2010年代に入り、大学や専門学校の中で開催される「同人誌即売会」が少し増えてきたような気がする。
学内の学生団体(学生サークルなど)が即売会の運営に臨む、というパターンが多いようにお見受けする。また、学園祭内部の1企画としての開催が多いようにも思える。

学生団体による即売会の利点としては

1.学校施設を利用するため、使用料が相場に比べ極めて破格
(タダのケースもあり得る/その分サークル参加費も安くなる)

2.学内コミュニティ・学内ネットワークで告知を図り、学内団体へのサークル参加を促しやすい(サークル集めにアドバンテージ

3.学生団体による運営のため、(個人主催に比べ)主催個人に負担が集中せず個々のリスクが軽減。即売会の継続性も高まる。

4.新入生勧誘で毎年若い人材が入ってくるので、スタッフ人材が育ちやすい
(その反面、経験を積んだスタッフの「卒業」で必ず人材が流出するが…)

といった点が挙げられる。
また、個人的には、衰退傾向の既存オールジャンル同人誌即売会に代わり、若手サークルにとっての「発表の受け皿」としての意義も見出している。
事実、即売会が撤退した都道府県/地域において、学内の同人誌即売会がその都道府県/地域における「唯一の同人誌即売会」というケースすらも見られる。

さて、実はこの手の「学内」開催同人誌即売会は、その学校の「カラー」が相当反映されていると思う。
女子大・専門学校のように、女学生の多い学校での開催だと、参加者は当然女性陣が多い。女性向けジャンルの参加が多かったり、グッズ・ラミカ・アクセサリーの頒布サークルが多かったり…と地場のオールジャンル同人誌即売会に近い雰囲気を感じるケースが多い。
一方、男子学生が多い都内私大とかだと、東方・アイマス等男性向けジャンルの参加者が多く、男性向けオールジャンル同人誌即売会っぽい雰囲気だったり。

では、我が国の大学「最高峰」と見られる東京大学の同人誌即売会はどうだろうか?
冬コミ前の原稿追い込み時期ではあるものの、スケジュールの都合が付いたので、東大駒場キャンパスの学園祭「駒場祭」内で開催された「コミックアカデミー」に足を運んでみた。
(注)「コミックアカデミー」は、東大文京キャンパスの学園祭「五月祭」内の開催と、今回の「駒場祭」内での開催と、年2回の開催

当サークルの「字ばっかり」本なら東大の皆さん面白がって読んでくれるかも?という淡い期待も持ってはいるので、本当ならサークル参加したかったところだが、残念ながらこの即売会、サークル参加資格は現役学生やOB・OG、教職員など「東大関係者」のみという展開…
これに該当しない自分はサークル参加叶わず(涙)。まあ、そういうレギュレーションだから仕方ないか。というわけで、一般の買い手として参加する。

「コミックアカデミー」は、学内の教室を借りての開催。
机椅子は、学内の設備をそのまま流用できる点が、学内即売会ならでは。ただ学習机サイスで幅が狭いので、机1つで1spという運用を取っている。

雰囲気としては、男子学生が多い東大だけあって、男性向けオールジャンル同人誌即売会に近い雰囲気。
ただ参加者の年齢層は、30代の多い他所の男性向け系統即売会に比べると二回り位若い。その「若さ」が、学内の即売会ならでは、とも言えようか。

なお、女子率は「ゼロパーセント」だったことも併せ申し上げたいw
(いや、女子大・専門学校の即売会だと男子は俺1人という展開すらありましたので…その格差がすげえ対照的だなあと…/汗)

サークル規模は、26サークル32spぐらい。
サークルリストを見ると、「東大●●研究会」といった学内サークルの参加が多いように思える。

それが影響しているのかもしれないが、ジャンル傾向を見ると最大手が「評論」系で5サークル。東方Projectがそれに続き3〜4サークルといったところか。
うーむ、流石東大。流石「コミックアカデミー」と名付けるだけのことはある、と妙に納得w

何サークルか本を拝見すると、特定の分野を徹底的に掘り下げたマニアックかつ凝りに凝りまくった内容が多い。こういう作品こそ、同人誌即売会における「評論」ジャンルの醍醐味なのだが…
彼らは「東大」だし、基本的にはメチャクチャ頭のいい奴らだ。そういう頭のいい奴らがオタクに転じると、凝ったもん創り出す傾向にある。
評論ジャンルを「沼」と評する方も世の中にはいらっしゃるが、その「沼」となるべき評論の魅力を「コミックアカデミー」は濃縮しているのかもしれない…


また、もう一つ注目したい点として、「コミックアカデミー」が創作初心者に道を開こうとする試みを取り上げたい。

「コミックアカデミー」では、通常の「サークル参加」とは別枠で「合同誌参加」を募集している。

確かにサークル活動は楽しいが、印刷代・サークル参加費など、初期負担が経済的に重い。また、何十ページの本を一人でつくり上げるのも、慣れれば何とかなるかもしれないが、時間的制約も大きい。
サークル活動もそれなりに手間暇かかる訳で、これはサークル初心者とっては、大きな「壁」に見えるだろう。(私も同人界入りたての頃はそうだった)
サークル参加の「最初の一歩」を踏み出すのは、案外決心が要るのではないか。

創作意欲はある。でも本にまでするのは大変。
そういう方々に対し「1ページからでも参加可能」とすることで道を開き、創作の楽しみを味わって貰おう。そういうコンセプトだろう。

他にも、学内で「創作体験会」を開催。イラスト体験・DTM体験を通じ、創作活動へのハードルを下げ、創作の良さを体験して貰おうと意図しているようだ。

これを足掛かりに創作の楽しみを知ってもらえれば、それに味を占めてそのうちpixiv・Twitter等に絵を上げる方も出てくるかもしれない。
場合によっては、サークル参加に乗り出す方も出てくるかもしれない。
東大「コミックアカデミー」の初心者に門戸を開く取組は、創作活動の裾野を広げるのみならず、将来への可能性も期待できる試みだろう。