コスチュームカフェ(以下「コスカ」と表記)が、都産業貿易センターと協議の上、表現に関する幾つかのガイドラインを定めた上でイベント開催に漕ぎ着けた、という流れは、皆様周知の事と思う。

引用:コスカの参加者アピールのページより
>さて、今回のコスチュームカフェですが、その後会場側との話し合いを重ねた上で
>先にお出しした下記ガイドラインに沿って、予定どおりイベントを開催することとなりました。

私は、以前からの主張だが、表現に関するガイドラインの制定は必要、とする立場を取っている。
ガイドラインとして「形」にまとめる事で業界内部での自浄力をアピールできる効果、および一般・サークルへの啓蒙効果を重んじるからだ。多少のリスクに目を瞑ってでも、ガイドラインは必要と考えている。
(10月22日付拙文「成年向け同人のガイドライン」参照)

コスカのガイドライン策定への取り組みは、基本的に高く評価したい。
自分がガイドライン導入論者だから、(ガイドラインを導入した)コスカを評価している、という側面もある。
しかし、それ以上に見逃せないのは、ゼロから形になる物を作り上げた事。これと言った先例の無い中、ゼロから立ち上げる事は、大変なパワーが要る。中々思い立ってできる事ではない。それを実現に至らしめた意欲的な取り組みは、評価されて然るべき、と考える。

しかしながら、今回のガイドライン、幾つか懸念点もある。
以下、気になる点を挙げておく。
*尚、これより先、コスカが定めたガイドラインを「コスカ式ガイドライン」と表記する。
1.「コスカ式ガイドライン」が、他の都産貿開催即売会でも押し付けられる懸念

 (コスカ以外の)他の即売会も、彼らなりに信念を持って取り組み、独自の方針で運営を行っている即売会が多い。
 主催が異なれば考え方も異なる。信念の強い主催なら、コスカ式ガイドラインを守れ、と言われた所で「何様だこの野郎 てめーらが勝手に決めたガイドライン押しつけんじゃねえ貴様青龍刀で叩き(ry」となるだろう。


2.コスカ以外の主催達の意見は、どこまで反映されたか?

 そもそも、この「コスカ式ガイドライン」。コスカと都産貿で話し合いが成されたのは間違いない。だが、話し合いの過程が公開された訳でもなく、他の即売会主催の意見がどこまで取り入れられたか不明瞭だ。
 都産貿で開催される即売会は、コスカや高天原主催の物ばかりではない
 意見が取り入れられた主催は良いが、自分の意見が全く聞かれもしなかった主催にしてみたら、「コスカが自分たちで勝手に決めたガイドラインを押し付けようとしている」と押し付け感を強く抱くであろう。


3.「コスカ式ガイドライン」は少々厳し目。それが既成事実となって、前に倣え的に他の会場(特に東京ビッグサイト)でも適用される危険性

 「コスカ式」は、会場・主催双方が協議し、双方の同意を得た唯一の「ガイドライン」である。
 他の即売会会場でも何かガイドラインを作ろう、という話になれば、当然先例を参照にする。お役所は前例踏襲主義、そして即売会会場の大半は公営の会場だ。
 となると、他の即売会会場でも、コスカ式を流用する可能性は十分有り得る。
 …ビッグサイトでそうなったら、当日運営等、ややこしくなりそうな悪寒が激しく漂う。


簡単に纏めると、「コスカが独断で決めたガイドラインを、他の即売会でも押し付けられるんじゃ?」という不安がある。
その不安に対しては、こういう考え方を提起したい。


【ガイドラインは、金科玉条ではない。世間の趨勢で変わるべきものである


ガイドラインは、あくまで【現時点での】規範を示す【暫定的】なものに過ぎず、これを絶対視しては決してならない。
絶対視した日には、例えば時が変わって、週刊誌での無修正・丸出しOKのヌードグラビア解禁の時代になったとしても、同人誌だけが昔のまま修正を強いられる状況が続く。ガイドラインが、時勢にそぐわない時代遅れの物となってしまう。

ガイドラインは、絶対ではない。ましてや、今回はコスカと都産貿との間で協議されて決まったものに過ぎず、他主催の意見や考えがどこまで反映されたか。
後述するが、法令以上の規制を参加者に強いている節もある。
皆が納得するガイドラインとは、お世辞にも言えない。

私は、今回の「コスカ式ガイドライン」。これはこれで尊重すべきガイドラインだが、あくまで【叩き台】として捉えるべき、と考える。
「コスカ式」を叩き台に、各主催がそれぞれの考え方に基づいて独自のガイドラインを考えてはいかがであろうか。コスカだって試行錯誤した。他の即売会も今後試行錯誤する。数々の試行錯誤の果てに、同人関係者にも世間にも納得されるガイドラインが出来上がってくるのではないか。

ぶっちゃけ、他の即売会が「コスカ式」を押し付けられたのなら、主催は突っぱねちゃえば良いのではないか。

「このガイドラインはあくまでコスカが定めたガイドラインに過ぎない。私はコスカとは別団体だしイベントも違う、無関係だ。そのガイドラインを即飲む訳にはいかない。私はこういうガイドラインを考えている。」

みたいな感じで。
その上で、主催は自らの考えるガイドラインを提案すれば良いのだ。表現の自由を守ろうと最大限の努力を図る覚悟のある主催なら、厳しいガイドラインを目の当たりにした日にゃ、代案を出すぐらいはするだろう。

流石に都産貿浜松町館では、その借り方の特殊性から、立場上突っぱねる事が難しい主催も多かろうが、それでも「ガイドラインのこの部分は実情に沿わないんじゃね?厳しいんじゃね?」ぐらいの意見を出すぐらいは出来ると思う。

こうして様々な意見を吸収しつつ、ガイドラインはより進化して行く
少なくとも、今回の「コスカ式」は絶対ではない。むしろ、相当に不完全なものである。
「コスカ式」の中身を論じる事で、より洗練されたガイドラインを築く方向で考えていただければ、と切願する。

また、コスチュームカフェ関係者には、今回のガイドラインが絶対的な存在ではない事を理解いただき、他主催に「押し付け」となる事の無いよう望みたい。
また、多方面の意見を吸収し、ガイドラインをより洗練されたものにして頂く事を意識して頂きたいとも願う。


という訳で以下、コスカ式ガイドラインの詳細について、自分なりに論じて行きたい。
折角コスカが作ってくれたガイドライン。より良いものに研磨する為にも、ここで色々論じる意義はあると考える。

今回の「コスカ式」。大別すると以下4点に分けられている。

1.サークル参加登録・見本誌回収の実施
2.成人向けゾーン・一般向けゾーン 明確なフロア分け
3.サークルのPOP/看板についての規定
4.表紙/裏表紙についての規定



1.サークル参加登録と見本誌回収

 今秋のコスカより、新規に実施する事となった。今回に限り(過渡的措置として)見本誌回収は見合わせ。見本誌チェックのみを行った。
 コミケ等の大規模即売会でも既に行われている運用方法であり、サークル側の抵抗も少ないかと思われる。

 但し、ここで気になる点は、【見本誌回収を行う理由】である。
 見本誌回収を行う即売会は多々あるも、理由を明示している即売会は意外と少ない。サークル側も決まりだからと見本誌を提出するが、自分達が小遣い銭を出して刊行した本を理由も無く回収される事には、内心面白くは無い筈。
 たかが1冊2冊でガタガタ抜かすな、とも思うが、サークルにすれば、同人誌は小遣い銭と労力と愛情をかけて創り上げた「作品」だ。何故見本誌回収を行うのかを明確に説明する事無く、決まりだからと見本誌を回収するのは、「サークル目線」に立った行動とは言えない。
 見本誌を回収するならするで構わないが、どのような目的・用途で身本誌を回収するのか明示するべき、と私は考える。

 コスカの案内文を拝見すると、今回はあくまで見本誌チェックのみに留めるつもりも、次回以降は見本誌回収を行う意向である。
 では、コスカは何故見本誌を回収するのか?
 残念ながら、その理由が明確に示されていない。

>尚、本来であれば成人向け・一般向けに拘らず見本誌は回収し主催者にて保管する事になっておりましたが、
>(サークル様の負担になるのであまりやりたくはありませんでした。)

とあるので、誰かしらの意向を受けて見本誌を回収し主催で保管する必要が生じた、という事なのだろうか。ただ、それが会場の意向なのか?他者の意向なのか?誰の意向なのかも分からなければ、何故主催が見本誌を保管する必要があるのかも不明瞭だ。

 何故、見本誌回収を行う必要があるのか。コスカはそれをサークルに明確に説明するべきだろう。無論、コスカだけの問題ではなく、他即売会にも同様の事が言えると思う。


2.成人向けゾーン・一般向けゾーン 明確なフロア分け

 今回は3階を成人向けゾーン、4階を一般向けゾーンという形で、明確なフロア分けを行った。
 一般向けゾーン(4階)では一切の成人向け販売を禁止する、これまでにない厳しい規定である。
 この規定自体は、一つのゾーニングの方法であり、批判するつもりも反対するつもりもない。ゾーニングとしては分り易く、会場側の心証も良くなるのでは?という期待もある。

 但し、サークルへの告知・応対の点では問題を残した。サークル募集段階から「フロア分けするよ」と告知していれば問題は無いと思う。サークルは、「フロア分けをする」という情報を念頭に申込を検討したり、或いは申込ジャンルを検討したりできる。
 しかし、今回はサークル募集終了後の告知となった。状況の急な激変もあり、止むを得ずの対応かもしれないが、サークルにして見たら大変な事だ。

 成人向けが1点あった為に成人向けフロアに飛ばされたサークルにしてみたら、自分は成人向け1点しか無いのに。成人向けの客層はウチの普段の客層と違うよなあ、と困惑するサークルも出てきそう。一方、一般向けフロアに配置されたサークルにして見たら、「1冊成人向け出すつもりでもう入稿しちまったよ!青龍刀で叩(ry」と困惑するサークルも居よう。
 募集段階から告知していればともかく、募集終了後の告知は、正直サークルに不親切だ。
 見本誌回収は、過渡的措置として今回限り「見本誌チェック」に留めた。それ同様に、今回のフロア分けも過渡的措置として無し、という事には出来なかったのか?



3.サークルのPOP/看板についての規定
4.表紙/裏表紙についての規定


ここが、今まで余り問われてこなかった部分だが、昨年12月「バーチャル社会(ry」の答申以降、即売会側に青少年保護条例(ガキにエロ見せるな)を順守する方向で流れが固まりつつある。
コミケットアピールでも、POP・看板等での過激な表現の自粛が呼びかけられている。コミックシティでは、成人向け同人誌には成人向けの表記を明記しよう、と継続的に呼び掛けている。

ガキにエロを見せない、所謂「18禁」を順守する為に必要な事としては、エロ同人誌は18歳に売らない。これは当然の事だ。
しかし、「18禁」は「エロを売らない」のは勿論の事、「エロを見せない」事も含まれている
ぶっちゃけ、いかに18歳未満に売らない事に注力した所で、POPや看板や表紙にエロいのが表示され、それが誰でも閲覧できる状態になっていては、青少年保護条例を順守した事にはならない。
POPや看板、表紙にも注意を払わねばならない。

今回のコスカ式ガイドラインでは、以下の通り頒布物に対するガイドラインが定められている。

>■POP・看板について 
> ・POP・看板など人目につく物については、過激な表現や下半身及び乳首が露出したイラストは掲示できません。
> ・上半身について、乳首が透けているものは掲示できません。
> ・下半身について、局部やヘアが透けているものや盛り上がっているものは掲示できません。
> ・暴力描写、グロテスク描写、猥褻感を感じさせるイラストは掲示できません。
> ・性行為が描かれたものは掲示できません。
> 
>■表紙・裏表紙について 
> ・表紙・裏表紙については、過激な表現や下半身が露出したイラストは禁止です。
> ・下半身について、局部やヘアが透けているものや盛り上がっているものは禁止です。
> ・下着は問題ないと判断します。
> ・トップレスのイラストは問題ないと判断します。
> ・暴力描写、グロテスク描写、猥褻感を感じさせるイラストは禁止いたします。
> ・表紙が性行為描写の場合は、例えば男性器を乳房に挟んだパイズリ描写は、
>  グレーゾーンです。現状では禁止ではありませんが一定のリスクは伴います。
> ・表紙に成人向け表記を入れる。既刊やコピー誌で表記の無いものは目立つ形で値札等に表示する。

まとめるとこんな感じだろうか。

・局部・ヘア → POP看板も表紙も不可
・性行為描写 → POP看板のみ不可、表紙は微妙
・乳首 → POP看板のみ不可、表紙は無問題と判断
・下着 → 表紙は無問題、POP看板には言及無し


POP・看板が人目に付きやすい故、表紙よりもガイドラインが厳しくなっている感があるが、おおむね妥当な基準だと思う。
あえて個人的な意見を申せば、表紙の乳首が「無問題」となっているがちょい楽観的、微妙なラインな気がするし、性行為描写も「微妙」というよりは「クロ」じゃないか、って気がする。私の感覚が、コスカより少し厳しめなのかもしれない。ただ、ここらへんは人によって基準が分かれるであろうから、もっと皆で議論を深めて頂きたい所である。


コスカ式ガイドラインは、18歳未満が会場に入り込める環境下であるならば、全般的に妥当と考える。条例を順守しつつ、表現の幅を広げるべく最大限努力した結果がこれなのだろう。
しかし、前項で述べたように、今回のコスカでは成人ゾーン・一般ゾーンで明確なフロア分けも行っている。更に、一般ゾーンでは18禁本の頒布自体を禁じている

フロア分けは何の為に行っているのか。それは、言わずもがな「ガキにエロを見せない」青少年育成条例を順守するためである。
フロア単位で成人ゾーンを作れば、その中には18歳未満は誰も入り込めない。逆に言えば、成人フロアの中には18歳未満は存在し得ないのだから、成人フロア内で「ガキにエロを見せない」為の工夫を図る必要も無い。猥褻に引っかからない限り、言い方悪いが「やりたい放題」だ。

一般フロア内なら、18歳未満の目に触れない為にもPOP・看板・表紙に関する規定は必要だろう。
だが、成人フロア内には18歳未満が存在しない。POP・看板・表紙に関する規定自体「不要」ではないか

フロア分けの規制、POP・看板・表紙に関する規制、どちらか片方だけでも青少年育成条例は充分に順守できるにも関わらず、両方から規制をかけ二重に規制してしまっている。
結果、過度に規制が厳しくなっている。コスカ式ガイドラインの欠点はそこにあると言えよう。



今回、私は概ねコスカ式ガイドラインを評価しつつも、一部問題点を指摘させて頂いた。
次回以降もコスカは続いていく。これら指摘の問題点が解消され、会場・サークル・一般参加者・主催、全てが丸く収まるような即売会運営を、ガイドラインを、コスカには目指して頂きたい。
また、他の即売会主催にも、コスカの良い点は見習い、悪い点は反面教師にする。コスカから学ぶべき事は非常に多い。コスカの動向を自らの即売会運営の参考にして頂く事を強く願いたい。