旭川から石北本線の特急に乗り、東は網走・北見方面に向かうこと約2時間。オホーツク地域における交通の要地・遠軽町。
「SHORT PROGRAM」は、この遠軽にて即売会の開催実績を積み重ねてきた、古参の即売会だ。私が同人始めたての頃(今から15年ぐらい前)に、旭川のアニメイトにて「SHORT PROGRAM」のチラシを拝見したこともある。

というわけで名前だけは知っていたが、何せ遠軽は、札幌からも特急で4時間近くかかる遠い場所。列車の本数だって、そんな多くない。
土日1泊2日しか自由な時間は無い。場合によっては、土曜も仕事で出勤せねばならない。なかなか出勤状況との折り合いが付かず、これまで遠軽行は断念し続けていた。

(注:同様の理由で、毎年春に紋別市で開催される即売会も、なかなか遠征には至れない)

ただ今夏は、長期の休みを確保することに成功。
これまで行くことが叶わなかった利尻・礼文への観光や、十勝・タウシュベツ橋梁への聖地巡礼(劇場版ガルパンの舞台)とも組み合わせる形で、5泊6日の北海道旅行の中に遠軽も組み込むことで、念願のサークル参加に至った。


◆◆目次
1・奇跡の即売会「SHORT PROGRAM」
2・「SHORT PROGRAM」当日の様相
3・「遠軽の奇跡」の謎に迫る
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  • 1・奇跡の即売会「SHORT PROGRAM」


手許の「SHORT PROGRAM 50」カタログによると、1993年に第1回目開催とのこと。
以後年2回ペースで定期的に開催。流石に雪寒厳しい冬季の開催は控えているものの、夏・秋の年2回というパターンが多いようだ。

個人主催の同人誌即売会というもの、大雑把な論じ方だが、サークルが集まらなくなるか、主催周辺の環境変化のどちらかになるかで、たいてい立ち上げから数年以内に幕を閉じるものである。
しかしこの即売会は、今年で実に27年目!回数も、55回を数えている。

さらに言えば、即売会の世界は、どうしても都市部に集中しがちだ。
都道府県単位で見ても、人口10万以上、県庁所在地クラスでの開催が多い。
でもこの即売会、開催が遠軽「町」である。人口も、2万人程度の小規模な市場だ。この人口規模だと、サークルを集めるだけの市場性が弱い。
数字の上から見ると、即売会の開催は極めて難しい。ハッキリ言って、1回でも開催できれば「御の字」のレベルである。

…しかしこの「SHORT PROGRAM」は、無事に開催し得ている。それだけでも奇跡的な話だが、それを四半世紀にわたり継続し得ている。
「SHORT PROGRAM」は、「二重の意味」で「奇跡の存在」と見なすべき即売会である。そのことを先ず踏まえておきたい。



  • 2・「SHORT PROGRAM」当日の様相


前日稚内からバス乗り継ぎで、オホーツク海沿いに紋別まで下ってきた自分。
この日紋別を朝に出発。紋別から遠軽までは、路線バスで1時間40分と比較的近いが、「SHORT PROGRAM」は12時の開催。同人誌即売会の一般的な開催時間より1時間遅い。

そこで遠軽に向かう途中の湧別町にて下車。廃線遺構を見学しつつ時間を潰し、次のバスで遠軽に向かう。
市街地の遠軽バスセンター(JR遠軽駅にも近い)で下車し、そこから歩くこと7〜8分で、会場の遠軽町福祉センターに到着。

サークル入場時に受付を済ませ、カタログも購入。カタログは、サークル参加者も含め全員購入制。カタログ代200円を払う。

設営を終えて余裕が出たので周囲を見渡す。
チラシ置き場を見ると、北海道コミティアの告知チラシに加え、9月に北見市(旧留辺蘂町)で開催される『ウルトラ大作戦』のチラシも見かける。

会場内には、段ボールのパーティションで区切っての「男子更衣室」がある。
段ボールというのも急ごしらえ感があるが、施設備品にパーティーションが無ければ、こういう形で対応するしかないか(汗)
過去のカタログを拝読するに、流石に「男子が可哀想だ」という声も出たようだが、男子の利用状況の少なさを勘案しての対応らしい。まあ、確かにコスプレイヤーは全量女の子、男性コスプレイヤーは皆無だったが…

少し失敗したのは、即売会会場でパンの物販をやっているところ。
即売会会場周辺に食べる所も無かったっぽいので、近くのコンビニに買い出しに行ったのだが、物販があるならそっちに走れば良かった。気付くのが遅かった…
町内で評判のパン屋さんらしいので、そっちに乗るべきだったか。


頒布物傾向としては、同人誌扱ってるサークルが、極めて少なかったこと。
当サークルを除けば、同人誌を扱うサークルは1サークルのみ(もっとも、トータル19サークルの規模なのだが)。
大勢は、アクセサリー等小物グッズのサークルだ。ただ、アクセサリーサークルが軒並み出来・見栄え共に良く、相当レベルが高い。…皆さんきらびやかを極めてる。当サークルなんか全然地味じゃねえかw

来場者傾向としては、20代以下の若手も結構多い。
その一方、長年やっている即売会だけに、30〜40代の「腐れ縁」的な年季の入った常連さんも少なからず。そういう常連さんが、家族連れでお見えになっているケースも。
スタッフさんが、小さい男の子に飴をお振る舞いする光景も見られた。
ちなみに我々サークルも、主催さんじきじきにチョコをお振舞いただく。あ、ありがとうございます。
こんな感じで、小規模ながらもアットホームな雰囲気。なかなか居心地の良い即売会だった。

難を挙げれば、島配置のバックヤードが極めて狭いこと。自スペースに戻るのにも、相当難儀するレベル。
悪名高い蒲田のSDFイベントか、これに勝るとも劣らぬレベルで無理矢理詰め込んだ旭川の同人誌即売会に匹敵する環境の悪さだった。この2つの即売会は、キャパシティオーバー寸前にサークルが集ったのでもうどうしようもないのだろうが、今日の即売会は、まだ余裕がある筈。
そもそも壁サークルのバックヤードや通路の幅が広めにとってある以上、そこを調整することで解決できる問題だと思う。ご調整と改善を望みたい。


  • 3・「遠軽の奇跡」の謎に迫る


しかし、人口2万の遠軽町。同人誌即売会が、1回でも開催成立すれば充分「奇跡」と評せようが、それが1993年から55回も続いているという事実。「奇跡」の中の「奇跡」と言えようか。
しかし、カタログも拝読しつつ、この地に足を運びこの目で見ることにより、自分なりにその「奇跡」の理由が見えてきたので、解説したい。
(全ての理由・謎を解明し切れている訳ではないので、その点はご容赦を)

先ず、この即売会、リピーター率が極めて高い。
今回はスタッフサークルが7サークル。スタッフやってるだけに、これらのサークルは毎回参加し続けている常連中の常連だろう。
残り12サークルの内、当サークルのような初参加組は3サークル。
つまりそれ以外の9サークルは、リピーターだ。その中には10回20回30回と参加し続ける、「常連の鑑」のような方もいらっしゃる。

つまり19サークル中16サークルが、このイベントのリピーターとなっている。
驚異のリピーター率だ。
しかも、毎回欠かさず参加する忠誠心の高いサークルは、リピーターサークルの半分ぐらいはいる。
これだけ常連を固めきれれば、いくら市場性がしんどい人口2万の町とは言え、サークル参加数も安定するというものだ。

ちなみに、参加サークルの市町村別傾向を見ると、地元・遠軽町は勿論だが、他は紋別市・北見市・湧別町・置戸町など、オホーツク近郊に集中している。
会場近くに住んでいるサークルが殆どで、(毎回常連参加してくれるか極めて怪しい)遠方からの遠征組に依存していない。これも、常連参加サークルを固めるにあたっては好材料だ。

もちろん、主催が常連サークルとのコミュニケーションをしっかり取っているからこその賜物であることは言うまでもない。このあたりは、主催陣の「人徳」ゆえ、とも言えるだろう。


ただ、リピーターが多いだけで「ご新規さん」が来ないと、面子が固定化して高齢化・蛸壺化する。
新規流入の無いまま、徐々に常連も撤退し、尻すぼみに陥る。地方即売会でありがちな衰退パターンだ。(もっとも、遠軽は常連が手堅いのでそうなる可能性は他地域より小さいでしょうが)

参考リンク:2019年02月05日付『2019/2/3 岩手県大船渡市開催・オールジャンル同人誌即売会『ポケットマニア』参加レポート』

しかしこの即売会を見ると、毎回少ないながらも「初参加」組が登場する。その初参加組がそのまま常連化するケースもある。
当日の一般参加者を見ても、20代前後の若手世代も相当多く、これらの若手世代のサークル参加参戦も期待できよう。
つまりこの即売会は、若手世代を、きっちり取り込めているということでもある。

その理由としては、地域に密着した告知戦術が挙げられる。
過去に、人口6万の福井県敦賀市で、サークルを多数集め即売会を成功させたという事例を、その告知方法と共に紹介したことがある。(2008年09月24日付『地方開催同人誌即売会の告知方法』)

時代は令和に移ったが、遠軽「SHORT PROGRAM」は、昔の敦賀と同じ方法で、愚直に地域密着の告知に励んでいる。
遠軽市内なら書店・飲食店・文具店。北隣の湧別町では、書店・コンビニ・道の駅そして【野菜直売所】にまで。そして北見市や紋別市・大空町(旧美幌町)のお店にも。
これらの地域のお店、特に若い人々が集まりそうなお店にポスターを掲示。遠軽周辺の2市3町、約25箇所に告知している。
こういう地道な告知、手間も掛かる。面倒だ。でも、これを続けた即売会は、だいたいご新規さんを呼び込めている。(敦賀以外、より近い日時での事例としては、ご新規さんを呼び込めた秋田市・長崎県五島市も存在が挙げられる)


つまりこの即売会の特長は、以下2点にまとめられよう。

1.リピーター化の成功、手堅い常連層の形成
2.ポスター告知で若手・新規層を開拓


どちらか片方実現するだけでも難儀だろうに、これを両方実現できている所が「遠軽の奇跡」に至った理由となる。
こうして振り返ると、「遠軽の奇跡」は真の「奇跡」ではなく、主催及び関係者各位の奮闘に基づく「必然」と考えるべきなのかもしれない。