12月5日、私は、「文学の即売会」と称される「文学フリマ」http://bunfree.net/にサークル参加させていただいた。
冬コミを除けば、2010年最後の即売会参加となろうか。
そこで見聞きし、感じた事を、以下記させていただきたい。

「文学フリマ」は、体裁としては「同人誌即売会」の形態を取っているが、即売会と異なる点も目に付く。
サークルの頒布物は、文学を中心とした文章系の作品。他の即売会では当たり前な、漫画作品の頒布が無い。
だからこそ、「評論」という形態で文章作品を頒布している自身のサークル活動内容とも親和性が高いと判断。今回のサークル参加に至った次第だが。

「文学フリマ」は、その歴史を紐解けば、2002年11月の開催がスタート。
当初は、文筆家の大塚英志氏、早稲田文学の市川真人氏、そして会場となった「青山ブックセンター」との共催という形式で開催された。
ルーツが文筆家の手による立ち上げたる所が、他の即売会との大きな違いであり、かつ「文学フリマ」ならではの生い立ちと言えようか。

第二回開催からは、有志が主催を引継ぎ、現在の体制に。
2004年の第3回開催時には、会場「青山ブックセンター」の経営破綻・閉鎖に伴い、会場変更・日程変更を強いられるハプニングにも見舞われたが、年1回ペースで安定開催を続け、サークル数・一般来場者数も右肩上がりで増加していった。
現在は、開催ペースを年2回に増やして開催。
会場も、サークル参加規模の増加に伴い、東京都中小企業振興公社から大田区産業プラザPiOに移転。
今回は、PIOの大・小ホール両方をフルに利用するほどの規模で、参加サークルは544サークル。
一般来場者も総勢3400人に及んだ。

サークル・一般を問わず、参加者を見た限りは、普段の同人誌即売会に比べ相当に毛色が違うように思う。
サークルは定期的に文学雑誌を出す会員制のサークルあり、小説家の卵あり。
参加者の年齢層も、中高年が多い。
全般的に見て、「コミケ」とか「同人誌」とか「オタ」の世界に余り詳しくない一般人が多いように思える。
表向きの形こそ「同人誌即売会」の形態を取っているものの、実質的にはオタ連中の集いではなく、文学好きの皆様の集いのような気がする。

だが、それは裏を返せば、即売会形式のイベントに参加者が慣れていない、という事にもなる。

文学フリマは、参加者の「割り込み」の多いイベントである。
サークルの売り場の目の前に、買い手が立つ。だが、目の前のサークルには目もくれず、隣のサークルを物色する。何故そうするか、それはお目当てのサークルの列に並ぶ事せず、一刻も早くそのサークルの頒布物を手に取りたいからだ。
だが、サークルの立場からすると、目の前の買い手は、自分のサークルの本を手にとってくれない。人一人が目の前に立てば、そのサークルの売り場はほぼ塞がれ、貴重な頒布の機会が奪われる。
正直誰得の感があり、サークルとしては面白くない…というか明らかに不愉快だ。
即売会の世界において、この「割り込み」はマナー違反であり、買い手も注意すべきであると共に、売り手側も気付き次第買い手に注意を促す必要がある。

コミケ以下様々な即売会で訓練された戦闘兵なら、そのあたりのマナーも当然習熟している。
だが、文学フリマは、文学好きの集まりに過ぎず、即売会の流儀に不慣れな方が多い。「戦闘兵」たちのようには行かない。
この手の割り込みは相当多い模様だ。

文学フリマ公式サイトには、こんな呼びかけが掲示されている。

>過去の文学フリマにおいて「隣のブースのお客さんに自分のブースの前をふさがれてしまう」という問題が発生しています。イベント当日、事務局に数件の訴えが寄せられた他、アンケートでもこのクレームが年々増加傾向にあります。

サークル案内にも同様の事が書かれており、サークルへの呼びかけを行っている。
だがそれでも尚、改善が図れていないようであり、実は私も、その被害に遭った一人となった。
いや、少しの時間前を塞がれる程度なら自分も我慢しますよ。一過性のものですし、不可抗力的なものだってあるかもしれない。
だが、それが2〜3時間で何十回も発生し、しかも私の前に突っ立ってる買い手に、私のサークルスペースをまたいで隣のサークルが頒布物を手渡すなんて話になってくれば(そもそも頒布物手渡す前に、隣のサークルにはみ出さないようサークルが注意するべき)、流石に看過できない。
結局、隣のサークル、そして目の前を塞いだ買い手に相当厳しくお説教する事となった。
…こういうお説教だの叱責だのって、される方も気分宜しくないだろうが、する方も良い気分しないな。

何故このようなマナー違反が横行するのか。
web上、そしてサークル案内を通じてサークルに呼びかけているにも関わらず、である。
もちろん、参加者が「即売会に不慣れだから」というのもあると思う。
それに加えもう一つ申すならば、サークルには呼びかけども、一般参加者への浸透が極めて行き届かない状況になっているが故に、この状況なのではないかと考える。

思えば、諸注意の書いてあるカタログだって、参加者全員購入制ではない。
無料配布ではあるが、カタログを手に取らなくとも会場内には入れる。つまり、諸注意に目を通す事なく買い物が出来る、と言う状況だ。
これでは、買い手に対しマナーを守るよう呼びかけていないも同然だ。サークルだけに呼びかけても、片手落ちだと思う。

注意書きの書いてあるカタログが無料だろうと有料だろうと構わないが、いずれにせよ、買い手全員に確実に手渡しできる体制を考えるべきではないかと思う。
有料にして全員購入制にするのも一つの案だし、無料にするなら一般参加者皆にカタログを確実に配布するべき。カタログ配布が無理なら、注意書きを書いた簡易リーフレットを渡すだけでも良い。
いずれにせよ、参加者が即売会に不慣れで、下手すると、マナーが存在する事すら分かっていない方もいらっしゃる。
ならば、他の即売会以上に、参加者啓蒙は欠かせない。
啓蒙せねば、マナーに違反している事すら気付かずに終わる恐れもある。

文章系にとって貴重な発表の場であり、今後も参加を検討したい即売会ではあるものの、マナー違反の横行だけは残念でならない。

最後に、文学フリマ「ならでは」の面白い取り組みをご紹介したい。
文学フリマのカタログには、「サークルカット」が存在しない。サークルカットの代わりに、文章で自らのサークルをアピールする形式だ。

これを普通の即売会で取り入れようものならば、主催を右ストレートで思いっきりぶん殴りたくなるだろう。
サークルの大半は、イラストで勝負するサークルだ。
イラストで己をアピールせねば、充分にアピールし切れない。

だが、「文学フリマ」は文章で勝負する人間の集まりである。
ならば、文章で己をアピールさせるというやり方は、極めて理に叶った方法。文章書きというクラスタに局所最適化された取り組みである。
私自身も、物書きであるがゆえに、普段のサークルカットよりも、こういう文章系の方が自分自身をアピールしやすかったかも…?。
普段の即売会で同じ事やったら青龍方片手に暴れるが、文章オンリーの「文学フリマ」だからこそ許される取り組みだし、賞賛されるべき取り組みだと思う。