のニュース記事が上がっている。特に「ドリームニュース」経由でのニュース記事が多く、通算で計4回観測できる。

BIGLOBEニュースを見ると、以下の各記事がニュース配信されている。

2018年9月3日付『第1回「アニメ聖地巡礼“本”即売会」 9月24日(月曜・祝日)に開催! トークステージに声優・福原香織の参加が決定!』

2018年9月7日付『9月3日、SF小説「高速バスター ミナル」 著者 木川明彦氏が、第1回「アニメ聖地巡礼“本”即売会」 (2018/9/24開催)出店決定』

2018年9月14日『9月19日発売『アニメ聖地巡礼の観光社会学』著者 岡本健(奈良県立大学 地域創造学部 准教授)を「アニメ聖地巡礼“本”即売会」法律文化社ブースで特別価格2,500円(税込)にて販売!』

2019年9月19日付『9月19日コンテンツツーリズム研究団体が勢揃い!コンテンツ・ツーリズム研究学会、コンテンツツーリズム学会、コンテンツツーリズム研究会が「アニメ聖地巡礼“本”即売会」(2018年9月24日開催)に参加!』

前半は、特定個人のファン等、比較的広範に訴求(特に声優の福原香織氏)。
後半は、ガチの聖地巡礼・コンテンツツーリズム研究者向けに訴求している。

では、何故こうしてニュース記事として配信されるのか。それはプレスリリースを随時送っているからだ。
先に”「ドリームニュース」経由でのニュース記事”と申し上げたが、ドリームニュース自体がプレスリリースの配信代行業者だ。
ドリームニュースを媒介し、「ニコニコニュース」「オリコンニュース」「観光経済新聞」「アニメ!アニメ!アニメ!」様々なニュースサイトでも配信される。これらの配信記事が、Twitter等SNSでも取り上げられ、より拡散されることで、一定の宣伝効果をもたらすことができる。
特に、声優・福原香織氏参戦の報はインパクトが大きかったようで、相当多様な層に拡散・周知されていったようだ。

私の著書「コンテンツツーリズム取組事例集5」でも申し上げたが、「メディアが報じない」「メディアが”報道しない”自由を行使」などという巷の言説については、「メディアだって報道量にキャパシティもあり、森羅万象全てを報じられるわけでもない。取り上げて貰えないのが当たり前」という考え方を持っている。
逆に言えば、報道してもらうためには、それ相応の努力、アプローチが必要ということ。
プレスリリースは、報道してもらうための「努力」の一つである。もちろん報道してもらえるかどうかはメディア側に委ねられているが、数多あるメディアの一つだけでも引っかかってくれればしめたものだ。関心の高い人々の間で、SNSを通じ拡散されていくのだから。




  • 「アニメ聖地巡礼“本”即売会」独特、出展者の集め方


「アニメ聖地巡礼“本”即売会」で、他の即売会と異なるもう一つの大きな特性は、出展者の集め方、だろう。

普通の同人誌即売会だと、サークル参加の条件や参加申し込み方法を不特定多数に提示。サークル参加への門戸をオープンにしている。
その一方、「アニメ聖地巡礼“本”即売会」は、出展参加の条件も、出展参加の申込方法も、敢えて非公開にしている(パスワード制のサイトで公開)。
興味のあるサークル等がいれば、問い合わせフォームにその旨入れて、返信で非公開のサイトを教えてもらえれば良く、門戸を閉じている訳ではないのだろうが…他の即売会に比べてオープンだとも言い難い。参加障壁を敢えて「上げている」ことは間違いない。

ではどうやって出展者を集めたのか?それは主催側からの「一本釣り」に他ならない。
(私も主催氏から直接お知らせをいただき、参加を決めた)
自ら「参加したい」と主催に問い合わせた上で、参加した出展者も一部いらっしゃるようだが、大半は主催側からの「一本釣り」だろう。

そうして集った出展者は13団体/サークル。
コンテンツツーリズム関連の研究書を刊行している出版社、コンテンツツーリズムの論文を発刊している研究学会、そして聖地巡礼のガイド本を出しているサークル。私のように、研究本を刊行しているサークルも少数いる。
出版社・学会から同人サークルまで。商業・同人の垣根を超えて、聖地巡礼/コンテンツツーリズムの本を出す団体/サークルが一堂に会する構図となったが、この絵面をつくり上げたいがために、敢えて一本釣り中心の集め方にしたのだろう。
(実際、告知サイト上では「アニメ聖地巡礼“本”を刊行する出版社、サークル、個人が集合」と銘打っている)


ただ次回以降の開催においては、もっとサークルを多く集めたい、との意向も伺っている。
サークルを集めたいのなら、門戸をもっと広くするべきであろう。
今の「問い合わせフォームから送信」ではサークル的にはまどろっこしく、参加を躊躇する人も出てくる。
参加サークルを増やしたいのなら、他の一般的な即売会同様、参加条件・参加申し込み方法・参加フォーム等も予め公開するべきだ。

また、聖地巡礼系サークルの多くが集うグループ「舞台探訪者コミュニティ」における年1回の集い「舞台探訪サミット」と近接した日程だったのは、今回出展サークルを集める上で足かせになっていただろう。
舞台探訪サミットは、この即売会の開催日を含めた3連休に、アニメ「結城友奈は勇者である」の舞台・香川県観音寺市で開催されていた。この連休、少なくないサークルが観音寺入りを果たし県内でうどん店巡りや舞台探訪に興じており、即売会どころではなかったw
サークルをもっと多く集めたいのならば、こういうサークルが集いそうな催事とぶつからないよう、日程面での調整も図りたいところである。



  • 「アニメ聖地巡礼“本”即売会」当日の様子は…


会場は、東京駅そば。日本郵政が、駅前に立地していた大規模郵便局を改装・新築してし展開する商業施設「KITTE」での開催だ。東京駅の「KITTE」も、旧・東京中央郵便局跡地での新築だ。
「KITTE」地下一階には、主に外国人観光客向けの観光案内所として「東京シティアイ」がお店を構える。ここに隣接するイベントスペース「パフォーマンスゾーン」での開催だ。
イベントの無い時は出入り自由な無料休憩所として運用されているが、無料休憩所としての椅子テーブルを取っ払って、即売会用の長机を入れる構図となる。

実はこの会場、アニメ「結城友奈は勇者である」の舞台・香川県観音寺市が年2回地場特産品をPRするイベント「かんおんじフェア」においても、開催会場として起用された。
2017年1月開催「かんおんじフェア」の会場がこの「東京シティアイ パフォーマンスゾーン」。たまたま市が「アニメ町おこし」施策を本格化させる直前のタイミングで、作品とコラボした地場特産品が、初めてお披露目された場でもある。
聖地巡礼に縁の深い会場が、「アニメ聖地巡礼“本”即売会」の会場というのも、偶然だろうが趣深いものを感じさせる。

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【参考/かんおんじフェアでの会場】

「かんおんじフェア」で「結城友奈は勇者である」が延々流されていたカラービジョンは、今回の即売会では主催側が刊行する「聖地会議」DVDバージョンが延々流される展開。
トークセッション開催時には、トークセッション用に投影内容を差し替えていた。
このカラービジョン、イベント主催側の裁量である程度いじることができるようなので、うまく活用することで、場の雰囲気づくりにも生かせるだろう。

12時になると共に開場。一般参加者は入場無料、カタログ・リーフレット等も用意しない簡素な座組み。
初動の一般参加者は20人足らずと少なく、出足は弱い。その後も17時まで三々五々足を運ぶ方もお見掛けするが、出足としては散発的な印象。(一応公式発表では2400人となってますが…汗)


とはいえこの即売会は、あくまで「アニメ聖地巡礼“本”即売会」である。
出展者も、学術団体だの出版社だの、他の即売会とは一線を画したメンツ揃い。
絞られたテーマ性ゆえ、参加する一般参加者も、どうしても絞られてしまう。参加者が少ないのも、致し方ないと言えるだろう。

一方、一般参加者の絞られ具合を見るに、この即売会に参加する時点で、相当「訓練された人々」と見なすべきだろうw
そういう方々にとってみれば、今回の即売会は自身にとって興味のある本ばかりが並んでいるイベントでもある。その分、購入意欲も高い
実際、自サークルの視点から見ると「普段の即売会に比べ参加者が少ないのに、普段の即売会に比べ売れ行きが良い」という珍現象が発生しているw 買い手との効果的な「マッチング」が図れた催事だったと思う。


午後1時から、トークセッション3連発。30分のトークセッションと、30分の休憩とを交互に挟む展開だ。
先ずは、ネット上でも話題となった、声優・福原香織氏とコンテンツツーリズム研究の学者・岡本健准教授との対談。流石に声優効果も大きく、立ち見客含め50人ぐらいが集う。福原氏からは、出演作品の聖地を訪れた時の話など伺えた。
また、参加サークルの本一冊一冊を紹介いただくなどのご配慮もいただけた。

福原さんの時は、流石に「声優目当て」的なファンも多少はいたが、その後のトークセッションではより参加者が「訓練された人々」に絞られていった
次のトークセッションは、岡本准教授と学術書出版法人の代表にして市議も務める堀直人氏との対談。声優の集客効果も見込めず、メンツ的にも「町おこし」的な内容にならざるを得ない。聴衆も25人に半減したのは仕方ないが、その代わり、残った参加者は熱心にメモを取る人も見られるなど「ガチ勢」「精鋭」に絞られたw
最後のトークセッション、主催・柿崎氏と岡本准教授との対談も、聴衆は精鋭揃いだった。


トークセッションも一通り終わり、17時に即売会は終了。
その後アフターイベント的に「交流会」も実施。主催・出展者・一般参加者交えての軽い打ち上げとなった。
なお、この「交流会」は、撤収作業・原状復帰作業を終えることが前提となるので(原状復帰しテーブルが戻された会場での開催)、参加したければ撤収等を手伝う必要があるw うーむ、上手くできているなあw
ただ交流会参加希望者も10人以上はいたので、皆で協力してのマンパワーにより、早く作業が済んだ。そんな負担にもならなかったか。

次回は、2019年5月25日の開催が、既に発表されている。土曜開催なのでスケジュールの調整も必要だが、手ごたえを感じられたイベントなのは間違いないので、可能な限り参加する方向にて考えている。