同人誌即売会の世界において、ひと昔前までは、「評論・情報系」のジャンルは、マイノリティであった。
私が同人の世界に入った頃のこのジャンルは、せいぜい100を超えるぐらいの、小規模なジャンルに過ぎない。男性向けジャンルと、旬ジャンルとの「緩衝材」的な配置になることも、決して少なくはなかった。
それが今だと、果たしてどうなってしまったのか。
コミケなら、1000サークル超えとも聞く。
「評論系」として類されるオンリーイベントも、複数登場している。
「文学フリマ」「コミティア」等文章系の即売会も堅調に推移しているが、評論・情報系サークルの増加が、これらのイベントにおける参加サークルの押し上げにも貢献しているはずだ。
もはや「評論・情報」は、決してマイナージャンルではない。
というわけで私は、情報系即売会『おもしろ同人誌バザール』に、サークルとして久々に参加させていただいた。
参考リンク:2017年10月28日付『10/28 都内 評論・情報系オンリー「おもしろ同人誌バザール」』
◆◆目次◆◆
1.評論・情報系同人誌即売会の歴史
2.評論・情報系全般を網羅する『おもしろ同人誌バザール』
3.当日の様子
まだまだ同人誌即売会の世界でも、評論が今ほどの伸長を示していなかった頃。今から10年前の2008年に、『評論市場』(コミックシティ内プチオンリー)や『TokyoBookManiax』が開催された。
評論サークルが主催として立ち上がった即売会で、これが評論・情報系同人誌即売会の「はしり」と言えるだろう。
とは言え「評論・情報系」ジャンルを総花的に網羅した即売会はその後続くことなく。
「評論・情報系」全般ではなく、より小規模なセグメントをターゲットにした形での評論・情報系即売会が、その後開催され続けていった印象だ。
例えば、交通・旅行系に特化した形であれば、『東京のりもの学会』や『Little"T"Star』、そして現在開催され続けている『東京交通観光倶楽部 るるむ』が、その系譜を引いているだろう。
「まんだらけ」が主催する『資料性博覧会』も、「資料系」という分野に特化した即売会。2009年から年1回ペースで開催。研究や批評を深めたサークルによる、クオリティの高い、凝り過ぎ(誉め言葉)な作品が続出している。
変わった所では、東方Projectにおける「評論・情報系」に特化したオンリーイベントという位置づけで開催されている『幻想郷フォーラム』も挙げられようか。本を売るだけでなく、サークルによるプレゼンテーションの機会創出にも、力を入れている。
そういうわけで、一部セグメント向けの評論系即売会ならば、過去にも存在していたが、それではそのセグメントに該当しない「評論・情報系」はどこに流れていったのか。
もちろん、コミックマーケット以下、オールジャンルの同人誌即売会が該当するだろう。「創作系」ということで評論・情報系も包含する『コミティア』も有力な受け皿だ。
それ以外だと、2002年から続く即売会『文学フリマ』も挙げられよう。「文学」ものに特化してはいるものの、評論系サークルも一定数流入しており、評論系サークルの「受け皿」としても機能し続けている。
この他、「文章系」ということで『Text-Revolutions』『本の杜』も評論・情報系サークルの有力な受け皿だ。
『おもしろ同人誌バザール』は、評論・情報系全般を網羅した「情報系同人誌オンリーイベント」として、2016年に産声を上げた。
これまでは特定セグメントに特化した評論・情報系の同人誌即売会ばかりだったが、『おもしろ同人誌バザール』は、情報系全般をターゲットとすることで、このジャンル全体に網を掛けた即売会とも言える。
既存の即売会としての概念を打ち破るとも言える、斬新な会場選定も特徴だ。
初回開催は池袋のニコニコ本社での開催。以後も、大崎駅南口自由通路での開催、東京交通会館での開催、神保町の「本まつり」合わせでベルサール神保町での開催…等々、会場選定からしてインパクトが大きい。
今回2019年4月開催も、ベルサール六本木というこれまで使われた事のない会場を起用している。
この奇抜な会場選定の背景には、同人者のみならず一般人にも足を運んで貰い、本の売り買いを促そうという意図が感じられる。主催氏サークル「版元ひとり」が今回のイベント合わせに頒布した『夢遊病のすすめ』では、「インディ−ス本」の即売会として定義されており、同人の枠を超え、インディーズ本の売買の場にしたいとの意欲も示されている。
昨今の評論・情報系のサークル増加を追い風に、サークル数は回を重ねるごとに増加。当初は50サークル前後だったが、2年前の神保町は70サークル超。前回開催は130サークル台。今回は190サークルにまで達し、200サークルの大台も見えてきた。
同人者にこだわらない集客プロモーション、その結果非同人者含め数多くの買い手が参加。サークルの売上にも結び付きやすくなり、「また参加しよう」と意欲を燃やす。
主催氏の運営方針が、サークルにも即売会にも、好循環を及ぼしている構図も伺える。
とは言え、即売会では滅多に使われない「ベルサール六本木」が会場だ。
しかも厄介なことに、もう一つ「ベルサール六本木グランドコンファレンスセンター」という建物もあり…私はそっちと間違えて、慌ててタクシーで「ベルサール六本木」に駆け込む体たらくw
慣れない会場が多いので、行くだけでもまごついてしまう所が、斬新な会場選定の、唯一の欠点だろうかw
何とか辿り着いて、慌てて設営を終え、開会を待つ。
驚いたのは、初動が100人を超えたとのこと。
この手の即売会、飛び抜けて売れる大手サークルが要るというわけでもない。朝一番に並んで新刊に群がる、という文化も風習もない。
つまり、尻上がりに参加者が増える傾向の即売会であり、にもかかわらず100人が開場前から並ぶ、というのは異例の事態。買い手の「パイ」の膨らみっぷりが伺える。
果たして、開場後から多数の来場者で充満し、賑わい豊かな雰囲気。
尻上がり傾向もそのままで、16時の閉会までは、常時少なくない人数が会場を巡回。賑わいが最後まで、長く続いた即売会だったと思う。
運営側の取組として特筆すべきは、購入物収納に対応したビニール袋(お買い物袋)を頒布したところ。
慣れた買い手なら、お買い物袋の一つや二つは用意しているだろうが、非同人者の参加も意識しており、同人初心者も少なくない。初心者にも親切な取組であると共に、初心者のサークル頒布物購入も促している。
また。Twitterでの「#おもしろ同人誌バザール」ハッシュタグ使用も、しきりに呼び掛けている。
特定時間での投稿も呼びかけており、Twitter上でのトレンド入りも狙っている。トレンドに入ることで、興味を持った人を増やし、来場者増に繋ぎ留める狙いも感じさせる。
サークル数が200サークル近くにまで増えたということで、その分買い手が分散。買ってくれる人が減るのでは?という不安もあったが、それは杞憂だった模様。
来場者も、サークル数以上に増えており、蓋を開けてみれば、以前参加した時(70サークル規模)よりも好調な売れ行き。来場者の多さに、当サークルも助けられたのかな、と実感している。
気になるのは、主催側が「赤字だ」と繰り返している点。
確かに、ベルサール六本木の会場代は高い。サークル参加費も6000円と高額で、会場代の高さを裏付けている。会場内では、主催による運営費のカンパも呼びかけられていたほどだ。
同人世界において「赤字」は美徳にも捉えられがち(というか、「黒字」が悪と見なされがち、と言えるか?)だが、私は、運営の持続性という観点からすると宜しくないと感じている。
私も最近「同人誌即売会開催の歴史」なるものを研究する中でようやく気付けたことだが、同人誌即売会の世界、長く続いた同人誌即売会は、ほんの一握りだ。
好評を博し2回・3回…と開催を重ねるものも時折見かけるが、数回開催して終了というパターンが多い。有力な即売会であっても、寿命は5年持てば良い方だ。
理由としては色々あろうが、主催が負う労力面の負担もさることながら、赤字の時の金銭負担も大きいだろう。赤字は、主催の負担を増やし、即売会の持続可能性を潰す原因ともなる。
参考リンク:2018年12月06日付『スタジオYOUの「個人主催潰し」という定説は、本当に真実か』
労力面…これはもうどうしようもないが(「頑張って」としか言いようが無く/汗)、少なくとも、収支だけでも何とか改善いただきたいものである。
サークル参加費値上げ(既に高めだが…)・カタログをオンライン化(印刷費の節約)・安い会場の選定(但しこれまでの特徴を打ち消しかねない恐れも)など、入りを増やすor出を減らす方策をご検討いただくことで、持続可能性を少しでも高めていただきたいと願う次第である。
私が同人の世界に入った頃のこのジャンルは、せいぜい100を超えるぐらいの、小規模なジャンルに過ぎない。男性向けジャンルと、旬ジャンルとの「緩衝材」的な配置になることも、決して少なくはなかった。
それが今だと、果たしてどうなってしまったのか。
コミケなら、1000サークル超えとも聞く。
「評論系」として類されるオンリーイベントも、複数登場している。
「文学フリマ」「コミティア」等文章系の即売会も堅調に推移しているが、評論・情報系サークルの増加が、これらのイベントにおける参加サークルの押し上げにも貢献しているはずだ。
もはや「評論・情報」は、決してマイナージャンルではない。
というわけで私は、情報系即売会『おもしろ同人誌バザール』に、サークルとして久々に参加させていただいた。
参考リンク:2017年10月28日付『10/28 都内 評論・情報系オンリー「おもしろ同人誌バザール」』
◆◆目次◆◆
1.評論・情報系同人誌即売会の歴史
2.評論・情報系全般を網羅する『おもしろ同人誌バザール』
3.当日の様子
- 1.評論・情報系同人誌即売会の歴史
まだまだ同人誌即売会の世界でも、評論が今ほどの伸長を示していなかった頃。今から10年前の2008年に、『評論市場』(コミックシティ内プチオンリー)や『TokyoBookManiax』が開催された。
評論サークルが主催として立ち上がった即売会で、これが評論・情報系同人誌即売会の「はしり」と言えるだろう。
とは言え「評論・情報系」ジャンルを総花的に網羅した即売会はその後続くことなく。
「評論・情報系」全般ではなく、より小規模なセグメントをターゲットにした形での評論・情報系即売会が、その後開催され続けていった印象だ。
例えば、交通・旅行系に特化した形であれば、『東京のりもの学会』や『Little"T"Star』、そして現在開催され続けている『東京交通観光倶楽部 るるむ』が、その系譜を引いているだろう。
「まんだらけ」が主催する『資料性博覧会』も、「資料系」という分野に特化した即売会。2009年から年1回ペースで開催。研究や批評を深めたサークルによる、クオリティの高い、凝り過ぎ(誉め言葉)な作品が続出している。
変わった所では、東方Projectにおける「評論・情報系」に特化したオンリーイベントという位置づけで開催されている『幻想郷フォーラム』も挙げられようか。本を売るだけでなく、サークルによるプレゼンテーションの機会創出にも、力を入れている。
そういうわけで、一部セグメント向けの評論系即売会ならば、過去にも存在していたが、それではそのセグメントに該当しない「評論・情報系」はどこに流れていったのか。
もちろん、コミックマーケット以下、オールジャンルの同人誌即売会が該当するだろう。「創作系」ということで評論・情報系も包含する『コミティア』も有力な受け皿だ。
それ以外だと、2002年から続く即売会『文学フリマ』も挙げられよう。「文学」ものに特化してはいるものの、評論系サークルも一定数流入しており、評論系サークルの「受け皿」としても機能し続けている。
この他、「文章系」ということで『Text-Revolutions』『本の杜』も評論・情報系サークルの有力な受け皿だ。
- 2.評論・情報系全般を網羅する『おもしろ同人誌バザール』
『おもしろ同人誌バザール』は、評論・情報系全般を網羅した「情報系同人誌オンリーイベント」として、2016年に産声を上げた。
これまでは特定セグメントに特化した評論・情報系の同人誌即売会ばかりだったが、『おもしろ同人誌バザール』は、情報系全般をターゲットとすることで、このジャンル全体に網を掛けた即売会とも言える。
既存の即売会としての概念を打ち破るとも言える、斬新な会場選定も特徴だ。
初回開催は池袋のニコニコ本社での開催。以後も、大崎駅南口自由通路での開催、東京交通会館での開催、神保町の「本まつり」合わせでベルサール神保町での開催…等々、会場選定からしてインパクトが大きい。
今回2019年4月開催も、ベルサール六本木というこれまで使われた事のない会場を起用している。
この奇抜な会場選定の背景には、同人者のみならず一般人にも足を運んで貰い、本の売り買いを促そうという意図が感じられる。主催氏サークル「版元ひとり」が今回のイベント合わせに頒布した『夢遊病のすすめ』では、「インディ−ス本」の即売会として定義されており、同人の枠を超え、インディーズ本の売買の場にしたいとの意欲も示されている。
昨今の評論・情報系のサークル増加を追い風に、サークル数は回を重ねるごとに増加。当初は50サークル前後だったが、2年前の神保町は70サークル超。前回開催は130サークル台。今回は190サークルにまで達し、200サークルの大台も見えてきた。
同人者にこだわらない集客プロモーション、その結果非同人者含め数多くの買い手が参加。サークルの売上にも結び付きやすくなり、「また参加しよう」と意欲を燃やす。
主催氏の運営方針が、サークルにも即売会にも、好循環を及ぼしている構図も伺える。
- 3.当日の様子
とは言え、即売会では滅多に使われない「ベルサール六本木」が会場だ。
しかも厄介なことに、もう一つ「ベルサール六本木グランドコンファレンスセンター」という建物もあり…私はそっちと間違えて、慌ててタクシーで「ベルサール六本木」に駆け込む体たらくw
慣れない会場が多いので、行くだけでもまごついてしまう所が、斬新な会場選定の、唯一の欠点だろうかw
何とか辿り着いて、慌てて設営を終え、開会を待つ。
驚いたのは、初動が100人を超えたとのこと。
この手の即売会、飛び抜けて売れる大手サークルが要るというわけでもない。朝一番に並んで新刊に群がる、という文化も風習もない。
つまり、尻上がりに参加者が増える傾向の即売会であり、にもかかわらず100人が開場前から並ぶ、というのは異例の事態。買い手の「パイ」の膨らみっぷりが伺える。
果たして、開場後から多数の来場者で充満し、賑わい豊かな雰囲気。
尻上がり傾向もそのままで、16時の閉会までは、常時少なくない人数が会場を巡回。賑わいが最後まで、長く続いた即売会だったと思う。
運営側の取組として特筆すべきは、購入物収納に対応したビニール袋(お買い物袋)を頒布したところ。
慣れた買い手なら、お買い物袋の一つや二つは用意しているだろうが、非同人者の参加も意識しており、同人初心者も少なくない。初心者にも親切な取組であると共に、初心者のサークル頒布物購入も促している。
また。Twitterでの「#おもしろ同人誌バザール」ハッシュタグ使用も、しきりに呼び掛けている。
特定時間での投稿も呼びかけており、Twitter上でのトレンド入りも狙っている。トレンドに入ることで、興味を持った人を増やし、来場者増に繋ぎ留める狙いも感じさせる。
サークル数が200サークル近くにまで増えたということで、その分買い手が分散。買ってくれる人が減るのでは?という不安もあったが、それは杞憂だった模様。
来場者も、サークル数以上に増えており、蓋を開けてみれば、以前参加した時(70サークル規模)よりも好調な売れ行き。来場者の多さに、当サークルも助けられたのかな、と実感している。
気になるのは、主催側が「赤字だ」と繰り返している点。
確かに、ベルサール六本木の会場代は高い。サークル参加費も6000円と高額で、会場代の高さを裏付けている。会場内では、主催による運営費のカンパも呼びかけられていたほどだ。
同人世界において「赤字」は美徳にも捉えられがち(というか、「黒字」が悪と見なされがち、と言えるか?)だが、私は、運営の持続性という観点からすると宜しくないと感じている。
私も最近「同人誌即売会開催の歴史」なるものを研究する中でようやく気付けたことだが、同人誌即売会の世界、長く続いた同人誌即売会は、ほんの一握りだ。
好評を博し2回・3回…と開催を重ねるものも時折見かけるが、数回開催して終了というパターンが多い。有力な即売会であっても、寿命は5年持てば良い方だ。
理由としては色々あろうが、主催が負う労力面の負担もさることながら、赤字の時の金銭負担も大きいだろう。赤字は、主催の負担を増やし、即売会の持続可能性を潰す原因ともなる。
参考リンク:2018年12月06日付『スタジオYOUの「個人主催潰し」という定説は、本当に真実か』
労力面…これはもうどうしようもないが(「頑張って」としか言いようが無く/汗)、少なくとも、収支だけでも何とか改善いただきたいものである。
サークル参加費値上げ(既に高めだが…)・カタログをオンライン化(印刷費の節約)・安い会場の選定(但しこれまでの特徴を打ち消しかねない恐れも)など、入りを増やすor出を減らす方策をご検討いただくことで、持続可能性を少しでも高めていただきたいと願う次第である。