STRIKE HOLEでは、昨年の冬コミで「同人誌即売会開催史(1990年代)」を刊行しました。

参考リンク:
2018年12月03日『冬コミ新刊!「同人誌即売会開催史(1990年代)」刊行のお知らせ』

冬コミは、この「続編」としての位置づけですが、【21世紀・2000年代における同人誌即売会開催の歴史】を語ります。
そして、そこから繋がるはずの、同人誌即売会の「現在」に至るまでを語ります。


【刊行物概要】
●書名…「同人誌即売会開催史(2000年代)」

●内容…
2018年冬コミ刊行「同人誌即売会開催の歴史(1990年代)」の続編。
今回は、2000年代に入ってからの、同人誌即売会開催の歴史を解説!

1990年代から続くオンリーイベントの隆盛は、今世紀に入りさらに成熟。
巨大化するオンリーイベントあれば、オンリー集合型のイベントもあり。評論系・文学系などジャンルもより多彩に。
そして忘れてはならない、東方Projectの席巻…!
その一方で、劣勢に立たされるオールジャンル同人誌即売会の岐路は…?
今世紀の同人界にとって忘れてはならない、「黒子のバスケ」中止事件についても振り返ります。

STRIKE HOLEならではの試みともいうべき「47都道府県別・即売会の歴史」も解説!
筆者は、過去に「1990年代の即売会の歴史」「最近の即売会事情」を、47都道府県別に論じたことがあります。
今回の解説は、この両者の橋渡し役にもなるでしょう!


●B5サイズ 表紙モノクロ・本文モノクロ 56ページ

●頒布予定…12/30「コミックマーケット」3日目 
 配置・(南3ホール)メ35b
 サークル「STRIKE HOLE」にて頒布

 コミケ以後も、「STRIKE HOLE」サークル参加イベントにて頒布予定

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(以下御託が続きます)
今回も、即売会開催データを元に統計を取り、即売会開催の「トレンド」を解説します。

1.スタジオYOU・赤ブーブー通信社とオンリーイベント

まず目立つのが、2010年以降のオンリーイベント開催数急増。
前世紀時点で、既にオンリーイベントの開催数はオールジャンルを圧倒していましたが、これが2010年以降さらに顕著となります。

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しかしその内実を見ると、2006年以降、赤ブーブー通信社が「コミックシティ」内でプチオンリーを奨励したこと。
2010年以降、スタジオYOUが自前のオールジャンル同人誌即売会(「おでかけライブ」「コミックライブ」)内でオンリーイベントを併催させたこと。
2014年以降、赤ブーブー通信社も追随しオールジャンル内で自社主催のオンリーを開催したこと。

これらの要因が大きいことを、オンリー開催数に対するスタジオYOU・赤ブーブー通信社の占める割合を算出することにより、明らかにしました。
特にスタジオYOU主催オンリーは、2018年10月時点で、オンリー総開催数の46%を占めるに至ります。

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2.男性向けジャンル独特の傾向も解説

この他、男性向けジャンルで顕著に見られる「オンリー集合型イベント」。
2000年代に入り活躍する、SDF・ぷにけっと準備会・ケットコム
男性向け同人誌即売会界隈における代表的存在であろう3主催の開催傾向を分析し、2000年代における男性向けオンリーの開催実態についても迫ります。

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2004年『博麗神社例大祭』開催以降、同人界を席巻する「東方Project」に関しては、単独で1章を設けじっくり語ります。

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3.黒子のバスケ中止事件

2012年秋、数多くの同人誌即売会会場やイベント主催に脅迫状が送られ、次々と開催中止ないしサークル参加自粛に追い込まれた「黒子のバスケ」中止事件。
2012年冬コミでの、黒子のバスケ・ジャンル島の空虚な光景。あそこまで追い込まれたことを、我々は決して忘れてはならない。
2000年代の即売会を語るのなら、この事件だけは語らねばならない。そう考え、時系列で振り返ることにしました。

調べる中で、多くの黒子オンリーが中止に追い込まれ、オールジャンルも黒子サークルの参加自粛を強いられる中、何とかして黒子サークルのために場を設けようとした人々の存在も見えてきました。
無理やり会場を開拓して、何とかして頒布の場を設けよう、とする強い意志を持った方々にも、ささやかながらスポットを当てました。


4.筆者の大きな矛盾

47都道府県の歴史を描いているあたりで気づいたのですが、この書物は、矛盾に満ち溢れた書物ということが分かりましたw
いや、元々筆者の歴史研究は、口伝による歴史叙述の信ぴょう性を疑う立場からスタートしています。1990年代における即売会歴史研究のスタンスは、自身が当時を体感していないということもあり、紙媒体の史料を研究のベースとしています。

しかし2000年代の即売会史においては、自らの足で47都道府県を回った経験が、モロに反映されています。
その経験を切り離して歴史を語ることは、どうしてもできません。
となると、この書物は、筆者自身の口伝による歴史叙述の書物となります。

…口伝を疑う立場が、自ら口伝で歴史を語る。分かりやすい矛盾です(汗)

とは言え大事なのは「歴史を残すこと」「歴史に迫ること」です。
スタンスの矛盾は覚悟の上、自らが体感する歴史を記録することも大切と考え、世に著すこととしました。

私の書物を契機に、別の歴史観で別の歴史を語る方も出てくるかもしれない。
というか、そうなることを望んでいます。
その時、お互いの歴史観をぶつけ合うことで、歴史の真実により深く迫れるであろう。そういう期待を抱いています。