「大(9)州東方祭」に関する論評の続きです。
今回は、「大(9)州東方祭」における運営面の課題や、九州同人界…というか九州他主催に課せられし「課題」について論じたい。
最終的には、九州同人界全般に話が広がるかもしれないが、お付き合いを頂ければ幸いである。
【一部のベテランと大多数の新人スタッフで構成される組織の弱点】

前にも申し上げたが、「大(9)州東方祭」は、スタッフの7割が九州人だ。
一部他のイベントでスタッフ経験をお持ちの方もいらっしゃるようだが、元々九州は即売会も少なく、経験を積む機会も少ない。
また、「東方」だからという事で、スタッフを志願した方も多い。
彼らの殆どが、スタッフ未経験者。ぶっちゃけ前回の「博多東方祭」が唯一のスタッフ経験、今回が2回目という方も、決して少なくない。

一方、他県から召集したスタッフは、実績・経験・スキルともに申し分の無い方々が多い。
コミックマーケット等の大規模即売会で、列整理・混雑対応を経験、その経歴は十数年にも及ぶ大ベテランのスタッフも居る。
大規模即売会でのスタッフ経験も豊富で、自らオンリーイベントの主催を務めるスタッフも居る。
高いスキルの求められる厳しい環境の即売会に出ても、人並み以上の働きのできるスタッフが数多い。
彼らが、現場各部門の統括クラスを務め、要職を担うのは当然の事である。

乱暴に言えば、超の付くスペシャリストなベテランスタッフが何名か、幹部的な役割を担う。そしてその下に、経験の乏しい新入生スタッフが大多数、という構図だ。
佐官・将軍クラスはそこそこ居るが、それ以外は皆新米の兵隊。この両者の中間に入る軍曹格、すなわち部隊長・チームリーダークラスの役割を担う人材がいらっしゃらない。
中堅層が存在せず空洞の組織であり、組織としてのバランスは、極めて悪い。

その結果として起こった事は、上層部スタッフへの報告・連絡・相談の集中
即売会終了後、TAMUSICコンサート第二部が開催。その横で、即売会ブースの撤収が行われていたが、スタッフからの質問が集中し、上層部スタッフがオーバーヒートする光景を何度もお見かけした。
本来なら中堅層で部隊長を務める方が、スタッフから集まる報告・連絡・相談を受け、平易な内容ならば部隊長レベルで判断。部隊長レベルで判断し切れない内容を、上層部に上げる。
だが、中堅層が存在しない為、【平易な内容も含めて】全てのお伺いを上層部スタッフが受ける事になる。その結果、上層部スタッフがお伺いを処理しきれず大変な状況に。それが今回の「大(9)州東方祭」の、バランスの宜しくない組織で起こった光景だ。

ただ、これは「大(9)州東方祭」が批判されるべき点ではない。
何故なら、中堅層は多少のスタッフ経験が求められるが、元々九州は即売会スタッフを務める方も余り多くない。「博多東方祭」以前は、「スタッフの人材不足」を憂慮していた位だ。
元々のスタッフ人材が少ない以上、中堅層が居ないのも仕方無い。(寧ろ、スタッフを務めてくれる人材を何十人単位で発掘した功績を褒めるべき?)

だが、上層部にお伺いが集中する今の現状を、好ましいものとは考えていない。
大事なのは、現在【新人のスタッフを如何に育てていくか】という部分である。
いかに中堅層を担える所まで育って頂くか、その方法を考えていきたい。

「大(9)州東方祭」で得られる経験も決して少なくないが、年2回の限られた回数での開催。得られる経験値にも限りがある。
私は、「大(9)州東方祭」の新人スタッフの皆様には、「大(9)州東方祭」以外の即売会でもスタッフ参加し、積極的に知識と経験を積み、勉強して頂きたい、と考える。
「大(9)州東方祭」の世界に篭っていては、成長も限定的なものになる。

「大(9)州東方祭」は確かに素晴らしい即売会だが、世の中には様々な即売会がある。
他の即売会でスタッフとしての業務をより深く学ぶと共に、他の即売会の長所を学び「大(9)州東方祭」に生かせば、「大(9)州東方祭」は更に素晴らしいイベントになるだろう

例えば福岡には、福岡ドーム開催の「コミックシティ」が1500spを集め年3回の安定開催を続けている。
主催企業の赤ブーブー通信社は、同人誌即売会でメシを食っている企業ゆえ、即売会運営に対するプロフェッショナルの意識も高い。
この即売会から学べる点は多い。

ユウメディア主催の「コミックライブ」も面白い。
小倉のコミックライブは、使う会場が「大(9)州東方祭」と同じ西日本総合展示場だが、この会場をコミックライブはどう活用するのか?スタッフはどういう動きをするのか?という観点から研究するのも勉強になると思う。

この他、福岡市内の「モルティ天神」「都久志会館」「ももちパレス」といった会場で開かれる、100sp未満の小規模即売会でスタッフを務めるのも、違った意味で勉強になる。
「大(9)州東方祭」は100人の大所帯ゆえ分業制だが、こういう小さい会場での即売会は、一人で何役も仕事を受け持つ
様々な職務を体験でき、勉強の度合いも深まるだろう

「大(9)州東方祭」以外の東方オンリーにスタッフ参加するのも面白い。
近い所では来年2月の「東方椰麟祭」もあるし、久留米の「東方久遠境」もある。
「大(9)州東方祭」とは勝手の違う他の即売会で経験を積む事で、違った世界の物の見方を体験でき、視野も広がる

是非、「大(9)州東方祭」のスタッフの皆様には、他の即売会に積極的にスタッフ参加する事で、よりスタッフとしての勉強を深めていただくよう、お願い申し上げたい。
そして、「大(9)州東方祭」の幹部諸氏には、他のイベントで経験を積もうとする向上心のあるスタッフを、中堅層に重用するようお願いしたい

今は新人でも構わない。
しかし今後の努力を積み重ねる事で、よりスキルアップを図り、中堅を担えるまでに成長して頂きたい。
私はそのように考える。


【九州他オンリーに課せられし宿題】

「大(9)州東方祭」は、東方オンリー史上、そして九州同人史上に名を残す即売会である。
動員数3700、サークル参加300、スタッフ100人体制。全てが九州のこれまでの常識を覆す、規格外の盛り上がり方だった。
九州同人界に秘められし熱意と情熱を、見事に引き出した。
それに加え、参加者皆を楽しませる数多くの企画。サークルの頒布活動への影響も最小限に抑え、参加者の満足度を高め、そして「お祭り色」を強く演出した。
他の即売会が、ちょっとやそっとじゃ目指せない、そして真似の出来ない、大変に魅惑的な即売会となった。

しかし、「大(9)州東方祭」がここまで高い成果を上げてしまうと、後に続くオンリーもまた大変だ。
来年1月には「コミックシティ福岡」内にて開催されるプチオンリー「東方天神響」がある(私信>CIAさんレポよろしくw)。
また、2月末には久留米で「東方久遠境」が開催される。
どちらも、地元九州で実績を積んだ主催が開くオンリーゆえ、間違いはあり得ない。信頼感は高い。
ただ、「大(9)州東方祭」に参加した人々から見れば…特に「大(9)州東方祭」しか即売会に参加した事の無い方から見れば…「大(9)州東方祭」が基準になってしまうので、それとの比較で語られてしまいがちだ。
彼らにしてみれば、大分やりにくくなってしまったのでは?と心配になる。

ここで「大(9)州東方祭」に参加した皆様に申し上げたい。
これは今夏の「コミックマーケット76」カタログに寄稿したコラムでも触れた事だが、即売会は主催の個性が滲み出るもの。全国各地津々浦々、一つとして同じ即売会は無い
確かに「大(9)州東方祭」は素晴らしい即売会だ。だが、それと同じものを「天神響」や「久遠境」に求めないで頂きたい
「天神響」「久遠境」は、彼らなりの考えに基づき、別の考え方で即売会を演出する筈だ。
「大(9)州東方祭」と同じものを求めず、「天神響」「久遠境」ならではの「個性」をお楽しみ頂きたい、と思う。


そこで、「天神響」や「久遠境」が、如何に差別化を図りつつ、楽しい即売会を営むか。
色々方法はあると思うが、少なくともこれだけは確実に言える

「大(9)州東方祭」と同じ路線を歩んでも、二番煎じに見られ決して成功しない。

「天神響」も「久遠境」も、九州ではオールジャンル即売会で実績を上げ、ノウハウを積み重ねてきた。
「天神響」なりの、或いは「久遠境」なりの「個性の出し方」があると思う。

「天神響」も「久遠境」も、彼らならではの「強み」が存在する。
「天神響」はやはり、九州最大規模の即売会「コミックシティ」の中での開催。福岡サークルの集まり易い環境下での開催たる所が強みか。
九州3つの東方オンリーの中で、唯一「福岡市内」というアクセス面の優位も長所か。
そして「コミックシティ」は、「同人誌即売会」としての「場」の提供を重んじる即売会だ。本の売り買いを重んじた運営だ。
故に(東方で多く見かける)グッズサークルには敷居が高めという部分が弱みだが、それは本を中心に売り易い、買い易い。売り買いを求める層が参加しやすい、という長所と表裏一体である。
本の売り買いをし易い環境づくりを重んじる事で、「天神響」なりの独自性を出せそうだが、その代わりグッズサークルが参加しにくくなるかも。
勿論、グッズサークルに対し敷居を低くしてより多くのサークルを集める選択肢もあるが、その分独自性が弱くなる所が難点か。

「久遠境」は既に独自性を強く意識した戦略を取っている。
開催地近辺の大牟田・久留米を中心に、女性陣が多く参加する即売会を回り、女性向け色の強い東方サークルの掘り起こしに励んでいる。

東方は元々男性向けで育ったジャンル。大きいお友達な戦闘兵が渦巻き、男性向けの論理で即売会が行われている。
だが、サークルは女性が多い。女性の方でも、男性向けのあの雰囲気に慣れる人は慣れるだろうが、どうしても馴染めず、自ジャンルなのにアウェイ感を持つ方も少なくないだろう。
以前ユウメディア主催の「東方螺茶会」に対しても提言したが、女性向けに優しい即売会を志向する事で差別化を図る戦略は、一つの方法だ。
「久遠境」は、女性向けのサークルにも参加の敷居が低い、女性にも優しい即売会を志向しているようだ。

「大(9)州東方祭」が成功を修めた後だけに、「天神響」も「久遠境」も、少しやりにくい部分があるかもしれない。
だが、彼らなりの強みを見極め、独自性の強調を模索し、「大(9)州東方祭」とは違ったアプローチで、場を盛り上げていただきたい。

ぶっちゃけ「大(9)州東方祭」の一人勝ちじゃあ、九州の同人界も面白くない
既存のイベンターとしての意地を見せ、「大(9)州東方祭」とは違った面白さを見せて頂きたい。
…煽るような言い草かもしれないが、良い意味での「競争」が、更なる九州同人界の活性化に繋がる。だから私は、両即売会の奮起を心の底から祈念したい。


【最後に苦言を一つ】

ちょっと今回残念なのは、他の九州即売会の主催が会場に訪れた形跡が無かった事。
チラシを撒いた地元のイベントは、小倉の「コミックライブ」と福岡2月開催で立ち上がったオールジャンル「seekers」、そして「東方久遠境」ぐらいだ。…もっとこの場を告知に活用する、貪欲な主催は居ないのかしら。
(つーかぶっちゃけ山口県開催の「コミックサイト」はここで告知しないといかんでしょ、厳密には九州じゃないけど場所滅茶苦茶近いんだし。)

「大(9)州東方祭」は九州では異例の盛り上がりを見せた即売会で、九州では用いられて来なかった運営手法も積極的に取り入れている
既存の主催が学ぶべき要素も多く、九州の既存の主催は「大(9)州東方祭」を視察し学ぶべきかなとも思ったが、そういう動きが少ないのは残念だった。

東方は自ジャンルじゃないから興味をそそらない。そういう向きもいらっしゃるかも知れないが、学べる所も少なくない即売会だ。
話の種に…程度の興味の持ち方で結構なので、是非一度顔を出して頂きたいものである。
(それを自身の即売会で生かせれば、よりベターだろうか。)