2007年ほど、同人活動における表現のあり方を考えさせられる年は、無かったかもしれない。年間を通し、数多くの事件やら出来事やらが発生したと思う。
時系列的にまとめるとこんな感じか。
*************************
2006年12月 警察庁「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」の最終答申発表
→18歳未満に性行為等のコミックを売らないよう、即売会主催にも対策の強化を呼びかける旨明言される
2007年4月 COMIC1内「トークショー」開催
*詳細は@++さん「4/30 comic1のトークショー レポート」がそれなりに詳しいか
2007年5月 「同人誌と表現を考えるシンポジウム」開催
*5月20日付拙文「「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が終わって」参照。ただし、同記事は私の個人的な感想中心であり、話し合われた具体的内容は同記事からのリンクを参照頂きたい。
*猥褻と18禁の定義が曖昧なまま終わったきらいが。
2007年6月14日 松文館裁判最高裁判決確定(上告不受理・二審判決確定)
*性器網掛け(当該漫画においては40%)も猥褻物に当たると判断される
→「現段階において」(*1)網掛け修正が猥褻にあたる危険性が露見
2007年7月
・都産貿浅草館、アブノーマルカーニバルに対し、次回以降会場を貸さない旨を通達
・日本同人誌印刷業組合、成人向け同人誌への18禁表示・奥付記載をサークルに要請
→私も「自主規制の動きは必要」と組合の動きを一旦は支持するが、組合内企業に行き過ぎた規制や法規の不理解が目立ち、サークルより怨嗟の声も。
・愛媛県在住のイラストレーター及び岡山県内の印刷業者が、「わいせつ図画頒布容疑」で捜査を受ける。
2007年8月 同イラストラーター、わいせつ図画頒布容疑で逮捕(翌月、罰金30万円の略式命令を受け、刑が確定する)
2007年9月14日
・日本同人誌印刷業組合、7月の18禁表示・奥付記載要請に関し、行き過ぎた規制や法規の不理解があった事を公式に謝罪する。
(参考:拙文10月27日付「【懺悔】今夏、日本同人誌印刷業組合を支持した件について」)
2007年10月上旬
・同組合の動きに対し、同人誌即売会連絡会が批判声明を発表。
2007年10月16日〜
11月24日開催「東方不敗小町」での「成人向け頒布禁止」発表に端を発した、都産業貿易センター及び他会場での成人向け頒布に関する騒動。
*現在は、不敗小町を除き成人向け頒布禁止となる即売会は無いものの、主催側からの参加者への要請が厳しくなる傾向に。また、今後の状況についても、情報が錯綜し流動的な部分も多く、予断を許さない。個人的な見解では、「落とし所」があるとは思うのだが。
*参考:@++さんの「エロ表現問題」カテゴリーを時系列で追うと分かりやすい。
(*1)猥褻を規定する刑法175条は極めて曖昧な基準。一昔前、陰毛露出も猥褻認定されていた事が好例。ゆえに、今後基準の変化がある事を想定し「現段階において」との前置きを付けておく。
*************************
1年間の流れを俯瞰すると、ざっとこんな所であろうか。
これ以外にも抜けている点があればご指摘いただたいが、表現問題に関わるおおよその事件は、ほぼこれでカバーし切っていると思う。
これらの事件は、それぞれが密接に関連している事もあれば、全く関わりの無い事もある。ただ、これらの事件に共通して言えるキーワードが、一つ存在する。
そしてそのキーワードは、今後同人世界が、表現の自由を保障される「場」を確保するために、最も大切な言葉でもある、と私は考える。
時系列的にまとめるとこんな感じか。
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2006年12月 警察庁「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」の最終答申発表
→18歳未満に性行為等のコミックを売らないよう、即売会主催にも対策の強化を呼びかける旨明言される
2007年4月 COMIC1内「トークショー」開催
*詳細は@++さん「4/30 comic1のトークショー レポート」がそれなりに詳しいか
2007年5月 「同人誌と表現を考えるシンポジウム」開催
*5月20日付拙文「「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が終わって」参照。ただし、同記事は私の個人的な感想中心であり、話し合われた具体的内容は同記事からのリンクを参照頂きたい。
*猥褻と18禁の定義が曖昧なまま終わったきらいが。
2007年6月14日 松文館裁判最高裁判決確定(上告不受理・二審判決確定)
*性器網掛け(当該漫画においては40%)も猥褻物に当たると判断される
→「現段階において」(*1)網掛け修正が猥褻にあたる危険性が露見
2007年7月
・都産貿浅草館、アブノーマルカーニバルに対し、次回以降会場を貸さない旨を通達
・日本同人誌印刷業組合、成人向け同人誌への18禁表示・奥付記載をサークルに要請
→私も「自主規制の動きは必要」と組合の動きを一旦は支持するが、組合内企業に行き過ぎた規制や法規の不理解が目立ち、サークルより怨嗟の声も。
・愛媛県在住のイラストレーター及び岡山県内の印刷業者が、「わいせつ図画頒布容疑」で捜査を受ける。
2007年8月 同イラストラーター、わいせつ図画頒布容疑で逮捕(翌月、罰金30万円の略式命令を受け、刑が確定する)
2007年9月14日
・日本同人誌印刷業組合、7月の18禁表示・奥付記載要請に関し、行き過ぎた規制や法規の不理解があった事を公式に謝罪する。
(参考:拙文10月27日付「【懺悔】今夏、日本同人誌印刷業組合を支持した件について」)
2007年10月上旬
・同組合の動きに対し、同人誌即売会連絡会が批判声明を発表。
2007年10月16日〜
11月24日開催「東方不敗小町」での「成人向け頒布禁止」発表に端を発した、都産業貿易センター及び他会場での成人向け頒布に関する騒動。
*現在は、不敗小町を除き成人向け頒布禁止となる即売会は無いものの、主催側からの参加者への要請が厳しくなる傾向に。また、今後の状況についても、情報が錯綜し流動的な部分も多く、予断を許さない。個人的な見解では、「落とし所」があるとは思うのだが。
*参考:@++さんの「エロ表現問題」カテゴリーを時系列で追うと分かりやすい。
(*1)猥褻を規定する刑法175条は極めて曖昧な基準。一昔前、陰毛露出も猥褻認定されていた事が好例。ゆえに、今後基準の変化がある事を想定し「現段階において」との前置きを付けておく。
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1年間の流れを俯瞰すると、ざっとこんな所であろうか。
これ以外にも抜けている点があればご指摘いただたいが、表現問題に関わるおおよその事件は、ほぼこれでカバーし切っていると思う。
これらの事件は、それぞれが密接に関連している事もあれば、全く関わりの無い事もある。ただ、これらの事件に共通して言えるキーワードが、一つ存在する。
そしてそのキーワードは、今後同人世界が、表現の自由を保障される「場」を確保するために、最も大切な言葉でもある、と私は考える。
【「順法」意識こそが大切】
キーワードは「順法」。
(「遵法」とも言うが、ここでは「順法」で表記を統一する)
YAHOO辞書によると、「法の指示するところを尊重し、きまりを守って行動すること」とある。
要は、法律を守れ、という事である。
では、誰がそれを守るのか。決まり切っている当たり前の事だが、それは、サークルでありスタッフであり、一般参加者である。同人に関る人間全てが順法精神を持つ事、これが今の困難に対する、唯一最強の解決策であると考える。
「順法」という言葉の中には、法律を知る・学ぶ、という意味も含まれている事を忘れてはならない。法律を守るためには、その法律を知らなければ守れない筈だからだ。同人関係者全員法律を勉強しよう、という事だ。
【どの法律を守るのか?】
同人に関る全ての人間が法律を守るのは分かった。では、どの法律を守るべきなのか?
我々が日本に住んでいる以上、日本で施行されている全ての法律を守る必要があるのは当然の事だ。しかし、法律の専門家、弁護士でも無いし全ての法を熟知する事は難しい。(日本人が皆法を熟知してたら弁護士なんぞ不要、弁護士商売あがったり、となろう)
そこで、同人に関する法律として、次の3つの法律を押さえておきたい。
1.刑法175条/猥褻文書・図画の頒布・販売の禁止
2.青少年保護育成条例:「条例」等で都道府県単位で制定されているが、内容は各都道府県とも極端な大差は無い模様。とりあえず東京都の条例をリンクする。
→18歳未満にエロを買わせる事、及びエロを見せない事を定めている。
3.児童ポルノ禁止法(児ポ法):
18歳未満の子供の性交を描写する物の頒布・禁止が制定されているが、現時点では写真・ビデオが該当物と定められており、絵(漫画)は対象外。同人誌が児ポ法で摘発された事例は過去存在しない。
表現問題を語る上で、この3つの法規が特に重要となる。
(他、税金関連の諸法令や著作権法も重要だが、ここで取り上げる表現問題とは直接の関連性は無いため、この項では割愛)
我々一人一人が、この3つの法規を混同せず正しく理解し、順守するよう努める事が大切な事となる。
(3の児ポ法は、同人誌が現在法規制の対象外ゆえ、現段階ではあまり重要ではない。1の刑法175条と、2の青少年育成条例。この2つが重要である)
上記、各条文へのリンク先を貼っておいた。難解な文章かもしれないが、出来る限り各自直接条文に当たって頂きたい。直接条文に当たる事が法規に対する誤解の防止となり、同時に理解の早道になると思う。
【何故、「順法」が必要なのか】
今年に入ってからの一連の動きは、全て、同人関係者の法律に対する理解不足に起因している。
先ず、「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」で何故同人誌が槍玉に挙げられたか。研究会の委員達は、実際に同人誌即売会や同人ショップを視察したのだろう。成人向けのエロ同人誌が、18歳未満誰でも手に取り閲覧し放題である状況、と認識している。この状況は、「ガキにエロ見せるな」という青少年育成条例に抵触する恐れがある。
確かに、去年の冬コミとか見ると、サークルのポップを見れば乳丸出しの女の子のイラストが大きく引き伸ばされて掲げられているし、同人ショップでもエロムービーを店頭で流してたような事例を私も見掛けている。
我々同人に慣れた人間は、この状況を普通に感じているが、一般人が見れば、眉をひそめる向きも多いだろう。我々の感覚では至極当たり前の光景でも、一般人には異様に映る。ここを念頭に置きたいもの。
「バーチャル(略」で同人誌が槍玉に上がった理由には、同人誌の世界で「青少年育成条例」が順守されていない恐れのある事が、一つの原因であったと言えよう。そして、この答申が、春のcomic1トークショーやシンポジウムにつながっていく。
松文館裁判の判決確定(2007年6月)、及び愛媛県在住のイラストレーター逮捕事件(7〜9月)。これは刑法175条(わいせつ図画の頒布・販売)の問題である。
特に、愛媛イラストレーターの逮捕事件は、イラストレーター本人の刑法順守の問題も当然あるが、それ以上に問題なのは、わいせつ図画の生産を水際で止めるべき印刷業者のチェック機能が働いていなかった事にある。
「同人誌と表現を考えるシンポジウム」において、時の日本同人誌印刷業組合理事長が、わいせつ図画は印刷前に修正を指導する等チェックを行っている、と語ったが、果たして本当にチェックしていたのか?疑われても止むを得ない。
印刷業者も、わいせつ図画頒布の幇助に問われかねない。自分達が刑法175条の取り締まりの射程圏内に入っている事を、強く認識せねばならない。
企業として活動していくに当たり、法に抵触するような活動は、企業自らを滅ぼしかねない。自分たちのメシのタネが存亡の危機に陥っている。自分たちの生活を守るためにも、もっと危機感を持っても良いのではないか。
この案件に対して日本同人誌印刷業組合が打ち出した対策が、18禁表示と奥付表記の徹底である。
だが、当の組合自体が、刑法175条(わいせつ図画禁止)と青少年育成条例(ガキにエロ見せるな)を混同しており、両法規に対する無知をみせた。サークルに対する行き過ぎた指導や強制も、組合加盟各社の法規に対する無知が原因だ。
組合加入の印刷業者が諸法令に不勉強であるが故、現場で無用の混乱が起こったし、そもそも対策自体がピント外れであった。
(拙文10月27日付「【懺悔】今夏、日本同人誌印刷業組合を支持した件について」でも同組合の対応を批判させていただいた)
そしてそれが、組合による謝罪声明や、同人誌即売会連絡会の批判声明につながっていく。
都産業貿易センターの一連の騒動も、背景がまだ完全に見えてこないので断言しにくい部分もあるが、各主催者が取った対策の大半は、ゾーニングの強化である。
ゾーニングを強化し、エロを18歳未満に見せない事、すなわち青少年育成条例の順守を徹底させる事が、会場側の態度の軟化、すなわち条件付ながらも成人向け本の頒布許可につながっている模様だ。
以下憶測も入るが、一つ言えることとしては、【青少年育成条例の順守】で解決への道が開けた、という事ではないか。
逆に言えば、これまでは青少年育成条例が順守されておらず、ゾーニングもいいかげんであった。今までは会場側も見て見ぬふりしてきた部分もあったが、それも出来なくなってきた…という構図な気がする。(*2)
これら一連の事件(*3)は、全て法律(特に青少年育成条例・刑法175条)に抵触してきた事が原因である。法規を守ってさえいれば防げた、という考え方もできる。
もっと踏み込んで申し上げれば、これら一連の話は表現規制でも何でもなく、ただ単に「お前らもっと法律・条例を意識してくれよ」というだけの話ではなかろうか?
故に、順法精神=法律を勉強し正しく理解し、それを守る事。これこそが同人関係者に求められていると思う。
*2 実際、都産貿からの公式のお知らせ(11月9日付)の中では以下の通りアナウンスされている。
>◇ ご利用にあたっては、主催者の方に対し「東京都青少年の健全な育成に関する条例」をはじめ法令遵守の徹底を求めていきたいと考えています。ご利用される方々の、ご理解、ご協力をお願いいたします。
*3 アブノーマルカーニバルの締め出しに関しては、青少年育成条例やら猥褻やらとは直接には関係無い。敢えて言えば、「東京都立産業貿易センター条例」第7条第2項に定められている施設使用不認可の条件「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認められるとき」に相当するか。但し、山口貴士弁護士は自身のブログ上にて、この運用が不適切と指摘しており、アブノーマルカーニバル締め出しの是非は賛否分かれると思われる。
【「表現の自由」を訴える前に順法(遵法)を】
これは当たり前の常識だが、自由と責任は表裏一体。
責任を果たさない者が、自由を叫んでも、周囲は冷ややかな目でヲチするのが関の山である。
「責任」と言っても漠然としているが、私は「法律を守ること」も社会で生きていく中での責任の一つである、と考える。
今の同人世界を見渡すと、我々の置かれている状況は
【自分達が法律を守っていない(or関心が無い)のに、「表現の自由」を叫んでいるだけ】
と言えるかもしれない。
「表現の自由」は尊重されて然るべきものである。それを主張する事自体は、良い事だと思う。
だが、その前に我々同人関係者は「法令順守」を考えるべきではないか。
「法令順守」という「責任」を考えずに「表現の自由」を訴えても、片手落ちに過ぎないし、それ以前に世間は耳を貸さないだろう。第三者的に見て、「自分たちに都合の良い部分だけを訴えている」ように見え、世間ズレの印象を持つんじゃないかと。
我々は社会の中で生きている。社会で協調して生きていくことが求められている。同人関係者も、それは例外ではない。
法令という物は、社会に生きる人たちの最大公約数としての取り決めである。法令が「エロをガキに見せるな」と定めるのならば、その裏には、「エロをガキに見せる」事を快く思わない人の存在がある。子を持つ母親の存在は、その最たる例であろう。
表現規制だ反対だ叫ぶ前に、「エロをガキに見せる」事を忌み嫌う存在を考慮し、配慮することも大切な事だ。社会との協調を求められる「同人誌即売会」という「場」を維持する上で、必要不可欠であろう。
(同人誌即売会も、社会と協調する事を強いられる。社会に協調しなかったら、「反社会的存在」って事で会場貸して貰えなくなる。会場貸し借りの観点からも、同人誌即売会には、社会との協調が求められる)
「表現の自由」の主張よりも、「法令順守」の方が先決だ。
【法令順守のために 勉強会の開催を!】
それでは、我々同人関係者は今後何を成すべきか。これはもう決まり切っている。
我々同人関係者がするべき事は、「表現規制反対」「表現の自由を守れ」と叫ぶ事ではない。
(そもそも今回の一件は、「表現規制」にすら値しない。同人関係者よお前ら法令守れ、と世間が要望しているに過ぎない。)
法令を勉強し、法令を順守する事。
これ以外に無かろう。
今年一年に起こった数々の事件の全ては、同人関係者が正しく法令を順守すれば起こり得なかった事件である。
具体的には「ガキにエロ見せるな」を唱える「青少年育成条例」、わいせつ罪を定義する「刑法175条」。この2つを正しく理解し、混同しない事。これが大切であろう。
ただ、法令は難解だ。我々一人一人が独学で学んでも、誤読して学んでしまう危険性もあるし、人によっては意味が理解できないかもしれない。というか、私も余りの難解な文章に、脳味噌が何度もストライキを起こしたぐらいだw
そこで私からの提案となるのだが、同人関係者の法令に関する知識を深めるために、専門の方をお招きしての「勉強会」を開催しては如何であろうか。
法律に詳しいと言えば弁護士。弁護士を呼んで法解釈に関する勉強会を開いても良い。(但し、弁護士が(世間的に認められにくい)独自の法解釈やイデオロギーを持ち出さないような注意が必要。一般的な法解釈に則って、世間的にこの法律がいかに運用されているか、を語れる人材が望ましい)
また、実際に法律を運用する側…という事で、警視庁等の警察関係者や会場担当者をお招きして、どこまでがボーダーラインかをレクチャーいただく、という方法もあると思う。バーチャル(ryに出席された有識者をお招きし、同人頒布物で問題になりそうな部分についてご意見をお聞きするのも良いかもしれない。
刑法175条の「猥褻」に関して言えば、この分野に精通されている、コミケットの市川共同代表をお招きし、サークル対象に「墨塗り&修正講座」を行っても良いのではないかw
…市川共同代表がどっかで冗談交じりにおっしゃってましたが、自分は半分本気で希望しております。
という事で、今年一年の諸問題で、我々同人関係者がいかに法令に不勉強であったかを痛感した。もちろん、自分もその一人だ。
我々はもっともっと勉強せねばならない。もちろん、自分自身独学で勉強するつもりだが、有識者をお招きしての勉強会なんてのがあれば、より理解も速まり、深まる。シンポジウムも悪くは無いが、私個人としてはシンポジウムよりも勉強会を希望、という感じであろうか。
専門家の講義による勉強の好機を切望しつつ、今年一年間に起こった一連の事件の考察の、結びの言葉とさせて頂きたい。
キーワードは「順法」。
(「遵法」とも言うが、ここでは「順法」で表記を統一する)
YAHOO辞書によると、「法の指示するところを尊重し、きまりを守って行動すること」とある。
要は、法律を守れ、という事である。
では、誰がそれを守るのか。決まり切っている当たり前の事だが、それは、サークルでありスタッフであり、一般参加者である。同人に関る人間全てが順法精神を持つ事、これが今の困難に対する、唯一最強の解決策であると考える。
「順法」という言葉の中には、法律を知る・学ぶ、という意味も含まれている事を忘れてはならない。法律を守るためには、その法律を知らなければ守れない筈だからだ。同人関係者全員法律を勉強しよう、という事だ。
【どの法律を守るのか?】
同人に関る全ての人間が法律を守るのは分かった。では、どの法律を守るべきなのか?
我々が日本に住んでいる以上、日本で施行されている全ての法律を守る必要があるのは当然の事だ。しかし、法律の専門家、弁護士でも無いし全ての法を熟知する事は難しい。(日本人が皆法を熟知してたら弁護士なんぞ不要、弁護士商売あがったり、となろう)
そこで、同人に関する法律として、次の3つの法律を押さえておきたい。
1.刑法175条/猥褻文書・図画の頒布・販売の禁止
2.青少年保護育成条例:「条例」等で都道府県単位で制定されているが、内容は各都道府県とも極端な大差は無い模様。とりあえず東京都の条例をリンクする。
→18歳未満にエロを買わせる事、及びエロを見せない事を定めている。
3.児童ポルノ禁止法(児ポ法):
18歳未満の子供の性交を描写する物の頒布・禁止が制定されているが、現時点では写真・ビデオが該当物と定められており、絵(漫画)は対象外。同人誌が児ポ法で摘発された事例は過去存在しない。
表現問題を語る上で、この3つの法規が特に重要となる。
(他、税金関連の諸法令や著作権法も重要だが、ここで取り上げる表現問題とは直接の関連性は無いため、この項では割愛)
我々一人一人が、この3つの法規を混同せず正しく理解し、順守するよう努める事が大切な事となる。
(3の児ポ法は、同人誌が現在法規制の対象外ゆえ、現段階ではあまり重要ではない。1の刑法175条と、2の青少年育成条例。この2つが重要である)
上記、各条文へのリンク先を貼っておいた。難解な文章かもしれないが、出来る限り各自直接条文に当たって頂きたい。直接条文に当たる事が法規に対する誤解の防止となり、同時に理解の早道になると思う。
【何故、「順法」が必要なのか】
今年に入ってからの一連の動きは、全て、同人関係者の法律に対する理解不足に起因している。
先ず、「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」で何故同人誌が槍玉に挙げられたか。研究会の委員達は、実際に同人誌即売会や同人ショップを視察したのだろう。成人向けのエロ同人誌が、18歳未満誰でも手に取り閲覧し放題である状況、と認識している。この状況は、「ガキにエロ見せるな」という青少年育成条例に抵触する恐れがある。
確かに、去年の冬コミとか見ると、サークルのポップを見れば乳丸出しの女の子のイラストが大きく引き伸ばされて掲げられているし、同人ショップでもエロムービーを店頭で流してたような事例を私も見掛けている。
我々同人に慣れた人間は、この状況を普通に感じているが、一般人が見れば、眉をひそめる向きも多いだろう。我々の感覚では至極当たり前の光景でも、一般人には異様に映る。ここを念頭に置きたいもの。
「バーチャル(略」で同人誌が槍玉に上がった理由には、同人誌の世界で「青少年育成条例」が順守されていない恐れのある事が、一つの原因であったと言えよう。そして、この答申が、春のcomic1トークショーやシンポジウムにつながっていく。
松文館裁判の判決確定(2007年6月)、及び愛媛県在住のイラストレーター逮捕事件(7〜9月)。これは刑法175条(わいせつ図画の頒布・販売)の問題である。
特に、愛媛イラストレーターの逮捕事件は、イラストレーター本人の刑法順守の問題も当然あるが、それ以上に問題なのは、わいせつ図画の生産を水際で止めるべき印刷業者のチェック機能が働いていなかった事にある。
「同人誌と表現を考えるシンポジウム」において、時の日本同人誌印刷業組合理事長が、わいせつ図画は印刷前に修正を指導する等チェックを行っている、と語ったが、果たして本当にチェックしていたのか?疑われても止むを得ない。
印刷業者も、わいせつ図画頒布の幇助に問われかねない。自分達が刑法175条の取り締まりの射程圏内に入っている事を、強く認識せねばならない。
企業として活動していくに当たり、法に抵触するような活動は、企業自らを滅ぼしかねない。自分たちのメシのタネが存亡の危機に陥っている。自分たちの生活を守るためにも、もっと危機感を持っても良いのではないか。
この案件に対して日本同人誌印刷業組合が打ち出した対策が、18禁表示と奥付表記の徹底である。
だが、当の組合自体が、刑法175条(わいせつ図画禁止)と青少年育成条例(ガキにエロ見せるな)を混同しており、両法規に対する無知をみせた。サークルに対する行き過ぎた指導や強制も、組合加盟各社の法規に対する無知が原因だ。
組合加入の印刷業者が諸法令に不勉強であるが故、現場で無用の混乱が起こったし、そもそも対策自体がピント外れであった。
(拙文10月27日付「【懺悔】今夏、日本同人誌印刷業組合を支持した件について」でも同組合の対応を批判させていただいた)
そしてそれが、組合による謝罪声明や、同人誌即売会連絡会の批判声明につながっていく。
都産業貿易センターの一連の騒動も、背景がまだ完全に見えてこないので断言しにくい部分もあるが、各主催者が取った対策の大半は、ゾーニングの強化である。
ゾーニングを強化し、エロを18歳未満に見せない事、すなわち青少年育成条例の順守を徹底させる事が、会場側の態度の軟化、すなわち条件付ながらも成人向け本の頒布許可につながっている模様だ。
以下憶測も入るが、一つ言えることとしては、【青少年育成条例の順守】で解決への道が開けた、という事ではないか。
逆に言えば、これまでは青少年育成条例が順守されておらず、ゾーニングもいいかげんであった。今までは会場側も見て見ぬふりしてきた部分もあったが、それも出来なくなってきた…という構図な気がする。(*2)
これら一連の事件(*3)は、全て法律(特に青少年育成条例・刑法175条)に抵触してきた事が原因である。法規を守ってさえいれば防げた、という考え方もできる。
もっと踏み込んで申し上げれば、これら一連の話は表現規制でも何でもなく、ただ単に「お前らもっと法律・条例を意識してくれよ」というだけの話ではなかろうか?
故に、順法精神=法律を勉強し正しく理解し、それを守る事。これこそが同人関係者に求められていると思う。
*2 実際、都産貿からの公式のお知らせ(11月9日付)の中では以下の通りアナウンスされている。
>◇ ご利用にあたっては、主催者の方に対し「東京都青少年の健全な育成に関する条例」をはじめ法令遵守の徹底を求めていきたいと考えています。ご利用される方々の、ご理解、ご協力をお願いいたします。
*3 アブノーマルカーニバルの締め出しに関しては、青少年育成条例やら猥褻やらとは直接には関係無い。敢えて言えば、「東京都立産業貿易センター条例」第7条第2項に定められている施設使用不認可の条件「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認められるとき」に相当するか。但し、山口貴士弁護士は自身のブログ上にて、この運用が不適切と指摘しており、アブノーマルカーニバル締め出しの是非は賛否分かれると思われる。
【「表現の自由」を訴える前に順法(遵法)を】
これは当たり前の常識だが、自由と責任は表裏一体。
責任を果たさない者が、自由を叫んでも、周囲は冷ややかな目でヲチするのが関の山である。
「責任」と言っても漠然としているが、私は「法律を守ること」も社会で生きていく中での責任の一つである、と考える。
今の同人世界を見渡すと、我々の置かれている状況は
【自分達が法律を守っていない(or関心が無い)のに、「表現の自由」を叫んでいるだけ】
と言えるかもしれない。
「表現の自由」は尊重されて然るべきものである。それを主張する事自体は、良い事だと思う。
だが、その前に我々同人関係者は「法令順守」を考えるべきではないか。
「法令順守」という「責任」を考えずに「表現の自由」を訴えても、片手落ちに過ぎないし、それ以前に世間は耳を貸さないだろう。第三者的に見て、「自分たちに都合の良い部分だけを訴えている」ように見え、世間ズレの印象を持つんじゃないかと。
我々は社会の中で生きている。社会で協調して生きていくことが求められている。同人関係者も、それは例外ではない。
法令という物は、社会に生きる人たちの最大公約数としての取り決めである。法令が「エロをガキに見せるな」と定めるのならば、その裏には、「エロをガキに見せる」事を快く思わない人の存在がある。子を持つ母親の存在は、その最たる例であろう。
表現規制だ反対だ叫ぶ前に、「エロをガキに見せる」事を忌み嫌う存在を考慮し、配慮することも大切な事だ。社会との協調を求められる「同人誌即売会」という「場」を維持する上で、必要不可欠であろう。
(同人誌即売会も、社会と協調する事を強いられる。社会に協調しなかったら、「反社会的存在」って事で会場貸して貰えなくなる。会場貸し借りの観点からも、同人誌即売会には、社会との協調が求められる)
「表現の自由」の主張よりも、「法令順守」の方が先決だ。
【法令順守のために 勉強会の開催を!】
それでは、我々同人関係者は今後何を成すべきか。これはもう決まり切っている。
我々同人関係者がするべき事は、「表現規制反対」「表現の自由を守れ」と叫ぶ事ではない。
(そもそも今回の一件は、「表現規制」にすら値しない。同人関係者よお前ら法令守れ、と世間が要望しているに過ぎない。)
法令を勉強し、法令を順守する事。
これ以外に無かろう。
今年一年に起こった数々の事件の全ては、同人関係者が正しく法令を順守すれば起こり得なかった事件である。
具体的には「ガキにエロ見せるな」を唱える「青少年育成条例」、わいせつ罪を定義する「刑法175条」。この2つを正しく理解し、混同しない事。これが大切であろう。
ただ、法令は難解だ。我々一人一人が独学で学んでも、誤読して学んでしまう危険性もあるし、人によっては意味が理解できないかもしれない。というか、私も余りの難解な文章に、脳味噌が何度もストライキを起こしたぐらいだw
そこで私からの提案となるのだが、同人関係者の法令に関する知識を深めるために、専門の方をお招きしての「勉強会」を開催しては如何であろうか。
法律に詳しいと言えば弁護士。弁護士を呼んで法解釈に関する勉強会を開いても良い。(但し、弁護士が(世間的に認められにくい)独自の法解釈やイデオロギーを持ち出さないような注意が必要。一般的な法解釈に則って、世間的にこの法律がいかに運用されているか、を語れる人材が望ましい)
また、実際に法律を運用する側…という事で、警視庁等の警察関係者や会場担当者をお招きして、どこまでがボーダーラインかをレクチャーいただく、という方法もあると思う。バーチャル(ryに出席された有識者をお招きし、同人頒布物で問題になりそうな部分についてご意見をお聞きするのも良いかもしれない。
刑法175条の「猥褻」に関して言えば、この分野に精通されている、コミケットの市川共同代表をお招きし、サークル対象に「墨塗り&修正講座」を行っても良いのではないかw
…市川共同代表がどっかで冗談交じりにおっしゃってましたが、自分は半分本気で希望しております。
という事で、今年一年の諸問題で、我々同人関係者がいかに法令に不勉強であったかを痛感した。もちろん、自分もその一人だ。
我々はもっともっと勉強せねばならない。もちろん、自分自身独学で勉強するつもりだが、有識者をお招きしての勉強会なんてのがあれば、より理解も速まり、深まる。シンポジウムも悪くは無いが、私個人としてはシンポジウムよりも勉強会を希望、という感じであろうか。
専門家の講義による勉強の好機を切望しつつ、今年一年間に起こった一連の事件の考察の、結びの言葉とさせて頂きたい。
同人誌印刷所には2種類あって、
・同人誌専門の印刷所
・一般商業印刷も行っている印刷所
があります。
仮に、「表現関連問題に対して私たちから見て明らかに十分『誠実』な対応を行っていた」にもかかわらず(警察や通報者の気まぐれ等で)逮捕、家宅捜索などを受けた場合場合を想定してみてください。
前者の印刷所であればさほどのダメージはありません(むしろ同情発注があるかも?)が、後者の場合「仮に裁判で無罪になったとしても」風評で発注が激減する可能性があります。そのためどうも後者の印刷所は、やや「法律(やコミケの基準)よりワンランク厳しい」規制をかけたがる傾向があると思われます。