相変わらず即売会が終了して相当時間経ってからのレポートで恐縮だが(*1)、11月3日開催、ケットコム主催のスキマフェスティバルについて語りたい。

*1 てか、このツーテンポかスリーテンポぐらいずれたペースで行くと、コミッククリエイション(11月23日)のレポは来年あたりになりそうな悪寒w

スキマフェスティバル(以下「スキフェス」と表記)は、今流行りの「オンリー集合型」の同人誌即売会である。1つのフロアに小規模オンリーが複数集合し、カタログも共通化させる。
都産祭」や「SDF0513」がオンリー集合型の代表的即売会と言えるだろうが、スキフェスの特徴的な点としては、その名の通り、隙間産業的なマイナージャンル・マニアックなジャンルを結集して即売会を開催した、という所にあろう。

マイナー・マニアックな隙間ジャンルは、単独で即売会を開催しても、元々のサークルが余りにも少ないゆえ、5〜10サークルぐらいしか集まらない。単独での即売会開催は事実上不可能だ

だが、オンリー集合型とする事で、隙間ジャンルでもオンリー開催の道を開いた
しかも「スキマフェスティバル」の名の示す通り、コンセプトは隙間ジャンルの総合イベント。隙間ジャンルの即売会たる事を「売り」にでき、買い手の興味も引ける。一石二鳥の効果をもたらす即売会とある。
(コミックシティの「プチオンリー」も隙間ジャンルに道を開いているが、これとは別のアプローチ方法と言えよう)

ケットコムの長所は、常に進取気鋭の意欲を持ち、独特のアイディアで新しいコンセプトの即売会を次々と開催する所。時流を取り入れるアンテナが鋭く、発想が大変豊か。主催氏の頭脳の柔軟さには実に感心する。
「スキフェス」は、まさにケットコム主催氏の柔軟な発想の賜物と言えよう。

隙間ジャンル即売会のオンリー開催に道を開き、かつそれを「売り」に転化する事にも成功した。
隙間ジャンルの活性化と動員面(=興行面)、双方を両立させる事の出来た即売会として、「スキフェス」の意義は非常に大きい。
【独特の「主催者募集」システム】

とは言え、元々が隙間ジャンル。1ジャンルごとのサークル参加数は10〜20台が殆ど。ジャンルによっては1桁となる事も決して珍しくない。
一方、用意する会場はPIOの大ホール。大ホールは300〜400sp規模が適正規模。少なくとも300sp埋まらないと、興行的には赤字転落の可能性も有り、厳しいものが。
1ジャンル平均15spと考えても、300sp埋めるには20ジャンル呼ばないと成り立たない。

そこでケットコムの取った工夫は、【主催者募集】という方法。
サークル募集なら話は分かるが、主催者募集を訴える即売会は、このスキフェスが本邦初ではないかw
もっとも、主催者の増加はサークル増加につながる。サークルを増やしたいのなら、主催の頭数も増やさないといけない。ある意味非常に理に適った動きだとも思うが…。

今回のスキフェスでは、主催者を広く募集する観点から、明確なルールづくりを行った。
以下、スキフェス公式サイトより抜粋。

>[07/06/13 改]主催者募集中!2007年6月末締切
>●基本的な考えとして、
>・主催者はイベントの趣旨、名称を考え、宣伝活動を行うものとする。
>・ケットコムは申込み事務、カタログ編集、当日運営、その他纏めを行うものとする。
>・ケットコムのSSL&クレジットカード決済対応のサークル参加申込フォームが使えます。
>・主催者はイベントサイト、チラシの表(裏はケットコムが作ります)を創ること。
>・主催の金銭的負担は、サイト構築&チラシ印刷等宣伝費のみで、
>サークル数に応じてサークル参加費の一部を主催者に返します。
>詳しい資料、取り決めを別途用意しておりますので、興味がありましたら、連絡ください。

各イベント主催はサークル集め、告知・宣伝活動に特化、総元締めのケットコムは金銭管理・申込事務・当日運営等を行う。
上手く役割分担、分業化が出来ていると思う。

通常、即売会の主催は、会場との折衝・カタログ編集等多くの雑務を抱える。これは一度経験しないとその大変さは判り辛いだろうが、思った以上に雑務の量が多く、皆主催は苦労している。慣れている主催さんならともかく、主催初体験の方は特に大変だろう。
これら本来主催が負うべき雑務をケットコムが引き受けてくれる事で、各主催は煩雑な業務から開放され、告知・宣伝に専念できる。主催未経験でも、主催に名乗りを上げ易くなり、即売会立ち上げの「門戸が広がった」「ハードルが低まった」と言えよう。
(余談だが、コミックシティのプチオンリーも、同様の理由で主催未経験者でも取っ付き易いと言えよう)

一方、ケットコムが引き受ける業務は、カタログ編集・当日運営・申込受付など。これは年間多数の即売会を運営し、充分なノウハウを蓄えているケットコムの得意分野である。ケットコムのノウハウを充分生かした役割分担と言えよう。
サークル対応においても、他のケットコム即売会同様、オンライン申込・クレジットカード決済等、個人レベル主催では最高峰レベルのシステムを利用できる。サークルが申し込むにも大変便利である。


ただ、唯一気になる事としては、ケットコムはともかく、各参加主催はどうあがいても赤字になりそうな所か。

>・主催の金銭的負担は、サイト構築&チラシ印刷等宣伝費のみで、
>サークル数に応じてサークル参加費の一部を主催者に返します。

黒字になった分を、サークル数で按分して主催に返金する、と言うことだろう。
だが、もし仮にトータル20万黒字として、300サークル中15サークル集めた主催に入る金は、黒字分全額が按分対象としても、200,000円×15/300=10,000円。
印刷代は少なくとも3万、チラシの内容・質いかんによっては10万近くかかる。
按分額が倍に増えたとしても、ペイできないと思う。最終的に幾ら按分されたかは不明だが、正直、チラシ代を賄うのもしんどいように思える。

ただ、サークル受付や決済・カタログ編集等の面倒な作業を、全てケットコムが請け負ってくれる事を考えると、多少赤字になったとしても、決して悪い条件ではないと考える。
それに、そもそも隙間ジャンルの即売会で、黒字を期待する方がおかしい、というか虫が良過ぎるw
黒字を狙いたい、儲けたいのなら他のジャンルを当たって下さい、という事でw

個人で会場借りて運営すれば、サークルが来なかったときなど10万単位の赤字になる事もザラだ。隙間ジャンル故、そうなる可能性は非常に高い。
チラシ代だけの赤字なら数万単位で済む。最低限の赤字負担で済むからまだ組し易い、という見方もできる。
(実は私も、サークルが集まらなさそうなマイナージャンルも色々出来そうだ、負担がチラシ代のみで済むのなら上等、とスキフェスの条件に魅力を感じたこともある。残念ながら主催活動のできる自由な時間が少なく断念したが、機会があればスキフェスに主催として参加してみたいものである)

それに、(告知力は落ちるが)思い切ってチラシ配布を取りやめ(or極めて小部数にして)、ネット上での告知に特化し経費節減を図る方法もある。
出来る限り多くのサークルを呼び寄せたい、その為の出費は厭わない、と言うことならガンガンチラシを刷ってガンガン撒けば良い。チラシを撒いても効果が薄いからネット告知に特化しよう、と言うのも一つの考え方だ。
そこら辺の匙加減は、それぞれの主催次第だろう。



【「隙間」の定義は?】

こうして多くの主催を募集した結果、ケットコム主催で6即売会、ケットコム以外の主催で16即売会、計22即売会を集めた。よくぞこれだけの即売会を集めたものである。

しかし、これだけ集まってもやはり隙間は隙間。1即売会毎に集められるサークルも、限りがある。
5〜6サークルしか集まらない即売会も、決して少なくない。1即売会毎に10サークルとしても、20即売会集まったところで200サークル。PIOを埋め切るには物足りない。

ケットコムもそれを見越し、PIOを埋めるべく策を講じた。
らき☆すたオンリー「春日部物産展」、グレンラガンオンリー「ドリルは男の魂」、涼宮ハルヒオンリー「来ないと死刑だから」、初音ミクオンリー「THE VOC@LOiD M@STER」等ケットコム主催の即売会を、スキフェス内で開催する旨発表した。

さて。一つ疑問がございます。


ど こ が 隙 間 ジ ャ ン ル な の で す か ?


いちいち説明するのも面倒だが、らき☆すたは先日開催されたオンリー「陵桜祭」が100サークル近く集まった。
涼宮ハルヒオンリーは以前ほどの勢いこそ無いかもしれないが、かつては100サークル集めた時もあるし、今年に入ってからもコミックシティ内のプチオンリーで100サークル集結した。
少なくとも、100サークルも集まるジャンルを「隙間」と言える辞書を、私は持ち合わせていない
グレンラガン・初音ミクにしても、今人気上昇中。これも「隙間」と言えるのか、非常に疑問である。
(この辺りは@++様「10/1 スキマってなにさ - 最近のケットコム」が詳しい)


PIO大ホールが埋まらない。それを埋めようと他の即売会を計画する。
埋まらなければ赤字、先立つモノが無いとイベントも開けない。
PIOを埋めようとテコ入れ図るのは、一向に構わない。

だが、そこで旬ジャンルを投入すれば、「スキフェス」は本来の意義たる「隙間ジャンル総合イベント」というコンセプトを失う
即売会の根幹に関わるアイデンティティの喪失であり、即売会自身の自殺行為でもある。それをスキフェスの元締めがやっちゃいかんだろう。余りにも節操が無い。

傍から見て、PIOが埋まりさえすれば中身はどうでも良い、という風にも見えるし、実際そうなのだろう。
ならば、半分をスキフェス、もう半分を旬ジャンルのオンリー、という具合にPIOを2分割して開催しても良かったのでは。それならばスキフェスのコンセプト、独自性も保てたはずだ。一般参加者の動員に不安があるなら、互いの即売会の相互入場を可する事で、旬ジャンルオンリーの参加者をスキマフェスに誘う事も出来る。
何もスキフェス内に組み込まなくとも、PIO穴埋め、テコ入れの方法は色々あったのではないかと思う。

実際、スキフェス内で当初開催予定だったらき☆すたオンリー「春日部物産展」は、ファンからクレームを受け、スキフェス内での開催を中止している。


>[07/07/27]次回「糟日部物産展2」を
>□2007/11/03(土:祝)東京:大田区産業プラザPiO1F 大展示ホール
>隙間ジャンル総合イベント「2007年スキマフェスティバル」[コス可]
>内に予定しておりましたが、「らき☆すた」は隙間じゃない!
>との意見を頂き、「糟日部物産展2」の開催は取り止めます。

至極真っ当な意見である。現況を見て「らき☆すた」を隙間ジャンルと捉える方がいらっしゃれば、是非お目にかかりたいものである。

と言うか、果たして「隙間」の定義は何なのか。ケットコム主催氏に小一時間問い詰めたい


スキマフェスは、隙間ジャンルの活性化という観点から、非常に意義深い即売会と考えている。
実際、今回は漫・F・画太郎オンリー「まさに外道!」、株投資関連オンリー「株けっと」、コピー誌オンリー「コ○ックマーケット」等、スキマフェスでないと開催しようの無い、独特の味わい深いオンリーも開催された
こう言ったマイナー・マニアックなジャンルを楽しめる事にこそ、スキフェスの意義がある。

しかし、今回のテコ入れ策で、スキフェスのコンセプトは曖昧模糊としたものに堕してしまった。。
次回スキマフェスの開催にも期待を寄せたい所だが、開催される前に、スキフェス主催氏には、「隙間ジャンル」の意味を今一度見つめなおして頂きたいと願う。



【成人向け頒布に関する規制】

今回、スキフェス開催2週間前に、都産貿台東館開催「東方不敗小町」における成人向け同人誌頒布禁止騒動に端を発した一連の騒動が巻き起こった。
この騒動に巻き込まれ、他の即売会も対応に迫られた。それはスキフェスも例外では無かった。

スキフェスの取った対策は、刑法175条や青少年育成条例を順守する旨の誓約書を、サークルに提出させた事にある。

何だかんだ言っても、刑法175条や青少年育成条例を一番順守すべき人間は、同人誌を頒布する立場にある「サークル」である。
頒布する立場にない主催や一般参加者よりも、順法意識を強く持って然るべきである。
「表現者としての責任」を自覚させる意味でも、サークルに同意書を提出させる行動は意義がある。
それに、「同意書」という形になるものを残す事により、主催側が刑法175条や青少年育成条例を守るようサークルに働きかけの努力をしている、証明ともなる。「アリバイ作り」的な意味合いもあろうか。

当日朝提出する形式を取った為、同意書確認に手間取り開場も遅れてしまったようだが、ここは数を重ね慣れて行く内に改善されるであろう。


また、サークルが出すPOP・表紙について、以下の事項を要請した。

>ポスター、ポップ、同人誌の表紙、など人目につく物について、
>過激な表現や下半身及び乳首が露出したイラストは掲示しないようにしてください。
>既に印刷された同人誌で表紙に上記のイラストが在る際は、
>積み重ねて販売して、一番上を”見本”として、
>値札、シールなどで隠して人目に付かないようにしてください。 

とりあえず「乳首NG」。乳首の表紙・POPへの露出も青少年育成条例に抵触しかねないから、という判断したのだろう。これも一つの考え方である。

(同人誌の表紙に関して、コスカは乳首OKと判断し、私は乳首は「グレー」じゃないか、と考えているが、その当たりの基準は人により分かれるのかもしれない。なお、POPの乳首がNGなのはコスカも自分もケットコムも共通。)

既刊本は値札やシールで該当箇所を隠そう、と乳首を隠しながら売る方法まで指南している


当日は、情勢を察したのか、殆ど全ての成人向け頒布サークルが、ケットコムの要請に従って乳首隠しの工夫を図られていた。

しかし、この要請を守らないサークルも一部存在した
私も、乳房乳首丸出しの成人向け本を出すサークルを何件か発見。ケットコム本部で「このサークルはケットコムさんの要請守らずおっぱい丸出しの本出してますぜ旦那」(意訳)とお知らせした事もあった。

だが、それに対するケットコムの反応は「放置」であった。
30分、1時間経っての当該サークルは、乳丸出しが表紙の本を売り続けており、ケットコムから指導が入った形跡も無かった。

大半のサークルは、主催の要請を忠実に守っている。
そんな中、主催の要請を守らないサークルを放置していては、真面目に要請を守っているサークルに示しが付かないのでは? そういう疑問も湧いてくる。
主催も、サークルに負担を要請している。それならそれで、それを徹底させるべきではないか。
要請を徹底させねば、要請に応え負担してくれるサークルに対して失礼である。
(これは、他の即売会にも言えることだが)

次の即売会を開催される折には、こう言った点の改善を望みたいものである。



【まとめ】
「スキフェス」は、隙間ジャンルの発表の場として、隙間ジャンルの活性化を図れる意義深い即売会である。ケットコムならではの独自性の高いアイディアが光っている。隙間ジャンルの人間にとっては、「光明」とも言える存在だ。

だが、即売会テコ入れの為に、旬ジャンル即売会をスキフェス内に組み込んで開催するのは問題だ。スキフェスのコンセプトが崩れてしまう。
テコ入れする事自体は反対ではないが、せめて会場を2分割して開催するとか、他の方法を取って欲しいもの。

また、一連の表現問題の余波を受け、諸々の対策を講じたが、サークルが要請を守らない時の対応に疑問を残した。

全般的に「スキフェス」は意義深い即売会で高く評価するのだが、次回開催の折には、上記指摘の問題点の改善に努めて頂きたいものである。