新幹線・新青森県から特急で約30分。青森県西部に位置する弘前市は、人口17万。青森市・八戸市に次ぎ、人口規模でも県下第3位。津軽地方の中心都市だ。

青森県の同人誌即売会事情を申し上げると、2000年代までは、県都・青森市での開催はもちろんだが、青森市以外では東部の八戸市、そしてこの弘前市でも、定期的に同人誌即売会が開催され続けていた。

青森市では、今もなお、スタジオYOU主催の「おでかけライブ」が健在だ。
ただ、弘前や八戸では、個人主催による同人誌即売会が開催され続けてはいたものの、相次いで撤退。一時は青森市以外で同人誌即売会の存在が確認できなくなるほどであった。
(注:むつ市大湊開催の艦これオンリーは、やや文脈が異なるのでここでは割愛している)

弘前は、元々同人者にとって「聖地」的存在の「青森県りんご商工会館」で、個人主催による即売会が多彩に開催されていた。だが、2008年、駅前区画整理に伴う閉館を機に、途端に即売会の灯が潰えた。
その後しばらく間を置き、2014〜2015年には個人主催による同人誌即売会も再登場したものの、残念ながら継続に至れず。弘前は「即売会空白地域」と化した。

「弘前りんご同人祭」は、そういう状況下、2016年に登場した同人誌即売会だ。
立ち上げ当初から、東方Project界隈から同人音楽サークルを招聘。同人サークルによる「ライブ」と、オールジャンル同人誌即売会とが併存する形式をとった。
元々は「1回限り」と考えていたようだが、同人空白地域となっている弘前の現状も鑑み、継続開催を志向。その後も年1回ペースで、秋のシーズンに開催している。

筆者も、初回より存在は認知していたものの、これまではスケジュールの兼ね合いから参加が難しく、4回目の開催となる今回、初めて足を運ばせていただいた。

前日は十和田市から五戸町へ。五戸町からさらに山奥、新郷村を訪問。
「キリスト渡日」の伝説を持つこの村の「キリストの里公園」を観光しつつ、青森市内に投宿。青森のカレー味噌ラーメンが美味かった。
翌日は、早朝に弘前入り。弘前市がいまコラボを進めている「桜ミク」の看板が、弘前駅で出迎える。

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弘前市は桜ミクだけでは飽き足らないようで、「Re:ゼロからはじまる異世界生活」とのコラボも始めているとのこと。その舞台となる「りんご公園」を訪問。いわゆる「コンテンツツーリズムの現地視察」というやつだw
りんご公園訪問を経て、会場の「ヒロロ」入り。

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会場の商業施設「ヒロロ」は、経営が立ちいかなくなった箱物商業施設の「穴」を埋めるべく、行政庁舎が入り込んでの行政・商業複合施設。
4階には、市民ホールが併設。ここが今回の会場となる。
商業施設なので駐車場も完備、車組にも対応しているし、弘前駅から徒歩5分の近さなので、公共交通組にとっても立地条件は良い。

12時スタート。初動は10〜20人程度と芳しくはないが、即売会終了後に「同人音楽ライブ」が控えている関係上、後になればなるほど滞留者が増えていく
大九州合同祭主催・チャンコ増田氏がかつて語っていた、同人ライブを即売会後に開催させることの効能が、そのまま現れている。

驚きなのは、一般参加者の「男女比」だ。
男女比は、地方都市開催の同人誌即売会では、異例とも云える「20:1」。大事なことなのでもう一度申し上げるが、「1:20」ではない。「20:1」である!


地方開催の同人誌即売会は、一般的に腐女子率が高い。
男女比はおおよそ「1:9」ぐらいだろう。地域によっては、1:20も普通にあり得るし、1:99という即売会も少なくはない。
にもかかわらず、この即売会は全くの真逆を示している。

とは言えこれは、東方や艦これで活動する同人音楽サークルを招聘しての「同人音楽ライブ」を併催する時点で決まっていたことと言えよう。
名目上「オールジャンルの同人誌即売会」とは言え、出演サークルは、同人誌即売会の方にもサークルとして参加する。この時点で、サークルの東方・艦これ率(特に東方)は大きく跳ね上がる。
さらに、これに引っ張られるかの如く、東方・艦これ(特に東方)に縁あるサークルも、サークルとして参加する。

実際、本日の「弘前りんご同人祭」は、30sp規模ながら、東方比率がが圧倒的に多かった。全体の8割以上が、東方系統のサークルだろう。
一般参加者も、東方ライブ目当ての参加者が多いから、自然に男性率が上がる。(とは言え他の地域の同じような形態の即売会はもう少し女性率高かったような気もするが…)

同人音楽サークルとの併催という時点で、オールジャンル同人誌即売会の、事実上の男性向け即売会化、いや東方オンリー化は、決定づけられていたことと言えるだろう。

★余談だが、同様のケースとしては、「夕張まんがまつり」(2010〜2014年・北海道夕張市)・「響灯小町祭」(2014〜2017年・秋田県秋田市)が挙げられる。両即売会とも、同人ライブ非併催時は普通のオールジャンルだったが、同人ライブ併催時は東方率高く、実質東方オンリーだったw


この「同人ライブとの併催」については、賛否両論あるかもしれないが、長所・短所両方あると思う。

長所としては、どんな小さな町であっても、サークル・一般参加者共に一定数を確保できるところだ。人気の同人音楽サークルが10サークル規模で参集し、それ目当ての一般参加者も多い。
人口9000人の夕張で開催した即売会ですら、40サークル・1000人弱を集める「成果」をおさめたぐらいだ。
つまり主催にやる気があり、それに乗る人気同人音楽サークルが居さえすれば、その時点で一定の成功は約束されたようなものである。男性向け同人誌即売会における、もっとも確実な「成功法則」の一つと言えるだろう。

もちろん、確実な動員を見込める代償として「短所」ももちろん存在する。
一番のネックは、「(即売会側が)人を選んでしまう」ところである。
オールジャンルとは言え、事実上「東方オンリー」と化す。それはすなわち、他ジャンルの同人者に対し、参加への「障壁」を築いてしまうことでもある。男性向けも、ジャンルによっては参加しづらいし、女性向けジャンルはもっと厳しかろう。

確かに、男性向けの同人者にとってはある程度の受け皿とはなり得よう。
だが、地方都市における同人活動の主力は、地元民の若手腐女子層だ。先に述べたが、男女比1:9は当たり前だし、1:20も1:99もあり得る。
弘前においても、「青森りんご商業会館」時代の同人誌即売会は、この分厚い腐女子層が支えてきた。「弘前りんご同人祭」は、彼女らの「受け皿」とは成り得ていない。

とは言え、「弘前りんご同人祭」は、過去4回今のパターンで続けてきた。今さらそれを変えて腐女子の受け皿に、というのも非現実的だ。
「弘前りんご同人祭」は、今のやり方で、音楽サークルと二人三脚の協調関係で続けていくのが望ましいだろう。
今回も参加されていたが、同人音楽サークル「COOL&CREATE」のビートまりお氏が弘前出身というご縁も、この即売会にとっては大きな力となっているはずだ。

腐女子向けの需要も、間違いなく弘前には存在する。
だがそれは、「弘前りんご同人祭」とは別の勢力が担うべき
だろう。
「弘前りんご同人祭」の実績に刺激を受けつつ、求められる「受け皿」となるべく、市井の同人者が名乗りを上げてくれることを願っている。